軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

230 嘆きの悪霊

「かなりの腕利きだな。特に情報収集能力が素晴らしい。昨日で3グループも倒したぞ。少々まとっている空気は不穏だが……あんな逸材どこで見つけた?」

どうやら灯火たちは隣の宿に泊まる事にしたらしい。クライアントであり何かと物資を融通しているらしいシトリーに配慮しているのだろう。

狐面愛好会(仮)と共に行動した感想を聞くと、灯火が探るような目付きをこちらに向けて言った。

シンボルカラーである紅色の鎧が眩しい。灯火の行う評価はどこまでも冷徹だ。彼女はレベル8という評判を鵜呑みにしない気質を持つ数少ない友人だった。

何か起こったら灯火は容赦なく僕を口撃してくるはずなので、何もなかったのだろう。

狐面愛好会。誤解から始まったよくわからない関係とはいえ、やはりなかなかの強者集団のようだ。

「まぁ色々あったんだよ。うまく付き合えているならよかった」

「今日戦った敵が明日味方になることもある。逆もまた然り、だ。時に犯罪者まがいの連中を使う事もあるが――事前に言ってもらわないと困る」

酷い言いようである。確かにあの連中の怪しさは尋常ではなかったが、彼女は何を見て犯罪者などと決めつけているのだろうか?

正直に告白しようと言った僕の言葉をソラは結局取り合わなかった。どうやらこのままいけると判断したらしい。

だからまだ、狐面愛好会(仮)の誤解はとけていない。その場当たり的な対応に非常に親近感を覚えるのだが――年上として何とかしてあげねばならないだろう。

鋭い目の灯火に、シトリーが割って入る。目を細め、薄い笑みを浮かべて言った。

「まぁまぁ、灯火さん。その辺りについては事前に言ってある通りです。クライさんは平気で犯罪者を自在に操ります。何も言いません、それを前提に行動していただかないと――これは、契約の範疇です」

「む…………」

灯火がむすっとして黙り込む。一体シトリーとどういう契約が結ばれているのだろうか? 少なくとも《灯火騎士団》やその仲間たちがシトリーに対して向ける視線は純粋なクライアントに対するものではない。

そして、犯罪者を自在に操るクライさんとはどのクライさんの事なのだろうか?

むしろ僕は操られる方だと思うよ。エヴァやシトリーがいるからそんな事になっていないだけで――。

「まぁ、良かろう。金のためならば何でもする。使えるものは使うのが我々のモットーだ、《千剣》との模擬戦はいくら積まれてもやらんがな」

ルーク……嫌われてるな。いや、嫌われているというよりは怖れられているというべきだろうか。

相手が腕利きであればあるほど熱くなり手加減できなくなるルークはクランメンバーでリィズと同じくらい怖れられている男でもあった。

ちなみに今はおとなしくしている僕にしびれを切らし、リィズ、アンセムと一緒に三人で街に繰り出していってしまった。

多分誰かを殴りにいったのだろう。今回アンセムがいるからまあ捕まるところまではいかないと思う。

そこで、話を切り替えるようにシトリーがぱちんと両手を合わせた。

「それで、灯火さん。情報は入っていますか?」

「情報……?」

「武帝祭の出場者について調べて貰っていたんです。私が優勝を狙うには最善を尽くさねばなりませんから」

さすがはシトリーである。ルークやルシアも出場するし、 錬金術師(アルケミスト) で優勝はさすがに難しいのではないかと思うのだがそんな事は手を抜く理由にはならないらしい。

毒気の抜けるような笑顔に、灯火は珍しく苦笑いを浮かべた。

「まったく。私も出場すると言うに――」

「ビジネスとそれはまた別の話です」

「その通りだ。金払いのいいクライアントは何よりも得難い」

仲いいな…………その社交性を他の連中にも分けてやりたい。リィズやルークは論外だが、ルシアもああ見えて案外人見知りなのだ。

灯火は居住まいを正すと、仲間にファイルを持ってこさせた。テーブルの上にそれを広げ、まるで秘密の話でもするかのように声を潜めて言う。

「まず、そうだな……一番、興味深い話からしよう。ボス――貴方の偽物が出るぞ」

「…………いや、それは偽物じゃなくて僕の本物だよ」

「!?」

灯火が眼を丸くして、仲間と顔を合わせた。

§ § §

数多自然発生する宝物殿から産出される富により繁栄するこの時代。宝物殿から宝具を持ち帰るトレジャーハンターは英雄と呼ばれる。

トレジャーハンターは富、名誉、力、全てが手に入る最短の方法であり、それ故にこの今の時代はトレジャーハンターの黄金時代と呼ばれていた。

幼少の砌から周囲と比べて突出した才能を、英雄の資質を表したクラヒ・アンドリッヒがハンターを志すのは言わば必定だった。

気づいた時には憧れ、物心ついた頃には周囲の大人たちもクラヒがトレジャーハンターとして大成する事を疑っていなかった。

身体こそそこまで大きくはならなかったが、クラヒには突出した戦闘センスと男とは思えない強大な魔力資質があった。

何より――トレジャーハンターに必須とされる、高いマナ・マテリアルの吸収力と保持能力があった。

そして――クラヒは運命に導かれるかのようにトレジャーハンターになった。

だが、その神に祝福されていると言っても過言ではない能力があっても、宝物殿は手強かった。

故郷の街を出てからクラヒに待っていたのは茨の道だった。

無我夢中だった。数々の宝物殿を攻略した。研鑽した。命を失いかけた事もあれば、犯罪組織に狙われた事もある。

余裕はなかった。寝る間も惜しんだ。艱難辛苦はクラヒ・アンドリッヒにとって神の試練であり、しかしそれを乗り越える事は喜びだった。

そして気がついた時には――クラヒの名は千里に轟いていた。

レベル8(に思える程の実力を持つ)、《千天万花》のクラヒ・アンドリッヒ。

未だ二つ名は受けていない。だが、多くのハンターがクラヒの名を知っている。

堂々と名乗りをあげたことが功を奏した。トレジャーハンターの二つ名は基本的に探索者協会が決めるが、格好悪い二つ名をつけられては堪ったものではない。

《千天万花》。千の天を旅し、万の花のように輝く。トレジャーハンターたるクラヒの理想。

時に名前が間違えて覚えられている事もあったが、そのような事は些事に過ぎない。

そして、とうとうクラヒは武の頂きたる武帝祭に参加する権利まで得た。

万感の思いだった。

今のクラヒについての噂は行き過ぎている。クラヒは未だレベル8でもなければ二つ名持ちでもないし、巨大な犯罪組織を何もせずに壊滅させたり花畑を宝物殿に変えたこともない。

だが、その噂はきっと期待の表れだ。

クラヒ・アンドリッヒは武帝祭で優勝することによってようやく噂を一歩凌駕できるのだ。

出場者は恐らく強敵だ。クラヒよりもずっと前から武の道に身を置いている者も大勢いるだろう。

だが、今のクラヒのコンディションはいつになくいい。

いける。今のクラヒの実力はきっとレベル8に匹敵している。

何よりも、クラヒには仲間がいる。最初はソロだったクラヒの理想に賛同し付いてきた大切な仲間が。

武帝祭を仲間と戦う事はできないが、仲間がいるというその事実がクラヒに力を与えるのだ。

パーティだって作った。《 嘆きの悪霊(ストレンジ・フリーク) 》なんて名前にすると言われた時には、そのシンボルを仮面にしたいなどと言われた時には驚いたものだが、クラヒには仲間の意見を聞き入れる度量がある。

「ねぇ、これ、まずくない? どうすんのよ、クール。さすがに本物には勝てないわよ? あたし」

「むむ……まずいですね。まさか本物が出るとは……」

武帝祭の拠点として借りた宿。そのリビングで《 嘆きの悪霊(ストレンジ・フリーク) 》の仲間達、《絶景》のエリザベス・スミャートと、《先見》のクール・サイコーが深刻そうな表情で顔を突き合わせ相談していた。

エリザベス・スミャートは 盗賊(シーフ) だ。目に眩しい蛍光ピンクの髪に、ほぼ裸のように露出した服装。何より眼を引くのは大きく付き出した胸である。《絶景》の二つ名はそこからも来ているらしい。頭が悪い二つ名だと思うし、時折ずる賢い事を言うのが玉に瑕だが、盗賊としての腕前は悪くない。

クール・サイコーはパーティのブレインだ。眼鏡を掛けており、いつも敬語なのが特徴で、剣を振った事はないらしいが何故か剣士を名乗っている。

戦闘ではほとんど役に立たないが、リーダーとしての訓練を受けていないクラヒがパーティを作ってここまで円滑にすすめてこれたのはその《先見》の為せる技だった。

他のメンバーについても、少々おかしなところはあるが、これまでずっとソロだったクラヒにとってかけがえのない仲間だ。

「うちのパーティ、クラヒさん以外、小物ですからね……」

「そりゃ……小物じゃなかったら『ズリィ』なんて呼ばせないっつーの」

「!! そんな事ない!」

聞き捨てならない言葉に、思わずクラヒは割って入った。

成り行きとはいえ、二人はもう同じパーティのメンバーなのだ。

常々言い聞かせてはいるのだが、自己評価が低い事がクラヒのパーティメンバーの弱点である。

「クール、ズリィ。君たちがいなければ僕はここまで早くこの晴れ舞台に立っていなかった。感謝してるよ」

真剣な顔で言うクラヒ、ズリィが引きつった表情を作る。クールも困り顔だ。

「何で……こいつ、こんなに強いのよ……まさか武帝祭に出るなんて――」

「そりゃ…………彼は一人でずっと戦い生き延びていたわけで…………彼だけは故意じゃありませんからね」

そうだ。誰だろうと関係ない。相手が誰だろうと負けはしない。何でもこい!

僕が変える。

自身の名前だけではなく、《 嘆きの悪霊(ストレンジ・フリーク) 》の名を轟かせて見せる。それが、今のクラヒのもう一つの夢だ。

クラヒは決意を新たにすると、静かに燃える瞳を窓の外に向けた。

武帝祭を前に、街は少しずつ賑わいを見せつつある。ふと、クラヒは思った。

そういえば、あの自分に似た名前の青年は応援に来てくれるだろうか?