軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

怖い女達のお茶会

「あらまあ、フォーレ先生ではございませんの!」

コレットが青い瞳を丸くして、例の扇を口に当ててお爺ちゃん先生を見る。

「ふぉふぉふぉ。オルセー君、お久しぶり。ペルヴォンシュ君も」

「これは驚きですな。数年前に退官なされたと伺いましたが、こちらにおいででしたか」

クールな微笑みで近況の確認をするアイリスに、マグノリアは席を勧める。

お爺ちゃん先生ことフォーレ前学院長は、呼んでもいないのにちんまりとお茶会のテーブルに鎮座していた。

女男爵であるコレットは、社交の初めの方に顔を出し、後は事業があるからと言って帰って来る事が殆どだそうだ。

……未だ子どもが小さい事もあり、気持ちは充分解る。

アイリスは一応満遍なく期間中王都に居るそうだが、舞踏会も晩餐会も会議も少なくなるこの時期、旦那様に王都のあれこれを任せて、一足先に帰省したらしい。

元々頻繁に王都と行き来もしているので、少しくらい早抜けしたい事もあるだろう。

年に数度、物理的に子どもの為おいそれと領外に出る事が難しいマグノリアと話をする為に、大人でありフットワークの軽いふたりがアゼンダ辺境伯領を訪れてくれるのだ。

姿かたちは小さいものの、中身の年齢的に近いだろうふたりと話すのは楽しいし気兼ねない。

大人ふたりにとっては、何だか複雑な背景を持ったかつての同級生(と、後輩)の娘という事で、気に掛けてくれているのであろうが。

今日は未だ肌寒い為、温室の中でお茶会だ。

花の国と名高いアスカルド王国には到底及ばないものの、温かな温室の中は色とりどりの花が開いている。

「うわ~、何年振りだろうね!」

女だけのお茶会と思う勿れ。ふたりが居る所には大体ヴィクターもいる。

学院生時代も良く三人でつるんでいたらしい。

現在はアゼンダ辺境伯領で冒険者ギルド長兼魔法ギルド長をしているヴィクター。

赤毛の辮髪をポニーテールにし、冒険者らしく筋骨隆々な素肌にアラビアンナイトなベストを羽織っている。

ふざけた……もといド派手な格好をしている彼だが、こう見えてアスカルド王国筆頭公爵家であるブリストル公爵の次男坊である。

何やら訳があって若い時分に出奔して来たらしいが、とんでもないものが出て来そうで未だに訳を聞かないでいるマグノリアなのだが。

「……はて、どなた様か?」

フォーレは不思議そうに、けったいな格好のヴィクターに首を傾げた。

「えー! ブリストルですよ。ヴィクター・カシミール・ブリストル!!」

そう言いながら、ヴィクターはフォーレに顔をすいーーーっと近づけた。

「……ブリストル君は、もっと小ぃこかったぞ?」

そう言いながら、フォーレは自分の肩位で右手をぶらぶらさせた。

「いやいや、流石に学生時代から先生よりは大きかったですけどぉ……成人してから二十センチ位背が伸びましたからねぇ」

「…………」

とんでもない内容に、マグノリアは眉を寄せた。

二十センチ!?

成人後に? どうやったらそんなに伸びるんだろうか。

「確かに私よりも拳一つ分くらい小さかったね。今は逆になったけど」

アイリスが肩を竦める。

「久々に再会した時は、一体誰なのかと思ったもの」

コレットが嫌そうに眉を顰めた。

「身体を鍛えてたら、自然とねぇ」

照れたように頭を掻く、ぶっとい上腕二頭筋が揺れている。

『バケモノ・バケモノ☆』

「ふぉふぉふぉ」

ラドリが煽ると、フォーレがご機嫌に笑った。

……何ともカオスな事である。

尚、コレットと一緒に来たキャンベル商会のサイモンだったが。お茶会の参加者を見て、商業ギルド長に用事があるとかないとか言いながら退室してしまった。

挨拶に顔を出した当主代行であるクロードも、マグノリアを連れて来ると、それじゃあとそそくさと早々に退室して行った。

給仕にはリリーとガイがついている。若干ガイの顔がニヤついているのはいつもの事。

……何か突拍子も無い事が決まりそうになった場合、関係各所に連絡をつける為にガイが潜り込まされている。

自覚する・しないに関わらず、現在のアスカルド王国を大きく動かしている女たちが集結するお茶会。

――通称『怖い女達のお茶会』の始まりだ。男子が混じっているのはご愛敬。

「王都の流行はここの所大きく変わらないわね」

コレットがお茶をひと口含む。

アイリスがニヤリと笑いながらマグノリアに話を振った。

「何か仕掛けないのかい?」

「どうなのでしょう。私が作るものは小さな細々したものですからね」

この二年の間に、襲撃騒ぎで後回しになったカギホックと各種ボタンを、サイモンやコレットに手掛けて貰った。

……実際は金物工房、その他が大変忙しかったのであるが。

だが、ドレスや洋服の着脱が飛躍的に簡易化されたのは言うまでも無く、薄利多売ではあるが、確実に沢山使用する物でもあり、小さな商品の大ヒットというやつであった。

やり手のコレットは、海外にも売り出しを始めたらしい。

お礼なので利益を受け取る事は断ったのだが、ビジネスは一時の利益よりも信用と信頼だと言っては、律儀にアゼンダ商会と同じ分の利益をよこしてくれている。

何かあれば今後も宜しくという事だろうし、色々領地の為に行動する資金源とも知っているのだろう。

暫し、各領地の目立った動きや産業のあれこれ、噂やら派閥やらの話になる。

やはりシュタイゼン侯爵領に関する動きは大きく、今後中央へより食い込んで行くであろう事が見て取れた。

宰相さんの後釜を狙っている節もあるそうで、なかなか意欲的な御仁らしい。

会話が途切れた所でひと口お茶を飲む。

「そう言えば、例の事件は棚上げになったみたいだね。もう二年だからねぇ、新しい情報は難しいみたいだよ」

「……一体誰が手を下したのかしらね」

二年前の襲撃事件。

黒幕だった人形師と、捕縛当日に何者かと取引予定だったのだが、その橋渡しと思われる人物が牢屋の中で亡くなった。

死因は毒物による中毒死だったそうだ。

自殺と他殺両方から調査が進められていたが、この世界は科学がそれ程発達していない。指紋も監視カメラも、DNAも無いのである。

……指紋くらいは、もしかするとマグノリアが協力すれば採取する事が可能かもしれないが……採取出来た所で、きちんとした精度で持って調べる術がない。

ただ、大半は何らかの取引の口封じに殺されたのだという見方をしている人が多いらしく、細々と捜査が続けられていたのだが。そろそろ限界と言う所なのであろう。

「……何処からかストップがかかった訳ではないのですか?」

マグノリアの疑問にアイリスが首を振る。

「いや、そうでは無いらしい」

「……仕方ないのでしょうね」

マグノリアもため息をつく。

ただ他殺なら……暗殺者を送り込む事も出来ると言えば出来るが、それよりも王宮の牢へ入り込める人間である方が簡単な訳で。

そちらの方が可能性が高くもあるのだが。

「そうだ、あの従僕君が今年から学院生だろう。マグノリア嬢はプレクラスに行かなかったのかい?」

アイリスが思いついたように聞いて来た。マグノリアは困ったように苦笑いをする。

「……私は、元々進学する気はないのですよ。内容は習得していますし、新たな襲撃の可能性や妃の件、色々と面倒な事になり兼ねないので」

「習得してるって、凄いわねぇ」

コレットが呆れたように呟く。ヴィクターがうんうん頷いて、フォーレは首を横に振った。

「勿体ない事ですなぁ。多くの教師たちが嘆いておりました。それで、この爺めが送り込まれて来たのですよ」

何とも恨みがましく言うが……送り込まれて来た?

四人はちらりと爺ちゃん先生を見る。

「プレクラスと言えば、ガーディニア嬢はなかなか苦労をしているらしいよ」

「とても優秀な方と聞いてますが……?」

アイリスは頷く。

「本人はね。王太子妃教育の傍ら、クラスを纏めたり、王子のフォローをしたりと大忙しらしい」

「なるほど……」

お察しである。

何だか、ガーディニアひとりに押し付けてしまった様で心苦しく思う。

「そして従僕君、上位クラスに抜擢されたらしくってね。男爵家で上位クラスはコレット以来の快挙なんだよ」

「えっ! 何か凄い事になってる?」

従僕君とはアイリスがディーンを呼ぶあだ名だ。

学院の仕組みがどうなっているのかマグノリアには解らないが……普段は無い抜擢をされたみたいだ。

何だか目立ちたがり屋の王子とか取り巻きとかに、絡まれていないと良いがと心配になる。

ディーンからすれば、原因のひとりの癖にとジト目で文句を言いそうであるが。

「学力テストを二位通過したらしいわよ。今年の新入生はアーノルド王子以外に、留学生として帝国のユリウス皇子もいるし……男爵家出身では色々大変かもしれないわねぇ……」

コレットが自分の学生時代を思い出したのか、もの憂い気な顔でため息をついた。

……ユリウス皇子。

マグノリアはマグノリアで、最大の面倒事になり兼ねない名前に、心の中で苦い顔をする。

「ディーン君もやっぱり出来る子だったんだね!」

そんな事を知らないヴィクターが、心底感心した風に言う。

『マグノリアとクロードのせい~』

ラドリの言葉に、マグノリアは言葉を詰まらせる。

フォーレ以外の人間が……リリーとガイも、全員が微妙な表情でマグノリアを見た。

「まぁ、色々な部署が噂を聞きつけて目をつけてるみたいだよ」

「父上……宰相が何だか迷惑かけてないといいケドねぇ」

……何か、面倒な事になっていたらごめんと、マグノリアは心の中でディーンに謝っておく。

「宰相と言えば。新しい法案が出たんだけどさ……」

「私は年少ですし、そう言った事はお二方にお任せいたします」

アイリスが何やら言い出したので、国政は大人達でどうぞと、マグノリアが我関せずを決め込もうとするが。

コレットが物騒な事を言う。

「何をおっしゃいますの。既に大人顔負けに活動されているマグノリア様が……どうせ周りから見ればお仲間なのだから、諦める事でしてよ」

「ふぉふぉふぉ」

『ふぉふぉふぉ☆』

コレットの言葉に高笑いするフォーレと、真似をするラドリ。そして無言で苦笑いするヴィクター。

……領内ならともかく、国政に関わる気はこれっぽちもないのだが。

ふたりに気に掛けて貰ってはいるが、そう言った件に関してお仲間になったつもりは無く……政に関わるつもりは無いと口をへの字にした。

そんな愛らしい少女の様子を見て、先輩女爵位持ちのふたりは、いつ彼女がお仲間になるのかと手ぐすねを引いているのだが。