軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

226 灯火騎士団

号令に従い、団長を含め《 灯火騎士団(トーチ・ナイツ) 》の面々が一斉に手を上げ敬礼し、そのままぴしりと停止する。

パーティの力を決定づける要素は大きくわけて二つある。個人の力量と、メンバー間の連携だ。

屈強な幻影や一般人では手に負えない魔物を倒すには、弛まぬ鍛錬で鍛え上げた個々人の力を連携により数倍に高めねばならない。

そして、一流のパーティにもなると当然、個人の力量も連携も高いレベルで修めている事が多いのだが、《嘆きの亡霊》はどちらかと言うと個人の力に頼るタイプであり、《 灯火騎士団(トーチ・ナイツ) 》は逆であった。

恐らくその辺りの差異が活動内容の差にも繋がっているのだろう。

灯火達は最初に出会った時と同様、まるで本当の騎士団のようだった。いや、むしろより洗練されているようにも見える。というか、人数ちょっと増えた?

衆目の中でも微塵も揺るがない鉄壁の意志。敬礼を受けているとこちらまで注目されてしまうので、慌てて言う。

「ま、まあまあ、人の目もあるし、楽にしてよ」

「敬礼、やめッ!」

これまた揃った動きで敬礼を解く。

そもそも、《灯火騎士団》の顧客は僕ではなくシトリーだ。資金面と物資面でサポートしているらしい。

その騎士団は理ではなく利で動く。故に、《始まりの足跡》の中で《灯火騎士団》の立ち位置は変わっていて、僕に対する対応も変わっている。

僕がボスなのはシトリーのパーティリーダーだからであり、シトリーが僕と仲が良いことを知っているからだ。

ある意味、変な信頼を寄せられるよりも余程やりやすい相手である。

敬礼のパフォーマンスも客を増やすための知恵なのだろう。商人や貴族なども、粗暴な傭兵団よりは統率の取れた傭兵団を好むはずだ。

強い奴と戦うのが大好きなルークが眉を顰め声をかける。

「まさか灯火も武帝祭に出るのか」

「うむ……オファーが来てな。《千剣》、貴殿もか」

武帝祭の出場者は様々だ。国の保有する騎士団の団長が出ることもあれば、広く名の知られた傭兵団のメンバーが出ることもある。

《灯火騎士団》は商会や貴族の間で有名なのでその伝手だろう。団長が武帝祭に参戦ともなれば、傭兵団の知名度も更に上るはずだ。

ルークはなんとも言えない微妙な表情をしていた。

人斬りルークがすぐに灯火に斬りかからないのは彼女が無益な戦い(文字通り、お金の入らない戦い、だ)をしないタイプなので、いい感じにルークとは噛み合わないからだ。

ルークは一方的に斬りたいのではなく、斬りあいたいのであった。うちのクランは仲良くがモットーなので、変な所で律儀なルークはそれをきっちり守っている。

灯火がすっとシトリーを確認し、ルシア達を確認し、僕を見上げた。

「マスターも、悪いが、こちらは手加減はできない。そこまでの料金は貰っていないからな」

お金さえ貰えば手加減もするのか……相変わらずだ。というか、灯火は僕が出場すると勘違いしているようだ。

きっと噂話を聞いたのだろう。

灯火、実はここだけの話――その《千天万花》は実は僕じゃないんだよ。

そいつは――――僕の本物だ!!!

名前と二つ名(向こうは自称らしいけど)以外は何もかも違っていたが、恐らくクラヒの存在を知ったらいつも凛々しい灯火も目を丸くすることだろう。

僕はにやりと笑みを浮かべ、ハードボイルドを気取った。

「こちらこそ、悪いけど本物の僕は手加減なんてしないよ。自慢じゃないが本物の僕はかなり強い。外套もばさっとする」

まぁ偽物の僕も隙あらば外套はばさっとするが。

灯火があっさりと目を丸くする。まさかクラヒを前にする前に目を丸くするとは僕の楽しみが早速奪われてしまった。

「あ、ああ、そうか……外套?? ま、まぁ、御手柔らかに頼む」

「ま、まぁ、今回僕は観戦目的だから……本命はルーク達だよ」

慌てて日和る。……本当は出場しない事を知っても後で怒ったりしないよね?

大丈夫、大丈夫だ。そもそも滅多に帝都に立ち寄らない灯火でも、僕が平和主義で、いつもハンターを引退したがっている事は知っているはずだ。

相変わらず《灯火騎士団》の面々はただならぬ空気を纏っていた。

高レベルに認定されるようなハンターは一般人が見てもはっきり区別がつくような空気を持っている事が多いのだが、《灯火騎士団》の面々が纏う空気は騎士団が凱旋時に見せるものにかなり近い。

これだけ統率が取れているのもひとえにリーダーたる灯火のカリスマ故なのか。いつもなんだかんだルーク達に流されてしまう僕も見習いたいものだ。

《嘆きの亡霊》と《灯火騎士団》の仲は微妙だ。よくもないし悪くもない。というか、彼女たちは帝都にいる期間がほとんどないので、僕たちとの関わりも根本的に薄い。

だが、《灯火騎士団》側の対応は好意的だった。

勧められたので共に卓を囲む。灯火を始め騎士団の主要メンバーが接待してくれる。

「ここで遭ったのも何かの縁。思う存分飲んでください、出しますよ」

と言っても、シトリーのおごりである。彼女は随分《灯火騎士団》を気に入っているらしい。多分お金で解決できるのが楽なのだろう。

「とのことだ。客のご要望だ。シトリーの好意を無駄にするなッ! 飲め! 感謝を忘れるな、ここまで気前のいい 顧客(マスター) はそうはいないぞ。敬礼ッ!」

「いただきますッ!」

皆が揃って再び敬礼する。シトリーが呆れたように目を瞬かせる。

彼らは敬礼をすればいいと思っているようだ。そしてマスターの使い方おかしくない?

飲みながら灯火達の近況を確認する。

どうやら《灯火騎士団》はいつも通り賞金首を追ったり戦いに参加しながら各国を回った後、武帝祭に出るために戻ってきたようだ。

村を襲っていたオークを狩ったり獣人の盗賊団を潰したり戯れに宝物殿に突入したり、よくもまあ色々やったものだと思うが、冷静に考えると僕たちの方が色々やっている。

リィズが《灯火騎士団》のメンバーと飲み比べをして、ルシアに呆れられている。

ルークはどうやらターゲットを他の客に定めたらしく、猛禽類を思わせる鋭い目付きで酒場内を見回していた。

灯火騎士団(トーチ・ナイツ) の方々にお酌をしてもらいながらさっきからずっと思っていた事を尋ねる。

「そういえば、人数増えた?」

「む……?」

灯火の眼差しが鋭くなる。

……何か変な事言った?

灯火騎士団(トーチ・ナイツ) は拠点を持たないタイプのパーティだ。各国を旅して、その地で有望なメンバーを見つけたらスカウトすることもある。そして、本来所属メンバーが勝手に増える事は好ましくないが、《始まりの足跡》はそれを許容してきた。

人数を覚えているわけではないが、パッと見て何人か増えている気がする。二、三人だろうか?

だが、どうやら何か間違えていたようだ。滅多に帝都を訪れない大人数パーティのメンバーの顔なんて覚えているわけがない。僕はごまかすように笑った。

「いやー、ははは……随分多くなってるなって。そうだな……十人……いや、十一人くらい増えてない?」

冗談である。いくら 灯火騎士団(トーチ・ナイツ) が大人数だと言っても、十人は絶対に増えてない。

『いくら我らが大人数でもそんなに増えるわけないだろう、マスターは面白いな、あはははは』という反応を期待する僕に、灯火は腕を組んだ。

「ふむ…………相変わらず、眼がいいな。確かに…………十一人増えた」

え? マジで?

いやいやいや、どう見ても十一人は増えてない。これは……ボケにボケで返し、つっこみを誘っているのかな?

つっこんでもいいものか……これがアークだったらすかさずつっこみをいれるのだが、灯火だしなぁ。

僕以上の大人数に酌を受けていたパトロンのシトリーがきょろきょろと《灯火騎士団》の面々の顔を確認し、

「一人も増えているようには見えませんが……新メンバーはどこに?」

「然り、極秘任務中、である。我々も有名になった、敵も多い。報告が遅くなった事を謝罪しよう」

灯火が深々と頭を下げる。え……えええ……。

ただの小粋なジョークじゃないか。おまけにこの場にいるメンバーは一人も増えてないのかよ! 色々な意味でどうしていいかわからない。

しかも《灯火騎士団》はもともと有名だったし敵も多かったはずなのに、更に敵が多くなったらしい。笑う。

「頭を上げてくれ、灯火。君たちが人数を増やすのは自由だよ。ほら、クランに参加してもらう時にもそういう条件だったじゃん?」

「クライさんは何も思っていません。《灯火騎士団》には助けられていますし、迷惑を掛けない限り黙認します」

「《灯火騎士団》に助け…………? ああ、うん、その通りだ。いつも世話になってるし、人増やすくらいならなんて事ないよ。あはははは」

そう、せいぜいが……エヴァが困るだけである。クランは所属メンバーを管理する義務があるのだ。

この事がバレたら僕はエヴァに小言を貰うだろうが、いつも大体貰っているので今更一つ二つ増えた所でどうということもない。

だが……そうだな。エヴァが怒るに怒れなくなるような理由が欲しいなぁ。

灯火がもっともらしく頷く。

「寛容な沙汰に感謝する。武帝祭中は我らも稼ぎ時だ。他国で賞金が掛けられた者も何人もいる」

「ん? なんだ? なんかおもしれえ話してるな?」

「なになに? 何をぶっ殺せばいいの?」

なるほど……この前、シトリーが言っていた話か。武帝祭にはろくでもない連中が割り込んでくるとかこないとか……しかし大会前なのに仕事熱心なことだ。

物騒な話になったのを聞きつけ、うちの物騒なメンバー二人が割り込んでくる。

リィズとルークに見据えられ、灯火が深々とため息をついた。

「確かに、此度の武帝祭は特にひどい。とても手が回らん。《千剣》に《絶影》、それにマスターも――わかっているとは思うが、貴殿らをターゲットにしている者も少なくないぞ」

「わーい!」

「わーい!」

「わーい! じゃなーい! 色々用事を諦めてまで、わざわざ何をしにここまでやってきたのか――」

リィズとルークの知能指数が思いっきり下がり、ルシアが大声でツッコミを入れた。

武帝祭の熱気に当てられたようだ。本戦の前に準備運動をしたいらしい。どうにかして止める方法はないものか……僕は観光したいんだよ。

と、そこで僕は良いことを思いつき、指をぱちんと鳴らした。灯火がその名の通り小さな輝きを宿す双眸をこちらに向ける。

「そうだ。僕もそっち方面については色々あってある人達に協力してもらってるんだよ。何なら、一回会ってみる?」

「む……?」

狐面愛好会。おかしな連中だし変な方向にこじらせているが、情熱は本物だ。地下で見た感じだと、腕利きも交じっていそうである。

彼らは僕に命令してくださいと言った。だから命令してあげた。

だが、冷静に考えて地下組織の処理は(たとえ同じ秘密組織であったとしても)ただの狐面の愛好会に頼むことではない。

その点、灯火が参加すればある程度は安心できるだろう。何しろ、《灯火騎士団》は狐面愛好会とは違う、数多の実績あるプロ中のプロだ。傭兵の彼女たちならば他のチームと協力するのにも慣れているだろう。

狐面愛好会の人も強い味方ができてよし、《灯火騎士団》も人は少ないより多い方がいいだろうからよし、そして僕も――よし。

今日の僕は――冴えてる。

と、そこで僕は重要な事を思い出した。目を細め灯火を見て言う。

「ああ、そうだ。まずはあれを用意してもらわないといけない――――狐のお面! 珍しければ珍しい程いいと思う。もちろん、装備に合わせて赤一色とかでもいいと思うけど……用意できるかな?」