軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

86、終わりと始まり③

「怯むな! 代表はすぐに戻って来てくれる!! 情けないところは見せるなよ!!」

魔物討伐部として同じ部隊の仲間がひとり欠け、それから一番の戦力を失った戦場で。

クロスは声を上げる。

「言われなくても、わかってる!!」

彼の声が届いたハルルは、苛立ちを含んだ返事を返す。

魔物討伐の成績も上位に食い込んでいる面々は、ラゼの留守を必死に耐えていた。

彼女がどこに配属されたのか。急なことだったので、クロスも詳しくは聞かされていない。

しかし、彼女が呼ばれるということは重要な任務を任されたに違いなかった。

ラゼが頑張っているのだから、自分たちも尽力せねばならない。

クロスは仲間の声で安否を確認しながら、握った剣を振り下ろした。

マジェンダ帝国、帝都。

高く聳えたつ真っ白な王城は、その外壁を国民の怒りによって汚されていた。

(酷い有様だな……)

先に潜入していた同志たちのサポートを受けながら、帝国に入ったラゼ。

彼女の装いは戦闘服ではなく、みすぼらしい平民の服装になっている。

皇帝についていけなくなった帝国民たちの騒ぎに紛れるのは、思いの外簡単だった。

怒りの渦に巻き込まれながら、彼女は自らもそこら辺に落ちていたスコップを握り、城に乗り込もうとする大人たちに後方でひっそり便乗する。

(もう、崩れるのも時間の問題か)

ラゼが想像していたよりも、帝都には大勢の人間がぞくぞくと集まって来ていた。

この機を逃せば、一生あの皇帝の下僕。

そんな危機感がひしひしと伝わってくる。

自分が影から援助せずとも、皇帝は倒れそうな勢いだった。

この城からターゲットを逃さないということが、今一番重要なことだ。

優秀な特殊部隊〈影の目〉の面子が各自配置についているので心配はしていない。

どうやら反乱を起こした側には、正義に満ち溢れたリーダーがいるようなので一安心である。

「あいたぞー!!!」

そうこうしているうちに、城門が破られた。

先導にも仲間がいる。侵入を誘導するところまでクリアできたようだ。

ここからは、城内にいる兵との戦いになる。

必ず元凶を仕留めなくては。

今この瞬間にも、必死に戦場で魔物を相手している部下たちのためにも早く終わらせる。

ラゼは細心の注意を払い、仲間と連携をとりながらクーデターに混じった。

一度破れてできた穴から、どっと人が押し寄せていく。

個の力を数の力でねじ伏せ、帝国民の反乱は止まらない。

「いたぞ!!!」

「こっちだ!!」

「東館にいるぞー!」

「逃すなぁッ」

聞き覚えのある声が誘導する声たちに混じっているのを感じながら、ラゼは影から様子を見守る。

そしてとうとう、自分たちを守ってくれるものをなくした皇帝が地面に膝をついた。

「どうして! 離しなさいよッ!!」

絶望する彼の隣で、甲高い悲鳴を上げる少女は、必死に抵抗を続けている。

「私は先読みの巫女よ! あなたたち、こんなことをして、どうなるかわかってるの!?」

彼女の叫びに、ラゼは顔を顰めた。

(あの子が、もうひとりの転生者……)

きっと帝国の王を味方につければ、この世界の理を知っている自分が好きなように未来を決めることができるとでも思っていたのだろう。

「こんなはずじゃッ。こんなはずじゃなかったのに!! どうしてこんなことに!! ゲームのシナリオを変えようとしただけなのに、なんでこんな目に遭わなきゃいけないの!?」

シナリオを変えるためだけに、皇帝を味方につけようとしたことが、そもそもの過ちではなかろうか。

セントリオール皇立魔法学園に通う生徒は、シアンの宝だ。

それに敵対している帝国が手を出そうものなら、どう考えても国が衝突することになるのだが、それで戦争になるとまで考えが至らなかったのか……。自分は特別だから、こんな目には遭わないとでも思っていたのか……。

「グレセリド様! なんとかしてよ! ねぇ!!」

シナリオさえ知らなければこんなことにならなかっただろうに。ゲームに囚われた可哀想な娘だ。

彼女の言葉は、戦意を喪失した皇帝に届かない――。

反乱軍のリーダーが到着し、ことの顛末を見届ける。

クーデターが終わると、帝国民たちはすぐに終戦の準備を始めた。

反乱軍のリーダーはずっと病気だと偽って出兵を免れていた青年だった。彼との接触は数年前から成功しており、ラゼの部下で諜報部へ移動になっていたバハメット少尉がその役目を負っていた。

シアンを支えるために人知れず危険と向き合っているのは、何も彼女だけの話ではない。

ラゼは物陰から、ひさしぶりに目にした部下の姿を見つめる。すっかり痩せてしまって、大変な現場だったということが嫌でも伝わってきた。

気配に気がついたのか、彼と視線が交わる。

(ご苦労さまです)

一番危険な任務を見事に達成してくれた影の戦士に、ラゼはそっと敬礼する。

バハメット少尉はそれを見ると、さりげなく首を縦に小さく振った。

これ以上、ここですべきことはない。

ラゼはすぐに仲間と合流し、戦場に飛ぶ。

クーデターの成功を見届けて無事に生還しても、戦火がすぐに消えることはない。

統制を失っている魔物たちの処理が終わるまで、彼女たちの仕事は終わらない。

「最後の大仕事ですか」

マジェンダとの長い長い戦いに幕が降りたと速報が流れてシアンが歓喜に包まれるころ、彼らには大きな後始末が待っていた。

ラゼは戦場に戻ると、すぐに薄っぺらい服を着替えて戦闘服に身を包む。

手にはグローブ。足には刃が仕込んであるブーツ。魔物の急所を突き刺すためのナイフはいつでも手元にテレポートさせれるように、軍が数を用意してくれている。

準備は整った。後は動き回るだけ。

「代表。こちらを」

「……ありがとう」

希望に満ち溢れた目をした仲間から拡声器を持たされ、ラゼはそれを受け取る。

味方の士気を上げるために用意された、大きな青い旗を持つと、彼女は押し寄せる敵陣の背後に降り立った――――。