軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十話:イレギュラー

ロンゾルキアの世界に転生して七年、ここまでの成果を軽く 纏(まと) めてみよう。

オルヴィンさんから剣を習い、剣術スキルをマスターした。

フィオナさんを家庭教師として雇い、魔法の 薫陶(くんとう) を受けた。

固有魔法<虚空>と回復魔法によって、万全の防御態勢を構築。

エンティアを倒して、母レイラの呪いを解き、禁書庫のアクセスを得た。

ボイドタウンの開発も、ゆっくりとだが、着実に進んでいる。

主人公アレンの強化イベントをへし折り、ヒロインであるニアに釘を刺した。

思いがけず作った 虚(うつろ) という組織も、なんか勝手に大きくなっている。

(ふふっ……怖いぐらいに順調だな。理想的と言ってもいいだろう)

でも、大概こういうときなんだよね……。

とんでもない『イレギュラー』が起きるのは。

よく晴れたとある日、ボクが特進クラスの教室で、退屈な授業を受けていると、

「おらぁああああああああ……!」

「どりゃぁああああああああ……!」

窓の外から野太い男の声が聞こえてきた。

(あぁ、またか……)

見れば、校庭のど真ん中で序列戦が行われている。

(このところ毎日だな)

入学式の日から数えて二週間は、学校の定める『序列戦奨励期間』。

この間は、序列戦に設定された一部の規則が凍結される。

序列が五つ以上離れた相手には挑めないとか、序列戦を戦った者は十日の休戦期間が発生するとか、この辺りの制限が取り払われるのだ。

自分の序列に――学校側の決めた順位に異論のある生徒は、この期間中に実力を以って示せ、ということだ。

ちなみに特進クラスに所属する31人はというと……けっこう冷めている。

ボクの知る限り、クラスメイトの間で、序列戦が行われた例はない。

みんな自分の序列に納得している――わけじゃない。

あっちもこっちも 燻(くすぶ) っている奴等だらけ、今は『 見(けん) に回っている』という感じかな。

特進クラスの生徒たちは、そのほとんどが名のある貴族の子女。

そういう立場のある人間にとって、序列戦で失うのは、自分の 位(くらい) だけじゃない。

たとえば 馬鹿(フランツ) のような醜い負け方をすれば、栄誉ある家名に泥を塗ることになってしまう。

だから、 迂闊(うかつ) に動けない。

相手の固有魔法・戦い方・弱点、必要な情報をきちんと収集し、万全の態勢を整えてから戦いに臨む。

っとまぁそういうわけで、特進クラスは比較的穏やかな状況だった。

(この調子だと、動きがあったとしても、奨励期間の終わり頃だろうな)

校庭で繰り広げられる序列戦を眺めながら、ぼんやりそんなことを考えていると、ガラーンガラーンと時計塔の鐘が鳴った。

「――はい、今日はここまで。みなさんお待ちかねのお昼休みですよ」

フィオナさんはパタンと教科書を閉じ、手荷物を纏めて教室を後にした。

それと同時、クラス内に 弛緩(しかん) した空気が流れ出す。

「あ゛ー、フィオナさんの授業、レベル 高(たけ) ぇー……っ」

「しっかし、綺麗だよなぁ……。やっぱ彼氏とかいるのかなぁ……」

「知ってる? フィオナさんって、前は魔法省に務めてたんだって!」

「聞いた聞いた。しかも、伝説級の固有魔法持ちだとか?」

「『バリキャリ』って感じでかっこいいよねー!」

フィオナさんの学生人気は、男女を問わず、すこぶる高い。

(まぁ……アレだ。人間、知らない方がいいことってあるよね)

さて、ボクもそろそろお昼ごはんにしよう。

軽く首を鳴らして席を立ち、一階の売店へ行こうとしたそのとき、

「――ホロウくん、ちょっといいかな?」

主人公アレン・フォルティスが、ボクの前に立ちはだかる。

その顔はいつになく真剣で、瞳の奥には強い意思が宿っていた。

「……なんだ」

途轍(とてつ) もなく嫌な予感がした。

喉の奥が渇き、手汗が 滲(にじ) み、鼓動が早くなる。

一秒が永遠と思えるほどに引き延ばされる中、

「――ホロウ・フォン・ハイゼンベルク、キミに序列戦を申し込む」

アレンは真剣な表情で、とんでもないことを言い出した。

(……はっ……?)

世界の時が止まり、頭が真っ白になる。

(えっ、なに……ボク、なんか悪いことした?)

順調だと思っていたら、目の前に特大の死亡フラグが降ってきた。

自分でも何を言っているのかわからないが、どうやらこれは現実らしい。

(いやいや……勘弁してくださいよ、アレンの旦那ぁ……っ。どうしたって今日は、そんなやる気満々なんです?)

もうこのまま回れ右をして帰りたいけど、極悪貴族ホロウ・フォン・ハイゼンベルクとして、そんな情けないことをするわけにはいかない。

「……あ゛?」

限界まで目を見開き、 禍々(まがまが) しい魔力を放つ。

これが今のボクにできる精一杯の 威嚇(いかく) 。

レッサーパンダが二本足で立ち、両手をあげてガオーッてしているアレだ。

頼むから、これで引き下がっていただけませんか?

ボクがそんな祈りを送っていると、周囲のクラスメイトたちが大慌てで止めに入った。

「お、おいアレン、やめとけって……!」

「馬鹿、お前……ぶっ殺されるぞ!?」

「特進クラス最下位の――序列第三十一位のお前が、第一位に勝てるわけねぇだろ!?」

いいぞ、みんな!

言ったれ! 言ったれ! もっと言ったれ!

ボクは心の中で必死に声援を送ったが……。

頭の固い主人公は、首を横へ振った。

「知りたいんだ、 特進最下位(ボク) と 序列第一位(ホロウくん) の差を」

ボクは知りたくない、悪役貴族と主人公の差を。

世界から忌み嫌われるホロウと世界の 寵愛(ちょうあい) を受けるアレンの『絶望的な格差』を。

そんなの知ったって、どうせ悲しくなるだけだからね。

ただ……極悪貴族ハイゼンベルク家の次期当主として、レドリック魔法学校の序列第一位として、ここで引き下がるわけにはいかない。

というかそもそもの話、序列戦を挑まれた者は、基本的に断ることができない。

ボクは渋々仕方なく本当に断腸の思いで――アレンの申し出を承諾した。

戦いの場は地下演習場。

ニアとの摸擬戦でも使った場所だ。

今回は『正式な序列戦』ということもあり、特進クラスの生徒がわらわらと観戦に集まっている。

「ニアさんとの戦いは見れなかったけど、これでようやく第一位の実力が拝めるぜ!」

「極悪貴族ホロウ・フォン・ハイゼンベルク、天賦の才を腐らせてるって噂だが……実際のとこはどうなんかねぇ」

「ホロウくんの固有魔法は、 伝説級(レジェンドクラス) の<屈折>。 精緻(せいち) な魔力制御を要求されるため、実戦向きの魔法じゃないと言われている。彼がどうやってこれを使うのか、実に興味深いね」

盛り上がっているところ悪いけど、この戦いで手の内を見せる気はないよ。

(原作ロンゾルキアの主人公は戦闘の天才だ。アレンはあらゆる攻撃に適応し、それを経験値として吸収する)

例えば今回、ボクが多種多様な魔法を使って、主人公に勝ったとしよう。

その場合、アレンは超大量の経験値を獲得し、数段飛ばしのレベルアップを遂げる。

つまり、この序列戦自体が『主人公の強化イベント』になってしまうのだ。

(これでは文字通り本末転倒。試合に勝って勝負に負けたんじゃ、何をしていることかわからない……)

この序列戦における、ボクの『勝利条件』は二つ。

主人公に 経験値(エサ) を与えないこと。

極悪貴族としての格を落とさないこと。

これらをクリアしながら、アレンに勝たなければならない。

(まぁ、『飛車角落ち』といったところかな……)

ボクがそんなことを考えていると、審判役を務める教師がゴホンと咳払いをする。

「両者、準備はよろしいですね? それでは――はじめっ!」

こうして 悪役貴族(ボク) と 主人公(アレン) の序列戦が始まった。