軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

481 監獄島⑥

光に照らされ、意識が覚醒する。見覚えのない部屋――一瞬自分がどこにいるのかわからなかったが、すぐに昨日の出来事を思い出す。

ここは――監獄島だ。そして僕はそこを見学中のクライ・アンドリヒ。

昨晩は、ジンさんに何か頼まれたのか、妙に協力的なジャック達が手に入れてくれた食料を食べ、用意してくれた何もない部屋で横になったんだった。

途中までジンさんが迎えに来るんじゃないかと思っていたが、ついつい眠ってしまったようだ。

大きく伸びをして起き上がる。ベッドもなく硬い床の上で寝たのに、身体は全然痛くなっていなかった。

というか、不思議な話だが、何か柔らかいものに包まれていたような気がする。

不思議といえば、この部屋も不思議だ。照明装置がないのに暗くないのだ。天井付近に小さな光の球が浮かんでいて、光源になっている。

その光はパーティとして宝物殿を探索する際によくルシアが浮かべていた魔法の光に似ていた。

昨日見回った監獄内の照明は珍しい事にオイルランプがメインで、薄暗くどこか陰鬱な気分にさせられるものだったが、部屋の中には別に明かりを設置してくれるらしい。

仕組みはさっぱりわからないけど……最新の監獄らしいからな。

さて、さすがに監獄島での生活も実際に体験したわけで、今日で見学も終わりになると思うのだが、僕はどうしたらいいんでしょう。入ってきた所で待っていればいいのかな?

お腹も少し空いてきた。昨日は固形食料の内、割とマシな味のものを食べたのだが、一回だけならともかく毎日あんなもの食べてたら気が滅入りそうだ。

扉をそーっと開ける。

外を覗いた瞬間、部屋の外で待機していたジャックとグランドと目が合った。

「!? え、えっと……おはよう?」

「お、おはよう、ございます。《千変万化》さん」

「…………本日もご機嫌麗しゅう、閣下」

「…………何かあった? 顔色悪いけど」

一瞬、言葉に詰まる。二人の顔色はどう控えめに言っても、今にも死にそうだった。

表情にまるで血の気がないし、全身がぐっしょり濡れている。唇も紫色だし、どこかやつれていた。

「へへ……いえいえ、少々氷漬けにされていただけですから。もちろん、この程度で済んだのは《千変万化》さんのおかげだと承知しております」

「あ、はい……」

氷漬け? 氷漬けにされていたの? その程度で済んだのは僕のお陰なの? 意味がわからない。

僕は賊は大嫌いだが、さすがに顔を知っている人間が死にそうなのを見て何も思わない程ではない。

「しかしあの女、大した 魔導師(マギ) だ。でも、氷の中でも、様子は見えてましたぜ」

何があったのかはさっぱりだが、何かあったのは間違いないらしい。まぁ、ここは監獄内だし、食料確保のために周りに喧嘩を売っていたし、何があってもおかしくはないだろう。

敵も犯罪者なら味方も犯罪者だ。僕はさっさと出ていくから好きにすればいい。

何も関係ない僕に迷惑かけるのはやめて欲しいけど。

「か、閣下、ところで、閣下は僕に、蛇とは関わりはないって言いましたよね?」

グランドが震え声で確認してくる。

「う、うん、まあ関係ないよ、僕はね。仲間達はちょっと色々あったみたいだけど――」

「!? そ、それはッ!?」

なんかこう、うん、まあ……ごめんね?

でも多分彼らは僕の顔を覚えていないから、襲われたとしたら僕の名前を出したジャックが悪いような気もする。

「それより、随分寒そうだよ! 火にでも当たって――」

そう言いかけたその時、壁の一部分が爆発し、盛大に燃え上がった。

「ッ!?」

どろどろに溶ける金属の床壁天井に、轟々と燃え盛る炎。強い熱と光が、憔悴したジャックとグランドの顔を照らす。

え? なんで今爆発した? なんで燃え上がった? なんで?

少なくとも攻撃ではない。この部屋にはジャックとグランドと僕しかいない。

と、とりあえず――。

「…………暖でも取る?」

「…………データだ。僕のデータ――」

引きつった表情でぶつぶつつぶやきながら火に近づき、暖を取るグランド。

とりあえず、氷漬けになっていたなら身体を温めない事には考えもまとまらないだろう。

うん、そうだよ…………これももしかしたら、新型の暖房器具かもしれないし。

「そ、そうだ! 料理もできるんじゃない?」

「…………そうですね。いやしかし、水をまず確保しねえと――」

そういえば、水も貴重品だって言っていたね。炊事場を怖い人達が仕切っているらしい。昨日の食事が固形食料になった理由でもある。

なんか普段の文明のありがたみがわかるね。

ため息をついたその時、ジャックの真上から雨が降ってきた。

室内なのに、ジャックの頭上にピンポイントで雨雲ができている。

「……………………あ、ありがとうございます」

「…………不思議な事もあるもんだね」

絞り出すように声をあげるジャックに、僕は白々しい言葉を返すことしかできなかった。

僕じゃあない。僕は何もやっていないし、何もできない。となると、これは誰の仕業か。

そうですね、間違いなくルシアですね。魔法だよ、これは。きっと、どこからか僕の様子を見て魔法でサポートしてくれているのだ。

そしてやり過ぎである。水や火を出すにしてももう少し穏便なやり方があったはずだ。

………………ルシアも割と犯罪者とか嫌ってるからなあ。

「りょ、料理を作ればいいですね。へへ、水と火があればなんだってできらあ」

「データだ……そうだ、これは僕達にとっていいデータだ。蛇は撃退した、この監獄島でここまで魔術を使える《千変万化》に喧嘩を売る者など、今度こそいるわけがない。これはいい情報だ、ジャック! ははは…………閣下、このグランドにお任せくださいッ! 蛇や狐など問題にならない強大な組織を生み出してみせましょうッ!」

「…………ま、まぁ、程々にね」

まずい、早く外に出ないと面倒な事になりそうだ。

そうだ……入口だ。監獄の入口に行こう。ジンさんに会えればきっと外に出してくれるはずだ。