作品タイトル不明
第百七話
次の日、目を覚ますと、二日酔いのせいか頭が重く痛かった。
昨日はビールを調子に乗って飲みまくったので、原因ははっきりしているが、思った以上にキツイ。
(魔術で回復させるか)
レベルの上昇は体を強化するが、酔わない体質にはならないので、アルコールの取りすぎには注意が必要だ。
俺が回復系の魔術を使うと、頭の重みと痛みがスーッと無くなり、眠気も同時に霧散していく。
「よし、楽になった」
俺は晴れやかな気持ちで体を起き上がらせ、ふと周りを見ると、部屋には誰もいなかった。
あらためて辺りを見回すと、書置きが目に入る。
(二人とも出かけたのか)
俺がいつまでも寝ているので、二人で出かけたと書かれてある。
「ああ、もうこんな時間か」
近くに置いてあった時計を見ると、既に十一時を回っていた。
早めの昼食を取ってもいい時間帯であり、そんな時間まで寝ていれば、放置されても仕方ないだろう。
「遅めの朝食でも取って、その後トレーニングでもしますか」
俺は軽くストレッチをしてから、てきぱきと支度を済ませ、ホテルの部屋を出るのであった。
♦♢♦♢♦
(あー、楽しい)
タンパク質多めの朝食(ステーキ二百グラム)を食べた後、俺はいつも通りジムで汗を流していた。
ダンジョンの探索を日ごろから行っているとはっきり分かるが、ウエイト・トレーニングは自分で重さや回数をコントロールできる分、主導権がこちらにあるので、ストレスがだいぶ少なくて済む。
俺は筋肉隆々の肉体を目指しているわけでもないので、程よい負荷を楽しむことができていた。
(また、いるな)
何セットか終えた後、周りを見ると、前と同様にエレベーターで会った女性がウエイト・トレーニングをしていた。
相変わらずの高重量で、しかもかなりのセット数をこなしている。
(いや、ホントに凄いな)
俺もレベルを上げればすぐにできるようになるのだろうが、現在のレベルであそこまでの重量のトレーニングができるのかは分からない。
彼女が重いバーベルを床に降ろした後、ちらりとこちらに視線を向けてきた。
「なにか?」
息を吐きながら、彼女の視線がこちらを射貫く。
射貫くというのはやや穿った表現かもしれないが、とにかく視線が怖かった。
「いや、すみません。凄い重量でトレーニングをしているな、と」
流石にじろじろ見過ぎていたと思い一度謝罪を述べた後、俺は正直な感想を述べる。
すると、彼女も邪な感情によるものではないことに気が付いたのか、やや視線を緩めた。
「何年も続けていますから」
「それでもなかなか難しいと思いますよ」
実際にどの程度難しいのかは分からないが、レベルがメキメキと上昇している俺ができないと思うぐらいだから、相当大変だと思う。
「そうかもしれませんね。でも、私はやるしかないので」
彼女はそれだけ言うと、また黙々とトレーニングを開始する。
俺もそれっきり話しかけることはなく、淡々とトレーニングをこなしていった。