軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

領都にて

学校建設予定地の下見帰りに領都へと向かう。

馬車で二十分程の距離の為、あっという間に着いた。

新しい事業で活気に満ちているアゼンダは、クルースだけでなく領都も賑わっていた。

元々、セルヴェスもクロードも良政を敷いて来たが、そこにマグノリアの事業と領内整備が加わった事で、内面も外観もより充実したと言って良いであろう。

フォーレは、既成概念というのは固定観念になりうるのだなと思い、人生終盤の今更ながらに認識を改めている真っ最中である。

……実際にアゼンダ辺境伯領に来て驚く事ばかりだ。

人間幾つになっても驚きと発見はあるものなんだなと日々感心している。

色々な憶測と噂が錯綜している少女。

初めは何の誤情報が飛び込んで来たのかと学院の教師共は首を捻ったものであった。

僅か十歳の少女が成しえるには不可能といえる数々だが、数日一緒に過ごしてみて、誇張で無い事に言外の喜びと戦慄とを覚える。

彼女の祖父も、父も義叔父も大変優秀であったが……多分その上を行くであろう。

未知の病を解明しただけに飽き足らず、本来なら自らが学ぶべき年であるのに、他の誰かを導く為に尽力しているのである。

どうしたら彼女を導けるのかと思ったが、自分ではその器には無いとも思える。

それならせめて、彼女が自ら伸びて行く様をサポートしよう。

彼女の希望を叶えつつ、見守るのも良いだろうと思う今日この頃だ。

――もっとも、それしか出来ないとも言えるのだが。

「そろそろお腹が空きましたね。先生は好き嫌いは多いですか?」

丸い朱鷺色の瞳をフォーレに向ける。

「いえ、特にはありません」

「では、新しいお料理を試してみますか?」

新しい料理。

(アゼンダでは料理にも新しいものがあるのか……)

さほど食に興味は無いが、好奇心が刺激されてフォーレは頷いた。

「マグノリア様! いらっしゃいませ!」

ニュータウンの角に立つ、小さなお店。

手作り感溢れる素朴な店構えの、軽食スタンドと言えば良いのかビストロと言えば良いのか……そんな温かみのある店内に足を踏み入れると、看板娘なのか、若い女性が挨拶をした。

「四人だけど、お席はありますか?」

「はい、こちらへどうぞ~」

四年前に出店を延期するように言われた、孤児院出身の女の子だ。

「マグノリア様、いらっしゃいませ」

奥のキッチンからひょっこり顔を出したのは、勿論相方の男の子だ。

四年の年月はふたりを大人にしたらしく、若くはあるものの、以前のフワフワした感じはなく、しっかり地に足のついた落ち着きが感じられる。

ふたりはあの後マグノリアの言いつけを守り、色々勉強しつつ週に二回ほど自らも屋台を出して、経験と市場調査を行ったらしい。

実に様々な体験――失敗も成功も困難も研鑽も積んだ日々だったそうだ。

まだ早いか迷ったそうだが、丁度店舗が空いたのも、当座の生活費と運営資金が溜まったのも、一番は親方の勧めもあって開店に踏み切ったそうだ。

マグノリアに意見された当初はモヤモヤと飲み込めない事もあったらしいが、実際に修行をして料理の奥深さを知り、屋台をしては商売の難しさを痛感したらしい。

開店の報告をした際に心からそう言うふたりに、マグノリアももう大丈夫だろうと思ったのはナイショだ。

屋台時代に少しずつ常連さんといえるようなお客様もつき、今はそこそこ繁盛している様子であった。

「この、『うどん』というのは魚の骨で出汁をとったスープに、細長いうどんという麺が入っている食べ物です。『パスタ』というのはうどんとはまた違った麺のお料理で、様々なソースで味が違います」

マグノリアがメニューを見ながら、フォーレに説明をして行く。

「あの、あちらの人が食べている丸いものは何ですかな?」

離れたテーブルには、たこ焼きとお好み焼きを食べながら、エールを流し込んでいる二人組が居た。

「小さい方が、『たこ焼き』という蛸が入ったもので、平たくて大きい方が野菜や肉を入れた『お好み焼き』です。生地は配合が違いますが似てますね。形と入っている具がちょっと違うでしょうか」

ガイとクロードがたこ焼きをロックオンしている。

外国人以外の何者でもない顔がたこ焼きを食べるのは、ちょっと違和感があるが……ソースの香りは食欲をそそられるのであろう。結構気に入っている事も知っている。

「細い麺を同じソースで炒めた『焼きそば』もありますし、パンに色々な具を挟んだ『サンドイッチ』もありますよ」

グラタンやピザ、そして普通(?)にステーキや煮込み料理も置いてある。

ファミレスっぽいというか何でもありというか。

メニューとにらめっこをしたまま黙り込んだフォーレをみて、三人はそっと微笑む。

『マグノリア~、僕、焼きうどんがいい~』

ラドリが肩の上で主張している。

クロードはミートソーススパゲティとたこ焼き、ガイがお好み焼きとホルモン焼きを。

フォーレは散々迷ってうどんにしたらしかった。

「焼きうどんはミソーユにしますか、ソースにしますか?」

「じゃあミソーユで」

それぞれが注文する間、フォーレはピクリと眉を動かす様子が見えたのでどれも気になるのであろう。

「……後、何枚か取り皿を貰ってもいい?」

「かしこまりました!」

極当たり前のようにテーブルについているガイであるが、クロードはまだしもフォーレも気にしていない様でほっとする。

先生というと決まり事に厳格そうに感じるが、どちらかといえば研究者気質の方に傾くのであろう。細かい事に頓着しない様で非常に助かる。

更にはガイのメニューが、いかにもお酒を飲みますと言わんばかりなので釘をさしておく。

「……ガイは馬車の運転があるんだから、ソーダにしておいてね」

マグノリアが当然のようにそう言って注文をすると、非常に恨みがましそうな瞳で見て来た。

ガイは、無情にも目の前に置かれたソーダ水をへの字口で見遣る。

テーブル一杯に置かれた料理を、見た事がない料理だからであろう。

フォーレはまじまじと見つめていた。

「口をつける前に少し分けますね?」

頷くのを確認して、たこ焼きをひとつとミートソースをひと口分。ガイからはホルモン焼きを、マグノリアの皿から焼きうどんを徴収してフォーレの前におく。

「あまり沢山だと食べきれないでしょうから、ひと口ずつですが。もし気に入ったり、まだ食べれそうでしたら追加で注文いたしましょう?」

クロードはエールを、フォーレはワインを。ガイとマグノリアはソーダで乾杯だ。

ラドリには取り皿に焼きうどんを分けると、凄い勢いで食べ始めた。

そしてそれに負けない速さで、フォーレも料理を口に運ぶ。

ミートソースと焼きうどん、そして自分のうどんを食べ比べて、唸る。

「ひとくちに麺と言っても、食感も味も、だいぶ違うのですなぁ」

そしてたこ焼きを食べると、驚いたように灰色の瞳を見開いた。

「外と中の食感が……そして、このソースというのは不思議で複雑な味ですなぁ!」

外はカリカリ、中はトロリとした食感は素直に旨い。

クロードも黙々と口に運んでは、エールを流し込んでいる。

すっかり焼きうどんを食べ終えたラドリは、ちゃっかりとガイの皿からお好み焼きを啄んでいる。

ホルモン焼きは少々癖があるのでどうかと思ったが、好き嫌いはないと言った通り問題無い様であった。

「いやぁ、非常に興味深いですなぁ……もうお腹に入らないのが非常に残念です」

無念と言わんばかりに嘆く。

クロードとマグノリアは苦笑いをする。

「ニュータウンに住んだら好きなだけ食べられやすね?」

軽口を叩くガイに、まったくだとフォーレは頷いた。

――お気に召したようで何より。

「どうぞご贔屓に!」

話を聞きつけた若いおかみさんにそう言われ、また来ますと力強く返事をしている。

「しかし、久々にこんなに満腹になるまで食べましたぞ! 動くのが辛そうだ」

そう言ってフォーレは、困ったように微笑んだ。

美味しいものは、人を幸せにするのだ。