作品タイトル不明
第百十話
俺は息を整えると、 炎玉(えんぎょく) 大猪(おおいのしし) の事切れた姿を見る。
(流石にそろそろ魔術のグレードも上げないと駄目か)
炎玉大猪が強いというか、サイズが大きいせいか、魔術の効きが悪い。
このダンジョンを探索し始めた当初は、そこまでサイズの大きなモンスターはいなかった。
精々が人間大のサイズ、もしくは、多少大きい程度であり、耐久性もないわけではないが、【アイスランス】であれば、十分通用するレベルの硬さであった。
(ただ、今後はそうならない可能性が高い)
炎玉大猪のようなCランク探索者が戦うレベルで、あのサイズのモンスターには【アイスランス】だけでは通用しないまでは言わないが、手間がかかる。
今回は【アイスランス】と【魔弾】の合わせ技で何とかなったが、確実性には欠けている。
炎玉大猪の性質上、耐久性が高いのは当然のことかもしれないが、相性を考慮に入れても、モンスターの強さはこれから増していくと考えた方が得策だ。
(モンスターと戦うのは、意外と難しいんだよな)
魔術はその種類の多さが、戦いにおいて有効に機能するが、ことモンスター戦に関しては、魔術師は意外にもシンプルな戦いを強いられる。
その理由は単純で、モンスターが未知の存在だからだ。
(この世界においても、モンスターについて分かっていることは多くはない)
ダンジョンに関する研究は世界中で行われているが、分かっていることが増えても、そこから分からないことがさらに増えていくのだ。
それにモンスターの種類は非常に多く、ダンジョンごとにその性質にも変化がある。
そのため、魔術師がモンスター相手に戦う際には、高威力の魔術を使って、できる限り短い時間で仕留めるのがセオリーとなっていた。
(チームのことを考えると、いつも通り、魔術重視で近接は必要最小限って感じかね)
正直、現状でも武器術の練度が低いせいか、武器を利用した戦い方に安定感がない。
そのことを踏まえると、技術がこれから伸びていくことを考慮に入れても、敵が強くなる一方なため、戦い方は遠距離から魔術を使った戦い方をこれからも継続していくことになるだろう。
(高威力の魔術ばかりを使っていれば、目立つ可能性は高まるが、どの道、この短期間でランクを急激に上げれば、マークされることになるだろう)
俺がスカウトであれば、まず目を付ける。
実際にどこまで本気となってスカウトするかは、そのクランや企業の状況によるだろうが、少なくとも情報が入ってこれば勧誘自体は行うだろう。
結局マークされるならば、過剰なまでにスキルの能力を隠す必要性はなくなる。
(だが、一々悪目立ちするほどにスキルを多用する必要はないけどな)
そもそもダンジョン内での戦いは他の同業者に見られる可能性は低い。
であれば、もっと自由に魔術を使っていいように思われるが、それは過剰なまでの驕りやトラブルを生む可能性を孕んでいる。
実のところ、人に対して有効な魔術は、モンスターに対して有効な魔術よりも多岐に渡り、そして残虐だ。
(俺はのんびり気ままに探索者として成長できればいいからな)
魔術は探索者として成長していくための手段であり、人を害するための手段ではない。
不必要な力の行使は、いずれ、無駄な争いを生むだろう。
(とりあえず、炎玉大猪の素材をさっさと取って、次の狩りをしないとな)
俺はナイフを取り出すと、炎玉大猪の解体を開始するのであった。