軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十八話

カーテンの隙間から差し込む朝日を浴びながら、俺は僅かに目を開ける。

(柔らかい。それに妙にいい匂いがする)

布団とは異なる柔らかさ、クッションじみた、それでいて俺を包み込むような柔らかさを感じていた。

匂いも、嗅ぐだけで落ち着くというか、安心する、そんな香りだった。

意識がまどろむ中、俺は不思議な心地良さを感じていたこともあって、もうひと眠りしようと思い、再び目を瞑る。

(………ん?あっ)

目を閉じてから数秒後、この柔らかさと匂いの正体に、当たりをつけた俺の意識が自然と覚醒した。

俺が目を開けると、そこには規則正しい呼吸をしながら、気持ちよさそうに眠っているヴァルがいる。

俺とヴァルは、以前から時々一緒に寝ていた、というか、ヴァルが俺のベッドの中に入ってきているというのが正しい。従属化の影響か、彼女は俺の近くにいると安心する時があるようだ。

それはヴァルが喋れるようになってからも続いており、あの日から一週間が経過した現在も時折、俺のベッドにもぐりこんで、一緒に寝ていた。

普段からこうでないのは幸いであるが、この前、ハイ・ライカン・スケルトンの魔核を吸収した影響で、明らかに身体は人間のものになっている。

それだけでなく、匂いも人間のものに近く?なっており、パスがつながっているからか、嗅ぐと妙な安心感があるのだ。

(これじゃあ、ヴァルと一緒だな)

近くにいると安心するという感覚は一緒なので、正直のけたいという気持ちがあまり起きない。

道徳的には一緒に寝ない方が良いということは分かっているのであるが、むしろ、油断しているとこのまま二度寝に入ってしまいそうになり……。

「伊藤さん、おはようございます」

「ひょえ!?」

再び眠りの世界に戻ろうとしたのも束の間、東雲の声が聞こえたので仕方なく目を開けると、目の前に彼女の顔があった。

(こっ、こええぇぇ……)

東雲は客観的に見ても、かなりの美少女だ。

(命知らずから)ナンパされたりもしているし、ふと見た時には俺も思わず視線が固定されるほどに、美しい顔立ちをしている。

そんな整った造形をした顔も、というか、整っているからこそ、突然目の前に現れると恐怖しかなかった。

起きた当初は、近くにいる気配がしていなかったのだから、なおのこと怖い。

「二度寝はダメですよ。今日は東京に戻る日なんですから」

東雲が窘めるように言うのに対して、その言葉を咀嚼した俺は黙って頷いた。

(そうだった。今日は長野から東京に戻る日だ)

刀(魔剣)を手に入れてから数日間は観光などを楽しみ、後はホテルのアミューズメントなどの施設を利用して、休暇を満喫していた。

寝起きで頭が正常に働いていなかったこともあり、今日が東京に帰る日であることを、忘れていたのである。

俺がボーっと今日の予定を思い出していると、横でスパーンッといい音が聞こえてきた。

「んぅ、いたい」

東雲がヴァルの尻をひっぱたいていた。

ちなみに最近のヴァルは衣服を身に着けない、なんてことはなく、今もしっかりとパジャマを着ている。

(むしろ、薄着気味なのは東雲なんだよな)

結構、ずぼらな所があるのか、普段はヴァルに注意していた東雲は、ホテルで過ごす間、わりと薄着でいることが多い。

薄着と言っても肌の露出が多い程度で、下着だけなんて漫画みたいなことはないのだが、それでも目のやり場に困る時があった。

「早く顔を洗ってきなさい。……伊藤さんもですよ」

やばい、矛先がこっちに向きそうだ。

俺は慌てて、洗面台のある部屋に駆け込んでいく。

顔を洗い、歯磨きをしていると、目をこすりながらヴァルがやって来た。

「かお、あらいにきた」

俺が洗面台から退くと、バシャバシャと音を立てながら顔を洗い始める。

ヴァルの姿をのんびりと眺めながら、普段よりも歯を綺麗に磨いていく。

「ちょっといいか」

ある程度綺麗に磨き終わったので、ヴァルと位置を交代する。

ヴァルはタオルで顔を拭くと、大きなあくびをしていた。

彼女の姿を尻目に、口をゆすぐ。

俺にとってはありふれた、日常的な風景がそこにはあった。