軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

228 やばい組織③

【迷い宿】の幻影がドロップした仮面は確かに貴重品である。だが、見たところ、特に特殊な能力などは持っていないようだ。

幻影は死ぬと衣類の欠片すら残さず消滅するが、極稀に消滅時に身に着けたアイテムの一部などが残る事がある。

幻影の力に比例してその確率は大きくなっていくとされるが、それらドロップアイテムは宝具と比較して能力が低い事が多い。幻影のドロップアイテムというのは言わば、幻影の欠片なのだ。

珍しいかどうか問われたら珍しいが、僕には狐面愛好会のメンバーが問答無用で付き従うような一品には見えない。デザインセンスなどはなかなかいいが、現代技術ならば簡単に再現できるだろう。

僕の問いに対するソラの表情の変化は劇的だった。これまで纏っていたどこか神聖な雰囲気を霧散させ、目を白黒させている。

振り返り後ろを見て、他の狐たちがいない事を確認すると、震える声をあげた。

「な、何を言っているのですか、白狐様。御冗談を…………」

「この仮面さ、この間、宝物殿で 幻影(ファントム) を倒したら手に入れたんだよ」

「!???? !? ひぇ!? !? え??? えええ!?」

ソラの顔色が青くなり赤くなりまた青くなる。面白い……。

しかし、ソラ達は一体この仮面を何だと思っていたのだろうか?

仮面を外し、しげしげと確認する。ただの仮面だ。ただの狐面だ。

デザインは秀逸だし確かに奇妙な雰囲気はあるが――僕なら、どうせ仮面ならばこんな狐の面ではなく変身能力を持つ『 転換する人面(リバース・フェイス) 』がよかった。高望みしすぎだろうか……。

「え? えっと……むむむむむ……?」

「ねえ、この仮面ってもしかして高く売れたりするの? 貴重品?」

「!? う、売る!?」

腕を前で組み、冷や汗をダラダラ流しながら唸っていたソラが頬を引きつらせる。

なるほど……売るなど考えられない貴重品って事か。でもなあ……僕にはこの仮面の価値がわからない。

被ったのだって顔を隠せるのがこれだけしかなかったからだし、どうせなら目の場所に穴の開いている仮面の方がいい。宝具がなくても前が見えるからな。

能天気にそんな事を考える僕に、狐面愛好会で唯一仮面を被っていない少女は僕にずいと近づき、まるで秘密の話でもするかのように声を潜めて言った。

「つつ、つまり…………貴方は、こう、仰るんですか? 自分は、白狐ではなく、その仮面は、宝物殿で手に入れたものだ、と……?」

切羽詰まったその言葉に、僕はようやく気づいた。

もしや……人違いしてる?

「もしかして、人違いでもしてた?」

「ッ……………………そんなぁ…………嘘、です…………」

ソラが細い悲鳴をあげ、まるで現実逃避でもするかのように頭を抱えて身を捩った。その挙動は最初に出会った時と違って年相応だ。

仮面を被り直し、うっかりをしでかしてしまったらしいソラを慰める。

「まあまあ、そういう事もあるよ……」

「なんで、手を引かれた段階で、言わないんですかぁッ!!」

「…………」

そんな事言われても困る。いきなりこちらですとか言って僕を狐面愛好会の集会場に連れて行ったのは彼女だ。僕は終始戸惑っていただけである。

「じゃ、じゃあ、狐面愛好会ってのは?」

「え? …………違うの? 皆狐面を被ってたみたいだけど」

「ッ………………そんな、ある? そんな事、ある? 普通、言う? ……ないない。習ってなぁいッ!」

ソラがぷるぷる震えている。そんな事言われても……じゃああの場所で僕はなんと言うのが正解だったんだよ。

今回ばかりは僕は全く悪くない。ソラが悪い。そしてこんな子どもをお使いにした狐面愛好会(仮)が悪い。だが、それをソラに指摘するのも大人げないだろう。

僕はハードボイルドに大人の余裕を見せた。

「まぁまぁ、正直に告白して謝れば許してくれるよ」

「ッ!? 許される!? 許されるって言いました? そんなわけないでしょ! 私は、言ったんですよ!? 言っちゃったんですよ!? 貴方が白狐様だって、はっきりッ!」

「ええ…………駄目だよ、報連相ははっきりしないと。報連相――報告、連絡、相談って、知ってる?」

「なんでぇ、本物の仮面持ってるんですかぁッ! それは、神聖な白狐様しか持ってちゃ駄目なのにぃッ!」

「え? ただの【迷い宿】の雑魚ドロップだよ」

「!?」

まぁそもそも【迷い宿】に迷い込んでしまう者が何人いるのかという問題もあるが、幻影はただ会話しただけで消滅したのだ。幾つか出回っていてもおかしくはない。

「てかそもそも、白い狐面が白狐様の証? って制度自体おかしくない? 人違いもあるだろうし、制度の変更が必要だと思うよ。相談してみたら?」

「ッ――――!!!」

僕の指摘にソラが耳をふさぎ座り込んでしまう。

白い狐のお面なんていくらでもあるだろう。偽物だっていくらでも作れそうである。

「今回は偶然の人違いだったけど、悪意を持って仮面を被って近づく人ももしかしたらいるかもしれないしさ」

「ちょ、ちょっと貴方は、黙っててくださいッ!!」

「あ、はい」

狐面愛好会(仮)の事を考えての提案だったのに、どうやら聞く耳は持たないようだ。

しかたなく、小さくため息をつき腕を組みソラの決定を待つ。

今回僕は悪くない。顔を隠すために持っていた仮面を被っただけだ。

全く、小指の爪の先程も悪くないが、なんか面倒くさそうだし、もしも謝罪が必要ならば謝るのもやぶさかではない。顎で使っちゃったしな……。

「って事は?」

「人違いで?」

「でも仮面は本物で?」

「でも白狐様の判定を誤って?」

「でも神様の仮面なのは本物で?」

「神官としては間違えてない?」

「でもボスではない?」

「組織としては……誤り?」

「最初の……仕事だったのにぃ」

まるで考えを整理するかのようにぶつぶつと呟くソラ。

別にいいじゃん。間違えは誰でもあるよ、僕だっていつも間違えている。

大切なのは未来だよ。何もその間違いで人死が発生するわけでもないし、気楽に行こうよ。

やがて、考えがまとまったのか、ソラが立ち上がる。

立ちくらみのように一瞬ふらつくがすぐに立ち直ると、僕をきっと睨みつけた。

目の端に涙が浮かんでいる。透明な瞳が狐面を被った僕を映している。そして、ソラが言った。

「貴方は…………貴方は、紛うことなき、白狐様、です」

「え!? 違うよ? 僕は仮面を偶然手に入れたただのハンターだ」

これまで何を僕の話を聞いていたのだろうか?

僕の応えに、ソラがぎゅっと拳を握り、指をつきつけた。

「違いません。私が決めました。貴方こそ――狐神が認め神器を与えた、白狐様ですッ!」

「え!? 違うよ」

「そもそも、仮面が本物って事は、中身も本物ってことッ! 私はずっとそう習ってきました! 私は神官、由緒正しき狐神の巫女。そうなるべく育てられてきた。私の眼を騙す事は――できません。絶対にッ!」

「なるほど。それは…………凄いね」

頑なな言葉である。

由緒正しき巫女とは……狐面愛好会(仮)は一体どんな会合なのだろうか? 楽しいのかな? 僕も入ろうかな。

いや、でも狐面愛好会に入ると白狐様? には絶対服従なのか。それは嫌だ。

「つまり、私は――間違えていません」

「いや、間違えているよ」

「組織に害を与えようなど考えもしていません。私を間違いだと言う者がいたら、その者こそ反逆者です」

……あれ? もしかして……ミスを隠そうとしている? もしかしてこの子……駄目な子か?

なんか凄くシンパシーを感じる。場当たり的な対応において僕は他の追随を許さない。

ソラの眼はぐるぐる回っていた。だらだらと汗もかいている。だがそれでも、ソラは拳を握って勢いよく振り上げた。

「狐神様に認められた新たな白狐様を頂点とした新組織。その名は…………『十尾の影狐』。尾が一本増えたのでこちらの方が上ですッ!」

「いやいやいや、それは駄目だよ」

「え!?」

『十尾の影狐』。不吉な名前である。そもそも、例の皇帝の護衛の件で狐という単語には余りいいイメージはないし、犯罪組織と間違われる可能性もある。

名前とは重要だ。僕は自分のパーティ名を《嘆きの亡霊》にしたことを何度も後悔してきた。今は慣れてしまったのでもう変えることなど考えられないが、ハンターになりたての頃はその字面からレッドパーティと間違われて追われたものだ。

僕は愚かだが、二度同じ間違いをするほど愚かではない。

目を丸くするソラに宣言した。

「名前が良くない。僕たちは――」

「――そう、『十尾の油揚げ』だ」

「!? 十尾の、油揚げぇ!?」

ソラが素っ頓狂な声をあげるが、僕は本気だ。

「そう。十尾の油揚げ。油揚げはいいよ、たまに命も救ってくれる」

実際にそれで争いを回避したこともある。美味しいものはいい。美味こそ世界を救うのだ。

「そんな……秘密組織の名前が、『十尾の油揚げ』? 貴方にセンスはないんですか!?」

ソラが反論してくる。秘密組織? 秘密組織って言った?

僕は腕を組むと、ハードボイルドな表情で言った。狐面に隠されているせいで見せられないのが残念だ。

「秘密組織……? いや、秘密にしたりはしないよ。やることは美味しい『いなり寿司弁当』の作成だ。全国展開を目指す」

「!? !??? ほ、本気ですか!?」

やることは油揚げの製造である。白狐印の美味しい『いなり寿司弁当』を作るのだ。

もちろん僕は参加しないけど、『迷い宿』の幻影はいなり寿司が大好きだったみたいだし、ぴったりだ。

今日の僕は――冴えてる。