作品タイトル不明
第百二十七話
掘り出し物を手に入れ、ホクホク顔でホテルの部屋に戻った俺は、少し冷静さを取り戻し、まじまじと刀を眺める。
黒を基調としたデザインの刀は一見すると、普通の刀であるが、その正体は魔力を吸収し進化するタイプの魔剣であった。
(一体、どうしてこんなものが売られていたんだか)
一般的な魔導具は、魔核を嵌め込むことでそれを動力源とし、強力無比な武器となるのが大半だ。
何処を見ても、この刀には一般的な魔導具にあるような、魔核を装着する場所はない。
冷静に考えてみると、現代の常識からかけ離れており、些か、奇妙であった。
試しに、俺が鞘から刀を引き抜いてみると、心なしか刀身が輝いているように見える。
手のひらから魔力を吸収される感覚があるので、この刀が俺の魔力を吸い取っていることは間違いない。
問題は、その魔剣をどうやって作ったのかだ。
俺の知識では、進化するタイプの魔剣は主に 鍛(・) 冶(・) 師(・) が作るものだ。
現在、魔導具師のセオリーとなっているのは、開発者タイプの魔導具師であり、職人タイプの魔導具師は少数派である。
(思い付きなのか…?)
少数派であることもあり、企業には属しにくい。そんな職人気質の魔導具師が、なにかしらの思い付きで作ったものが、たまたま魔剣となった。
そう考えるのが、とりあえずは妥当であった。
(魔剣の強化、やってみるか)
この刀が魔剣だと分かったのは、スキル【魔術】によってインストールされた、ある魔術を通して魔剣を強化する方法が知識の中に含まれていたからに過ぎない。
その強化方法であるが、【魔力放出】を発動し、通常の吸収より多くの魔力を魔剣に供給するといった方法であった。
【魔力放出】とは微弱な魔力を体内から、体外に放出する魔術であり、最も初歩的な魔術とされている。
この魔術は、初級の魔術師が、魔力の操作感覚を身につけるためというのもあるが、最大のストロングポイントは、長時間魔力を使うことで魔力量の最大値が伸ばすことが可能な点であった。
特に低レベルの段階で魔力量の限界を引き上げやすく、俺も低レベルの頃に【魔力放出】を使ったことで、魔力量の最大値を引き上げていた。
また、【魔力放出】は、他の攻撃魔術のように魔力を特定の現象に変換するのではなく、魔力を体内から体外に放出することで完成されている。
純粋に魔力を内から外に出すことに特化している為、魔力の供給によって魔剣の強化も可能となっていた。
(おお)
俺が【魔力放出】を使って、刀に魔力を送り込むと、最初こそ一定のペースで魔力が吸われていったが、時間を経るごとに吸収される量が増していく。
元々吸収をセーブしていたのか、始めてから5分ほど経過する頃には、刀は魔力の制御を奪うような勢いで吸っていた。
流石に危ないと感じた俺は、キッチリと魔力の制御を奪い返し、安定したペースで魔力を送り続けることに成功する。
もし、魔力の制御を奪われれば、状況次第では魔力を吸いつくされ、失神するはめになっていた。
それからも慎重に魔力を制御しながら、安定したペースでの魔力の供給を続ける。
魔力を吸収し進化するタイプの魔剣は、一定量の魔力を吸えば、吸うことを止めるが、はたして限界はどの程度なのか。
いざとなれば、魔力回復のポーションがあるが、アレは高価なのであまり使いたい手段ではなかった。
(やっと終わった)
それから更に一時間以上経過し、残り魔力量が20パーセント程度のところで、刀は魔力を吸うことを止めた。
(見た目に一切変化はないが……)
刀を見ても、特に変わった箇所というものは見受けられない。
だが、手のひらから感じる刀の重みは、明らかに変わっていた。
例えるならば、羽根のようであり、刀の重みはほとんど消失している。
俺は周りを見回したのち、刀を軽く振ってみると、驚くほど速く振ることができた。
(なんだこれ、すげぇ)
今まで感じたことない、感覚に心臓が高鳴り、あっさりと童心に帰ってしまう。
このタイプの魔剣は魔力の供給が滞り続けると、徐々にその力を失っていく。
力を失った魔剣は折れやすいなまくらに戻るので、魔力を自在に供給することができない場合は却っては使いにくい武器となるのだ。
そう、魔力を自在に供給できる俺を除いて。
(これが俺専用の武器)
オーダーメイドという形ではないものの、自分専用の武器を持つというシチュエーションに、俺はいつになく高揚感を感じていた。
心が高ぶったまま、俺は周りにぶつけないよう気をつけながら、再び刀を振り始める。
「戻りました~……伊藤さん」
いつ頃戻ったのか、東雲が冷たい目で俺を見てくるまで、ひたすらに刀を振り続けるのであった。