作品タイトル不明
第百二十三話
俺が泊っているホテル内には、様々な施設があり、ジムは勿論、プールやアミューズメント、レストランなど、探索者以外も楽しむことができるようになっていた
だが、ここは家族向けではなく、探索者向けのホテルである。
当然、探索者にとって望ましい設備も充実していた。
「そこそこ広いな」
ホテル内には、探索者が実戦的なトレーニングを積めるように、レベル別に強度を調整した、模擬戦専用の部屋が複数、用意されている。
安全に配慮した素材でできた武器防具も多種多様、プロテクターなどの防具も完備しており、その設備は探索者協会に併設されているものに勝るとも劣らないほどであった。
「一時間2万円ですからね」
今回、借りているのはレベル300までが利用しても、問題ない部屋である。
床は頭をぶつけてもいいようにクッション性になっており、俺が強く踏み込んでも一切傷つかないほどの強度持っていた。
「それは高いな。……それで、こんな高いところを借りてまですることなのか?」
俺は黒髪の女性、山内さんを射貫くようにして見る。
山内さんのお願いは、俺と模擬戦をすることであった。
あまりの突拍子のなさに断ろうとしたのであるが、頭を下げてお願いしてきたため、断るに断れず、承諾してしまったのである。
「勿論、急激にレベルを上げた、その一端を見たいので」
既に山内さんは既にプロテクターを着けており、模擬戦用のブレードも手に取っていた。
俺の視線に一切怯むことなく、洗練された構えを見せており、高いやる気、戦意が窺える。
(断るべきだったかなぁ)
内心、そんな弱気な言葉が出る。
俺は今更になって、断っても良かったのでは?と反芻していた。
実際、山内さんと戦うことにメリットなんて、ほとんどありはしない。
(……少しムカつくんだよな)
ただ、この勝負を受けたことに全く意味がないとも思っていない。
それは山内さんの態度が理由だ。
元々はこちらを下に見ていたにもかかわらず、レベル200になった途端にこの反応である。
(強さで人を測るのは、探索者ではありがちだが)
探索者は相手の強さで、人を評価するのは傾向として多い。
俺自身、そういった目で探索者を評価しないわけではないし、気持ちも分かる部分はある。
だが、そうは言っても、俺も人間だ。
山内さんから評価されていなかった時の記憶がまだはっきりと残っているし、モヤモヤした気持ちを晴らしたいという欲望は生まれてしまう。
(まあ、純粋にヴァルや東雲以外はどんなものなのか、気になっていたのもあるが)
当然のことながら、私怨だけで勝負を受けたわけではない。
他の人間がどんな戦いぶりを見せるのか、気になって受けたのもある。
そして、自分がどの程度強いのかを知るためにも、この勝負はうってつけであった。
(こうなった以上は、絶対に負けるわけにはいかない)
向こうも相手がレベル200ということもあり、本気である。
こちらはレベルこそ上であるが、俺の探索者として経験はそう多くはない。その経験、戦闘技術は劣っていると考えるのが妥当だ。
そうした差は、戦いにも強く影響する。
甘く見ていては食われるのはこちらであり、その程度のことは、俺でも理解していた。
「さて」
俺もブレードを手に取り、いつものように構える。
(あれ?)
俺は普通に構えただけであるが、視界が捉える山内さんの姿が、不思議ととても小さく見えた。
「……っ」
構えたことで圧力でも生まれたのか、山内さんが明らかに緊張し始めたのが分かる。
逆に、俺は圧力をほとんど感じていない。
はっきり言って、敵と認識できないぐらいに、山内さんから強さを感じ取ることができないでいた。
「いくぞ」
俺はゆっくり間合いを詰める。
圧力はないものの、相手は探索者。並みの相手であると認識しない方が良い。
一歩ずつ距離を縮めていき、攻撃が届く間合いに入る。
俺はシンプルだが、慣れ親しんだ上段からの振り下ろしを放った。
(躱されたか)
山内さんはバックステップで、俺の攻撃を回避する。
シンプルな対応だが、間合いは元の状態に戻っており、状況を再びイーブンに戻す、良い選択と言えた。
(だが、それは俺が優位であることの証明だ)
後手に回っている以上、俺が優位であることに変わりはないため、俺は立て続けに攻撃することを選択する。
先程と同様に距離を詰め、今度は予備動作の小さい、突きを放った。
「っ!」
俺のブレードが山内さんの身体、というよりプロテクターを掠め、束ねられた彼女の黒髪が大きく揺れる。
(見切られてはいないな)
先程よりも速い一撃は、ギリギリで躱すことをできたものの、山内さんには余裕がないことは明らかであった。
山内さんには踏み込みを躊躇させる怖さ、防御が攻撃に繋がっていない。
各動作の繋がりが薄いこともあって、俺は間合いを詰めることを厭わずにできている。
恐らくであるが、モンスターをチームで倒す訓練ばかりを積んでおり、一対一を想定した訓練をそこまでしていないのだと思われた。
(どうやって、追いつめるか)
焦燥する山内さんを目で牽制しながら、俺はここから、どうやって彼女を倒すべきか、考えを巡らすのであった。