作品タイトル不明
第百十二話
(魔術のグレードを上げれば、そうでもないな)
あくまでグレードの低い魔術がそこそこ強いモンスターに効かなかっただけであり、グレードさえ上げれば一発で仕留めることもできる。
やや過剰な一撃だったかもしれないが、魔術をトドメに用いるのであれば、この程度の威力は必要だとということがあらためて確認できた。
それにBランク探索者が戦うようなモンスターは、炎玉大猪よりも巨大でありながら強靭な肉体を持つ。
咄嗟に放った魔術の威力がなくて、逆にこちらが狩られる形になっては目も当てられない。
(それでも昔、ミノタウロスに【極光】を使ったのは、やりすぎだったな)
ヴァルと出会った際に使った【極光】という魔術はこれよりも遥かに威力が高い。
それこそ、全力で放てば、Aランク探索者が相手にする様なモンスターにすら通用する魔術だ。
ミノタウロスに使うような魔術ではない。
「やはり並みの探索者からは大きく逸脱していますね」
東雲が骸となった炎玉大猪を一瞥し、言う。
炎玉大猪は氷の塊に顔を潰され、完全に事切れていた。
「東雲から見て、今の戦い方はどうだった?」
東雲は戦いに関しては、雲の上にいる存在だ。
そんな彼女の言葉はちょっとしたことであっても、価値がある。
「そうですね。少し危なっかしさはありますが、いいと思いますよ。もし、私が対峙したとしても、あまり見る戦い方ではないので、初見であれば驚くかもしれません」
「あまり見ないのか?結構、標準に寄せたつもりだったんだが」
この世界の所詮魔法使いと呼ばれる存在の多くは、武器をメインの攻撃手段としつつ、保有する魔法を補助として使うのが一般的だ。
それこそAランクの探索者であれば、魔法を軸とした戦いも可能なのかもしれないが、低レベルの頃は魔力量が少ないこともあり、Aランクになっても武器を軸に戦術を組み立てていることが多い。
そうした背景があるため、魔術師のセオリーとなる戦い方は、この世界の通念的な戦い方に反したものとなる。
一応、俺のイメージする魔法スキル持ちの探索者の戦いをしたつもりだったのだが、意外にも標準からは逸脱していたらしい。
「同時にスキルを使い過ぎですね。本来、あれほどのスキルを一回の戦闘で使えば、消耗が激しすぎてスタミナ切れを起こしてしまう可能性があります」
これでも、使い過ぎか。
かなり安全に戦うことを想定したからこそかもしれないが、これぐらい魔術を使ったとしても、Bランクを想定すれば、近接戦闘では不安が残るかもしれない。
「強化系のスキル、防御系、攻撃魔法、これらをここまで使いこなすには、少なくともBランク以上の練度、もしくはよっぽどの才覚がないと難しいと思います」
(別に優れた才能を持っているわけではないが)
俺の場合は、スキルを手に入れてから間もない頃に行った、魔力放出の鍛錬時に身体への理解を深めている。
そのため、普通の人間よりかは身体操作は長じている可能性はあるが、魔術を複数使いこなせているのは完全にスキルの恩恵だ。
「ですが、Bランク探索者であれば、そこまで逸脱した感じではないとも思いますよ。特にAランクになる様なBランクであればなおさら」
Bランク探索者がどんなものなのかは、あまり分からないが、時折いるやたら雰囲気の鋭い探索者は恐らくはBランク探索者であろう。
体から感じるプレッシャーは敵意がなくともそれなりのものがあった。
(そう考えれば先日ナンパしてきていた三人はそこまでだったな)
そういった危険なプレッシャーは感じなかった。
それはジムで会う彼女も同様で、Bランクになるというか、レベルが二百になれば、百の時と同様にかなり身体能力が強化されるし、潜る修羅場もり苛烈になるのだろう。
「参考までに聞きたいんだが、一般的にBランクからAランクに上がるのはすんなりいけるのか?」
「上がれない人は上がれませんし、上がれる人は上がれるランクですから、何とも言えないですね。私の経験では、チャレンジ精神を忘れずにモンスターを狩り続けていれば、あっさり上がるという感じですか?」
まさに天才の発言って感じだな。
「ちなみにですけど、伊藤さんの場合は、別ですよ。あれだけのスキルを使いこなせる強さを持った探索者であれば、チャレンジ精神なんてなくても、上がれないということはまずないです」
「そうか?」
精神的な要素はそれこそ強さと結びついているように感じるのだが。
「圧倒的な強さで塗りつぶせるのなら、関係ありませんから」
東雲はそう言ってニッコリと笑った。
「伊藤さんも認識以上に、この速さでのレベルの上昇は異常です。私から見てもそろそろ二百に到達しそうに見えますし、この時点でそうならば、Aランクの素養は十分ですよ」
「そんなものか?」
「そんなものです……。炎玉大猪ですが、今回は私が解体しますね」
東雲が徐に刀を抜いたかと思うと、次の瞬間には刀が消える。
(速すぎだろ)
気付けば炎玉大猪が解体され、魔核が姿を覗かせていた。
「別に切らなくても感覚は鈍りませんが、折角なので」
血の一滴もついていない刀をゆっくりとした動作で鞘に収め、にこやかに話す東雲。
俺はそんな彼女の姿に黙ったまま、慄くしかなかった。