作品タイトル不明
第百十一話
「ブモオオォォオオォ—————!」
俺は牽制のための【アイスランス】を放った後、こちらに突進してくる 炎玉(えんぎょく) 大猪(おおいのしし) をすんでのところで躱す。
先程、戦い方を魔術重視で近接戦闘は控えめにすると決めたばかりにもかかわらず、俺は近接主体の戦い方を試していた。
(なかなかに動けるな)
余裕があるうちに試してみたくなって、やってみたのだが、これがなかなか動ける。
いつもは魔術で攻撃ができるよう、魔力を温存して戦っているのだが、今回は身体能力の強化にかなりの魔力を割いていた。
後はいつも通り【結界】を張って、攻撃に備えているので、余程のミスをしない限りは致命傷にはならないと思われる。
(【結界】は有用だな)
【結界】はかなり自由度の高い魔術で、初心者から熟練まで魔術師であれば近接戦闘の際には、ほぼ百パーセント用いる魔術だ。
この【結界】は使用する魔力量によって強く影響を受ける魔術で、重ねることで突発的な攻撃に備えたりもできる。
また、上手く使えれば、【結界】の特定部分を強固にすることも可能で、使い勝手の良い、攻撃から身を守るための魔術だ。
一応、【結界】にカウンターの魔術を仕込んだりもできるが、今回はシンプルに守り特化のものを発動している。
身体能力の強化に高い比重を置いている為、主に一瞬だけ攻撃を防ぐのに使う方針で、炎玉大猪の攻撃手段を念頭に置き、正面の強度は高めで、他はそこまでの強度はない形に仕上げていた。
いちいち【結界】で覆うようにして防御しなくてもいいような気がするが、今回は単に炎玉大猪を討伐するためだけでなく、より幅広くモンスターに対応するための戦術のレパートリーを広げるための実験的な側面もある。
(現状、魔力の消費は問題なし。結構強めの身体能力強化だけあって、余裕を持って対応できる)
瞬発力や持久力、動体視力なども向上しているため、かなり余裕を持って戦えている。
ちなみにであるが、並行して魔術を発動するのは、その魔術の数が増えれば増えるほどに難易度が増していく。
スキルである魔術のおかげというか、そのスキルからもたらされる知識のおかげで、その辺りはかなり容易となっており、おそらく超一流の魔術師を優に超える技術を既に会得していた。
「ブッ」
炎玉大猪の突進を、【バインド】と【結界】を使うことで防ぐ。
たたらを踏む炎玉大猪を尻目に、攻撃を受けにくく、こちらが攻撃できる位置を取った。
「いくぞ」
普段の身体能力ではこの程度の妨害では間合いを詰めれないが、身体能力を大幅に強化している今であれば、容易に攻撃へと移ることができる。
俺が刀を上段から振り下ろし、普段とは比べ物にならないほどに強烈な一撃を放った。
カウンターのような形であるが、見事な一発が入り、炎玉大猪の顔を大きく傷つける。
「ブゴォ!?」
かなりバッサリと斬りつけたので、普段であれば自身の体勢を立て直すのに難儀しそうだったが、身体能力が大幅に強化されているおかげで、それすら苦も無くこなせた。
(流石に警戒するよな)
炎玉大猪の顔には深く斬りつけられた傷ができており、そこからとめどなく血が溢れている。
モンスターの痛覚がどうなっているのかは分からないが、かなりの手ごたえがあっただけあり、炎玉大猪の行動に影響は与えられたようだ。
(大体、こんな感じか)
得るものも結構あったし、そろそろいいかな。
俺は手のひらを炎玉大猪へと向け、【アイス・ランス】よりも更に高位の魔術を発動する。
「【アイス・カタパルト】」
突如、巨大な氷の塊が宙に発生した。
直径一メートルを超えるサイズの氷の塊から出る冷気と重圧感は、見たものを硬直させるのに十分である。
俺が腕を振り下ろすと、氷の巨岩が周囲を凍らしてしまいそうなほどに強烈な冷気を纏いながら、炎玉大猪に向かって放たれた。
「終わりだ」
炎玉大猪は避けようとしたが刀による攻撃や魔術による妨害を警戒していたのか、明らかに反応が遅れている。
「プ」
叫び声を上げるよりも速く、巨大な氷の塊は炎玉大猪の頭部へと直撃した。