軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学校のあれこれ

「まぁ、前学院長はニュータウンにお住まいになるのですか!?」

マグノリアの相変わらず細い柔らかなピンクの髪を結いながら、リリーは大きな声をあげた。

……プラムがいたら、はしたないと叱られる事だろう。

マグノリアは鏡の中のリリーに向かって、笑いながら話を続ける。

「フォーレ家は数代前にアスカルド王国に移り住んだので、こちらにはお屋敷が残っていないのですって。先日領都に行って、色々使い勝手が良いからそこに住みたいってお兄様に言ったみたいよ」

元スラム街は綺麗に生まれ変わり、近隣には店舗も多く、確かに住みやすくはあるだろう。

……マグノリアも自分が住むのなら気にしないと思うが。

根っからの貴族である人達にとって、平民に混じり間借りのような環境を良しとするかは、かなり個人差があるであろう。

そして、大半は良しとはしないであろうとも思う。

うーん、とリリーは唸る。

「……流石に、クロード様も渋られたのでは?」

「そうみたいね。でも元々そういう世俗の感覚を気にされない方だと知ってもいるから、納得もしたみたいだけど」

色々な人を観察する事が出来て、食事も気軽に外食が出来るニュータウンは、年をとっても好奇心旺盛な爺さん先生には面白く見えたのだろうと思うのだが。

もしクロードが今後結婚した場合、小姑として辺境伯家に居座りたくは無いので早々に家を出るつもりでいるが……その場合の居住先として、ニュータウンはマグノリア的にも全然アリであるのだが。

そんな事を言うとリリーにもセルヴェスにも泣かれるので、今のところは言わないけど。

「独り身でいらっしゃるし、大きい屋敷も維持が大変なんですって」

「……そういうものなんですかねぇ」

リリーは飴色の髪をふわりと揺らしながら首を傾げる。

相変わらず可愛らしい様子に、マグノリアは瞳を細めて笑った。

今日はガイに御者をして貰い、フォーレを連れて学校予定地と領都をまわる予定だ。

春らしい若草色のワンピースを着たマグノリアがロビーへ行くと、フォーレだけでなくクロードも一緒にマグノリアを待っていた。

クロードは簡素な濃紺のジュストコールにこげ茶色のズボンを合わせ、何やらセバスチャンに指示をしている。ガイはいつも通り、シャツとジレとズボン。フォーレはいつもの鼠色の長いローブを羽織っていた。

(あのローブ、地球で言ったら白衣みたいなもんなのかな?)

てんでバラバラの服装がおかしくて、マグノリアは思わずクスリと笑った。

「お待たせいたしました、先生」

「いいえ。クロード君も一緒に行く事にしたそうですよ」

にこにこ顔のフォーレ。

「……そうなのですね? お忙しくはないのですか?」

「問題無い」

「お嬢と先生だと、何かやらかして来たら怖いでしょうからねぇ」

短く簡潔に答えたクロードの言葉に、ガイがニヤニヤしながら説明して来た。

――それはそれは、相変わらず信用が無い事で。

「じゃあ参りましょうか」

『クロードは心配性☆』

「ふぉふぉふぉ」

ぴちゅ、と鳴いたラドリに、クロードは剣呑な瞳を向ける。

リリーとプラム、セバスチャンに見送られて、馬車はゆっくりと走り出した。

暫く行くと、陽の光を反射する湖面が見えて来る。春の柔らかな草木の緑が風になびく。

「そう言えば、マグノリア様はここアゼンダの祖先は、その昔エルフだったとの言い伝えがあるのをご存じですかな?」

馬車に揺られながら、フォーレは昔語りをするように言った。

エルフ。

美しくて賢明な森の住人。

「そうなのですか? 森や林、湖が多いですし、賢い方が多いと聞きますから納得出来る言い伝えですね」

ファンタジーな設定に、マグノリアは頷く。

尖がりお耳の綺麗な小神族。

人外は、確か妖精王だけではなかったのか?

言い伝えとはいつも不思議に満ちているのである。

「そうなのだとしたら、どれだけの知識を持っていたのでしょうなぁ。ロマンですなぁ」

うっとりと呟くフォーレに、クロードは小さく苦笑いをした。

学校を作るにあたって、場所をどうするかも議題にあがった。

通いやすさと利便性を取って領都内に作るか。今後色々な学科や施設を作る事を見越して、少し離れた場所に大きく敷地を取るか。

一応どちらも青写真は出来ている。

辺境伯家からも沢山の補助が出る為、空いている土地も押えてはある。

フォーレにも聞かれ、ふたつを提示したら後者が良いと希望された。

今向かっている場所は、領都から北へ二十分程行った場所になる。

「ほう。林になっているのですな」

「集落から少し離れると、森林が殆どなのです。余り沢山木を切ると災害が心配ですから適度に残しながら開拓しようと思うのですが」

日本でも、少し離れた場所にある様なキャンパスは、意外に自然と共存していた記憶がある。

切り倒した木も、勿論有効活用する。

「……こちらに遠方で、通うのに困難な者の寮も作る予定です。先生もそちらに住まれるのは如何ですか?」

それまでは領都暮らしを満喫されてはとクロードに提案され、すっかり乗り気のようであった。

「良い所ですなぁ……終の棲家として一から学校づくりに参加出来る事も、再び子ども達と過ごせることも。教育者として幸せな事ですなぁ」

そう言いながら、ゆっくりと辺りを見回して、クロードとマグノリアを交互に見た。

ふたりも顔を見合わせる。

「では、こちらで話を進めましょう……ある程度形になるまでに時間が掛かるでしょうから、その間に学科や教師の問題も詰めて行く形になるかと思います」

マグノリアの言葉に、フォーレとクロードが頷いた。

学科についても、色々な意見が出た。

どうせならアゼンダらしさがあった方が良いと思うのだが、発展が必要だと思うものの教育と研究も捨てがたく……

今現在の需要としては、領民にとっては生活に直結したもので、具体的に想像がつき易いものが受け入れられるであろう。

例えば商業や農業、水産、工業。ちょっと専門学校的になるが執事や侍女になる為のコースなどだ。

医学や法律など、専門性が高いものは教師の人数や教材が追い付かないかもしれない。まあ、今現在も専門の教育機関は無く弟子への相伝の様なものらしいので、今後拡充が必要だろう。

学校を継続的に運営して行く為には教育者を育てる為の教育学も必要だ。

芸術や音楽なども必要ではあるが、もう少し文化が発達しないと受講する者は少ないのだろうか。

個人的には騎士を育成するコースが辺境の地を守るアゼンダらしいと思うが、大っぴらに育成を始めると穿って取られるのだろうか。

……何を教えるかは、考え出すときりがない。

「……そうですなぁ。騎士学科は大変アゼンダらしいですが、懸念通り周囲の領地や王都の覚えが宜しくないかもしれませんなぁ」

そうなると、暫くは日本の選択科目のように騎士のあれこれは体育、芸術系は美術や音楽といったように教養科目等として、ちょこちょこ盛り込む感じになるのだろうか。

「やはり、初めは学科も少なく、次第に多くして行く感じになりましょう。現在教えられている『商業』が受け入れられやすく教えやすくもあるのでしょう……領地で小規模とはいえ既に学校を作っておられますしなぁ」

長いひげを撫でながらフォーレは首を傾げる。

「王立学院のように一般教養的なものを勉強する学科も作ろうと思うのですが」

いわゆる『普通科』みたいな学科だ。色々な分野に派生しやすいだろうし、何を学ぶにも算数を経て数学といったように、より高度なものを学んだ方が次に繋がり易いだろうであるからして。

「医学などは急務ですし、設備もそう揃えられないので先々も少数精鋭となるかもしれませんが……細かな専門の分野は色々受け手も送り手も土壌が整うまで、当分は先生方や卒業生などに研究をして貰ったり、特別講義として盛り込んだりという形になるのかもしれません」

「教師は現在は王立学院を卒業した騎士や、商会を経営されている会頭などがされているのでしたか?」

「今後も退役する、学問が得意だった騎士や、こちらに帰って来ている元教師などに声掛けをしています」

クロードが領地で声掛けをしている教師を伝える。

「元教師でこちらに興味がある人材は、私にも心当たりがあります。声掛けしてみましょう。

……今年から現在の学校も授業数を増やしているのでしたな? もし人材が足りない様でしたらそちらもお手伝い致しましょう」

馬車の中で、少しずつ内容が具体化して行く。

焦らず確実にだ。

事業と違い、すぐさま結果には表れないのだから。

ましてや門外漢。専門家の意見を良く聞き、慎重に作り上げて行く必要がある。

マグノリアは自分にそう言い聞かせた。