作品タイトル不明
第百二十六話
あの後、山内さんと軽くおしゃべりをしてから、連絡先を交換して、お開きとなった。
現在、俺は、ホテル内のレストランにおり、注文した料理を待ちながら、山内さんから貰った名刺を呑気に眺めていた。
連絡先として貰った名刺には所属クラン、Cランク探索者であることが書かれており、彼女が優秀な探索者であることを表している。
(次に会う時があれば、その時はBランクになっているかねぇ)
あの若さでCランクである。今の段階で、俺と模擬戦が可能であることから、レベル200にかなり近いはずだ。
(あとは周りだが)
人間は周りに良くも悪くも左右されてしまう。
彼女の熱意は申し分ないが、組んでいるチームや所属しているクランのメンバーがどんな人物かによっても将来が大きく分かれてしまう可能性があった。
(山内さんが言うには、チームメンバーも意識は高いらしいが……)
探索者としての能力はしっかりとあるらしく、鍛錬も怠っていないらしい。
彼女の戦いぶりはチームを意識したものであった。
チームでの連携を考えるなら、単独でモンスターを倒すということはあまりなく、役割を分担して、リスクの少ない戦いを行うのが常である。
山内さんの動きはチームでの戦いを想定すれば、そこまで悪くはなく、それについていくには、相応の実力は必要であった。
「海鮮グリルでございます」
考え事がヒートアップする前に、店員が注文の品を持ってきた。
(うまそう)
海鮮グリルの内容はグリルは大粒のホタテと大きな海老がそれぞれ二つ、あとはいくつか付け合わせが置いてある。
どちらの海鮮も、ダンジョンによって大きく発展した科学技術によって、安価で美味しいものとなっているため、ボリュームの割に値段はそこまで高くはない。
俺は早速、ナイフとフォークを使って切り分けていく。
かなり大きいので、切りごたえがあった。
(海老もホタテも甘みが凄い)
海老を一切れ口に入れると、濃厚な海老の旨味と甘みが口いっぱいに広がった。
続いて、ホタテを口に頬張る。こちらも旨味と甘みが凝縮された汁が噛むたびに口の中で広がり、あまりの美味しさに疲れが自然と抜けていく。
今回は模擬戦後ということもあり、食事がよりおいしく感じられた。
(最高だ)
俺は一言、心の中でそう溢すのであった。
♦♦♦
俺は海鮮グリルを楽しんだ後、軽い散歩がてら、宿泊するホテル内にある武器・防具の専門店に来ていた。
(すげぇ)
ホテル内にあると聞くとお土産物屋のようなイメージが湧くと思うが、ここは違う。
巨大なフロアに探索者向けの武器や防具がずらりと並んでおり、防犯のためか目に映るだけで10台以上の監視カメラが設置されていた。
(目移りするなぁ)
戦いでは魔術がベースとなるが、武器というものに対して関心がないわけではない。
なにより、自身も刀を装備しているので、刀やナイフなどには自然と興味が湧いていた。
(ただ、実力がまだまだだからなぁ)
山内さんとの模擬戦で、自身の強さを客観的に見やすくはなったものの、その強さが絶対的にも引きあがったわけではない。
ヴァルはこの前、ハイ・ライカン・スケルトンの魔核を吸収したことで、以前よりも強くなっている。
東雲(しののめ) に関しては、未だ底が全く見えない領域におり、決して彼女たちとの距離が近くなったことを表してはいない。
(でも、やっぱり気になるな)
模擬戦による高揚感がまだ残っているのもあるのだろう。食事後には自然と、この店に足が向いていた。
余計なことを考えるのを止め、俺は早速、近くにあったナイフのコーナーへと向かった。
コーナーには、シンプルな片刃のナイフや分厚い刃のものを含め、色々な形状をしたナイフが百種類は置かれていた。
前者は主に戦闘用で、後者は探索で木々を切ったり、素材を取るためなど、色々な用途対応したものであろう。勿論、分厚い刃をしているため、無理やり使っても壊れにくいのは利点としてあり、戦いにも用いることができる。
(これは、なんだ?)
ドリル状の変わった形のナイフがある。
斬ることには向いていないように見えるため、戦闘用だろうということは分かった。
(刀でも見るか)
ナイフに関しては、長野に来る前に一本買っていたため、見ただけで満足したため、次に刀のコーナーに向かう。
これだけ豊富な種類のナイフがあるのだから、もしかしたらいい刀があればという考えがあった。
(おお)
いざ、刀が置いてある区画に行くと、そこにはナイフ以上の数の刀が置かれてあるように思える。
小太刀や大太刀など、大きさも様々なので当然であるが、刀がずらりと並んでいる様子に、先程よりも圧倒された。
(値段もかなりするな)
並んでいる刀の値札を順次見ていくと、かなりの値段がするものが多いことがわかる。
何十本もの刀を見ていく中で、一本だけ、見た目の割に妙に安い刀が置かれているのが目についた。
(これは…)
色々な角度から刀を見ても、別に古びているわけではない。
俺が普段使用している刀型のブレードと比較しても、明らかに業物だと分かる。
にもかかわらず、値段に関しては一般的に売られているものよりも少し高い程度であった。
疑問に思った俺は、近くにいた店員を呼んだ。
鍛えられた体つきをしている若い男性の店員が、営業スマイルを浮かべつつ、駆け足でこちらに来る。
そして、俺が指を指す方向を見ると、僅かであるが眉が上がった。
「すみません、これを見せてもらってもいいですか」
「ああ……お客様、これなのですが、一応商品として置いているのですが、実戦でお使いすることはお勧めできないものなんです」
そうは言いつつも、店員は刀をガラスケースから取り出す。
「何か曰くつきなのか」
(ダンジョンの呪いがあったりして)
ダンジョン産の武器などには呪いが掛けられている場合がある。
呪いの武器と巷で言われているもので、一般的には高レベルの【呪術】スキル持ちによって、解呪されたものが店頭に並んでいる。
「いえ……実は、これは店長の知り合いの魔導具師が作った試作品でして、商品には適していないんですよ」
店員が耳打ちするように言ってくる。
(そういうことか)
店員の言葉に、俺は直ぐに合点がいった。
ダンジョンによってもたらされた技術を利用して、武器や防具を作る職人を魔導具師と呼ぶ。
彼らは探索者が使用する武器・防具作成のスペシャリストであり、特に高位の探索者に向けてオーダーメイドの武器を作るのが主となっている。メンテナンスも行っており、専門職ということもあって、 成(・) 功(・) し(・) た(・) 者(・) の給料はかなりいい。
ただ、この魔導具師、下積み時代がかなり大変なのである。
企業に所属できるほどに優秀な者はいいが、企業にはかなりの数の魔導具師がいるため、経験の浅い者の多くは個人で活動することとなり、下積みとして、企業の下請けのような仕事をすることになる。
下積み時代は、量産型の魔導具の一部工程や部品の作成を企業から依頼されるのが主だ。これがかなり大変なのだが、自身の独自性を失っては魔導具師としては消費されるだけで終わってしまうため、時間を捻出してオリジナルの武器か防具を作る必要がある。
そして、それを伝手を使って、なんとか売りに出すのだ。
目の前にある刀もそうした下積み時代の魔導具師が作った一品なのだろう。
ここはホテルであり、観光に来て気分が良くなっている客も多い。
探索者も人間であり、命を懸けて戦っている以上、休息も必要である。気を抜いた探索者が試しに買っていくのではないか、そんな打算が込められているのであろう。
「一応、見せてもらってもいいか?」
店員から刀を受け取る。
見た目以上にずっしりとした重みを感じた。
ミスリルのような高価なものではないが、恐らくは魔核と金属によって作られた、魔導金属が使用されている。
受け取った刀を鞘から抜くと、鈍い銀色の刀身が存在を露にした。
(これは……)
刀を抜いて早々に、俺は違和感を感じる。
僅かにであるが、魔力を吸われる感覚があった。
それも刀が呼吸をするようにして。
(もしかして)
思案して直ぐに、スキル【魔術】によって覚えることとなった知識と、この刀が紐つく。
俺が手にしている刀は、インストールされた知識によれば、広義で言うところの 魔(・) 剣(・) であった。
この世界の常識として、魔剣は強力な魔導具として、高位の探索者の武器として使用されている。
魔剣は巨大な魔核を燃料に、その効果を発揮するのが常であり、燃料がある限りは定常的な強さを持ち続ける。
一般的な魔剣は 最(・) 初(・) か(・) ら(・) 完(・) 成(・) さ(・) れ(・) て(・) い(・) る(・) のだ。
(だが、この刀は違う)
この刀は、この世界の常識では魔剣に分類されていない。
【魔術】の知識によれば、優れた鍛冶師が魔導金属を用いて作る一品。
最初こそ、そこらのなまくら同然のモノであるが、その真価は使い続けることで発揮される。
使(・) 用(・) 者(・) の(・) 魔(・) 力(・) を(・) 吸(・) い(・) 取(・) る(・) こ(・) と(・) で(・) 進(・) 化(・) す(・) る(・) 、妖刀とも呼べるような、その性質こそが、この刀を魔剣と呼ぶ所以であった。
「これ、買います」
俺はいつになく真剣な表情で、店員にそう言った。