軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十二話

あれから、軽くシャワーを浴びた後、俺はホテル内のジムに足を運んでいた。

更衣室でトレーニングウェアに着替えた後、ウエイトトレーニングの準備をしていく。

(よし)

俺はこれまでトレーニングしてきた中でも、最も重たい強度になる枚数のプレートを、バーベルに付けた。

(やるか)

心の中で気合を入れた後、バーベルを握り、一気に集中力を高めていく。

集中力がマックスになったタイミングで、全身の力をバーベルを持ち上げることに注ぎ込んだ。

(あぶなっ)

上げる前の気合の入り具合とは裏腹に、あっさりとバーベルは宙に浮いた。

あまりの軽さに、想定以上の反動が生まれ、逆に身体を傷めそうになる始末である。

俺は身体を傷めないよう、回数をこなすことに目標をシフトさせ、数十回ほど行なった後、バーベルを床に降ろした。

(思ったよりも余裕だった)

レベルの壁を越えたと思った時は強気だったが、実際にどの程度の重さのものを上げれるのかは分かっておらず、一抹の不安があった。

俺は降ろしたバーベルを軽く持ち上げ、感触を確かめる。

レベルの壁を越える前は必死に上げていた筈のバーベルは、先程と同様、重さを一切感じさせなかった。

(最早、アップにすらならないか)

当然筋肉は全く張っておらず、俺はこの状況に嬉しさよりも違和感を感じていた。刀を使った動きの調整時にはそんなものはなかったが、いざ、分かりやすい結果が出ると、困惑が勝ってしまっている。

困惑を拭うようにして重量を増やしてみる。すると、300キロすら軽々と持ち上げられた。

(流石に1トンは無理そうだが、もっと重量は増やせそうだな)

困惑が少しずつ、挑戦への熱意に置き換わっていく。

重量をどんどん増やしていく内に、いつしか違和感は消え、気づけば俺は、黙々とトレーニングに励んでいた。

最終的に、450キロのバーベルを一度上げた後、休憩に入る。

達成感を感じながら、タオルで汗を拭っていると、一人の女性に声を掛けられた。

「凄いですね」

振り返ると、そこにはいつもトレーニングに精を出している、黒髪の若い女性がいた。腰まで伸びていた筈の黒髪を一つに束ねており、薄っすらとかいた汗が顎を伝っている。

俺が長野に来た当初から見かけていた彼女であったが、今日もトレーニングしていたようであった。

「レベルが上がって、だいぶ重いのを上げれるようになったんですよ。なので、トレーニングの成果とかではないです」

驚きが前面に出ないようにしつつ、言葉を返す。

今まで彼女の方から声を掛けてくることはなかったため、内心かなり驚いていた。

「ご謙遜を」

彼女の言葉にはたと考える。

正直、自分としてもいきなり上げれる重量が跳ね上がるのは、しっくりこないのが現状だ。

そのため、角が立つのかもしれないが、謙遜した言葉になってしまったようである。

「もしかして、レベル200になりましたか?」

いきなりの指摘に、心臓がドキリと跳ねる。

俺は思わず、彼女の顔をまじまじと見てしまった。

(やっぱり、分かるものなのか)

以前、 明星(あかぼし) にスカウトされた時にいた、Bランクの女性探索者も、独特の凄味のようなものを発していた。

名前は確か、佐野恵美だったか。一見するとそこまで強そうには見えなかったが、自然と警戒してしまっていたのを覚えている。

(もしかして、Bランクが評価されるのはそういった側面も……)

雰囲気に凄味が出ることが、社会的な評価を向上させる一因になっている。なんて想像は穿ちすぎだろうか。

意外にもそういったことが、要因になっていてもおかしくはない気はする。

そんなことを考えていると、いつの間にか彼女は俺との距離を詰めていた。

「私の所属しているクランの先輩なんかもレベルが200になってからは、明らかに普通の人とは違う雰囲気が出ていました」

「やっぱり、そんな感じなんですね」

いきなり距離を詰められ、身じろぎしそうになるのを抑えつつ、言葉を返す。恐らく、彼女も俺と同じ意見を持っているようであった。

彼女の発言を含め、ほぼ間違いなく、レベル200から纏う雰囲気が違うのものになるのだろう。

そこから探索者同士ということもあってか、自然と探索者関連の話について盛り上がり、お互いシャワーで汗を流してから着替えた後、ホテル内のカフェに移動し、会話を続ける。

少し話し込んだあたりで、彼女は改まったように姿勢を正した。

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私、山内春菜です。《大岩》というクランに所属しています」

(あ~これは…)

彼女、山内さんは逃さないようにジッとこちらを見る。

有無を言わさぬ雰囲気に、俺は観念して、口を開いた。

「私は伊藤春彦と申します。所属クランは……ないです。…無所属です」

わざわざ、所属クラン名まで紹介したことから、恐らく向こうは、俺がそれなりのクランに入っていると考えている。そう読めるだけに、自分が無所属と言うのは気恥ずかしさが出る。

実際、山内さんは少し目を丸くし、驚きを表情に出していた。

「無所属なんですか?てっきり、どこかの大手クランに所属しているのかと…」

(実際、大手クランにはスカウトされたけどな)

ただ、明星に入っていれば、ここまでの速さでレベルを上げれていたかは怪しい。

結果として、むしろクランに入らなかった方がレベルの向上には良い影響を及ぼしていても、おかしくはなかった。

「むしろ、凄いですね。無所属ながら、その速さでレベルを上げるとは」

僅かに俯き、噛み締めるようにして言う。

山内さんの場合は考えが、逆のようだ。

そこから若干の間ができ、沈黙が場を支配する。

「伊藤さん、よければなのですが私と模擬戦をしてくれませんか?」

「はい?」

均衡を破った山内さんからの言葉に、俺の表情はピシリと固まってしまうのであった。