軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十五話

結局のところ、俺と山内さんの差が埋まることはなかった。

「そろそろ、止めにしないか」

あれからざっと、20回ほど戦い、いずれも俺のブレードが急所を打ち抜き、そこで模擬戦が終わっていた。

トレーニングルームを使えるのは、あと10分であり、ギリギリまで使うつもりはない。

「ふぅううぅ、まだいけます」

俺は呼吸を乱していないが、山内さんは完全に息が上がっていた。

髪の毛も乱れ、一部が顔に張り付くほどに、汗をびっしょりと掻いており、傍から見て体力的にはかなり厳しい状態である。

それでも、彼女がまだ戦うことを選択するのは、闘争本能が刺激されてなのか。はたまた、負けて悔しいからなのか。

(あるいは…)

なにか、目指しているモノがあるのか。

それは俺には分からない。

(ただ、今の俺に分かることは、彼女の目が死んでいないことだけだ)

山内さんの目の奥が爛々と光っている。

力はまだ抜けきっていないおらず、気力で身体を支えている。その精神の強さは驚嘆に値した。

(正直、ムカついてこととかどうでも良くなったしな)

ここまで一生懸命に戦いを挑まれると、むしろ清々しい気分だ。

山内さんがどう思っているかは知らないが、現在の俺は好感すら覚えている。

(仕方ないな)

「じゃあ、最後にもう一戦やろう。それで最後だ」

返事をする気力もないのか、構えを取りながらじっとこちらを見る山内さん。

俺もそれに応えるように、ブレードを構える。

「ヤァッ」

最後の気力を振り絞るように、山内さんは一気に間合いを詰めてきた。

踏み込むと同時に、放ってきたのは突き。

戦いの中で成長したのか。もしくは最後の気力によって放たれたからか。山内さんの放った突きはこれまで受けた中で一番、速かった。

(それでも差は覆らない)

俺は冷静に距離を判断し、山内さんのブレードを絡めとるようにして弾いた。

(重いが…)

速く、そして、重い。攻撃としては最上の一撃であった。

しかし、今回はそれが災いする。一撃が重たい分、俺がブレードを絡めとったことで、山内さんは体勢を大きく崩すことになる。

俺はその隙を逃さず、絡めとった時の重心移動を上手く生かしながら、威力の籠った横なぎの一撃を浴びせた。

捌いて、崩してからの完璧な一撃は、彼女の胴を抉るようにして入る。

最後の気力を絞っていたからか、さしもの山内さんも、前のめりに倒れ込んだ。

(凄い、気力だったな)

本当にとんでもない気力だ。俺は心の中で賞賛しつつ、倒れ込む彼女を支えるようにして、受けとめた。

♦♦♦

「大丈夫か」

模擬戦用のトレーニングルームを出た俺たちは、近くのベンチで休憩を取っていた。

「はぁ、はい。なんとか」

ちなみに、山内さんはベンチで仰向けになって寝っ転がっている。

気丈にも座って休憩しようとしていたが、流石に俺が止めた。

「スポドリで良かったか?水も買ってあるが」

山内さんが休息を取っている間に、俺は近場の自販機でスポドリとミネラルウォーターを買っていた。

「はい。一応、水も置いておいてもらえると助かります」

「了解」

スポドリを渡し、ミネラルウォーターを手に取れる位置に置く。

山内さんが起き上がって、スポドリを飲み始めたのを見届けてから、俺は自分用で買っていたスポドリを飲んだ。

(うまいなぁ)

普段はこの甘ったるさはそこまで好きではないが、運動後はこの甘さが心地いい。

水も悪くはないが、思ったりよりも汗だくになったので、今回はスポドリを選んだ。

「少しは回復したか?」

「えぇ、だいぶ」

あれから5分くらい、寝転がっていると徐々に山内さんの呼吸が落ち着いていった。

やがて、座って呼吸を整えると、残っていたスポドリを一気に飲み干していく。

(当たり前だが、相当疲れていたんだな)

約一時間、ボコボコにされていたわけで、動き回っていたことも含めて、かなり疲労していたのだろう。

「それで、満足したか」

普通であれば、二、三戦して、お開きになってもおかしくはないと思うのだが、山内さんはひたすら、模擬戦を挑み続けた。

結果として、20戦以上やることになったのだから、驚きである。

(何か、強さに執着する理由があるのだろうが…)

恐らく、山内さんの根幹に迫ることだ。たかだか、一度本気でぶつかり合っただけの関係性で、聞くつもりは全くなかった。

幾ばくかの間の後、山内さんは口を開く。

「これで、満足してなかったら、伊藤さんに失礼でしょう」

体力も戻って来たからなのか、出会った時のような強気な態度が戻ってきている。

口調もはっきりしていて、万全ではないようだが、ある程度は回復したようだ。

「先程はありがとうございます。ただ、セクハラになるかもしれませんので、そこは気を付けてくださいね」

「ちょっ」

いや、強気になりすぎである。

確かに先程、山内さんの身体を受けとめたが、あのまま倒れていれば、怪我をしていたかもしれない。そんな言い訳をしようとしたが、

「冗談です。まあ、他の人にするときは、気をつけた方がいいかもしれませんね」

俺は口をつぐむことになった。

クスクスと笑う、山内の彼女の顔を見て、俺はあっさりと毒気を抜かれる。

美人は絵になるからズルいとしみじみ思いながら、俺も笑った。

和やかな雰囲気が二人の間に流れる中、山内さんは突然、背筋を伸ばす。

「あらためて、出会った時はすみませんでした。あの態度は良くなかったと、反省しています」

そう言って頭を下げる山内さん。

「ああ、あのときね」

俺はエレベーター内での出来事を思い出しながら、持っていたペットボトルを揺らす。

既にあの時のことは俺にとって、どうでもいいことになっていた。

ふと、いい意趣返しを思いつく。

「まあ、他の人にはあんな態度を取らない方がいいかもな」

山内さんが固まる。そして、黙ったまま、より深く頭を下げるのだった。