軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

224 やばい組織

シトリーがクリートでの拠点として予約を取っていた宿は豪華というよりは堅牢な建物だった。

これまで訪れたどの都市とも違う奇妙な賑わいを見せるクリート。その中心部に存在する宿だ。

建物自体は大きく、見た目もシンプルだが、エントランスの前だけでも何人もの完全武装の騎士達が警備についている辺り、普通ではない。

分厚い窓ガラスに奇妙な光沢を持った壁。恐る恐る入った宿内は一見普通に見えるが、そこかしこ目立たない場所に何人もの警備の騎士が立っている。旅行の際にシトリーが取る宿は大体豪華なものなのだが、今回は違うらしい。

何かあったのかとも思ったが、観察する限りそういうわけではないようだ。

僕たちの他に入った客は如何にも立派な(そして高そうな)格好をした商人や、お付きの者を大勢連れた貴族然とした者など、ただのハンターなどは一人もいない。

案内されたのは上層階にある、大人数が泊まれる広い部屋だった。リィズが歓声を上げ、早速室内を駆け回り、ベッドの下や絵の裏など確認している。ルシアが大きく取られた窓から外を見回していた。

何故だろうか、ここは街の宿のはずなのにまるで野宿時と似たような立ち回りをしているように見える。

シトリーちゃんが自慢げにちらちら僕を見ながら言う。

「今回は一番安全な宿を取りました。武帝祭の間はクリートは物騒ですから」

え? …………なんで? 観光に来ただけだよ?

実はガイドブックも調べたのだが、観光客にもおすすめの街である。ゼブルディア程ではないが、治安は良い方だったはずだ。

黙っている僕に、ルシアが深々とため息をつく。

「先日、『九尾の影狐』に喧嘩売ったばかりですからね……用心するに越したことはないかと」

「何人来るか楽しみだ。腕がなるぜ」

「うむ」

ルークがブンブン腕を振り、アンセムが重々しく頷く。どうやらわかっていないのは僕だけのようだ。こういうのに慣れていなかったら凹んでいるところである。

ハードボイルドな笑みを浮かべる僕に、ルシアが窘めるような口調で言う。

「リーダー、私達には敵が多いんですから……気をつけてくださいね」

「うんうん、そうだね?」

「恨み買ってますからね……私達が出場するって情報は既に広まっていますし、各地から組織の残党も集まってきているはずです」

すべて初耳である。……いや、恨みを買っている事くらいは知ってるけど……。

どうやら何も見つからなかったらしいリィズが、行儀悪くテーブルに腰を掛け、脚を組むと、獰猛な笑みを浮かべて言う。

相変わらずリィズは自信満々だ。

「全員、キッチリ踏み潰せばいいんでしょ? ねぇ、アンセム兄」

「…………いや」

いつも妹に弱いアンセムも流石にノーと言うらしい。

と、そこでルークも珍しく意見が一致したのか、重々しく頷く。

「……リィズ、今重要なのはそこじゃない」

そうだよ、そこじゃないよ。ってか、なんで襲撃があること前提みたいになってるの?

確かにこれまで僕たちは何人もの賞金首を捕まえてきたが、一度捕まえた賞金首は獄に繋がれているはずだし、殺してしまった者も生き返ったりはしないはずだ。

多分ルークも同じ事に思い当たったのだろう。彼は単純だが馬鹿ではない。

そして、ルークはこれまでにない深刻そうな表情で言った。

「重要なのは――六で割り切れる数が出てこないと公平に分けられないって事だ! そうだな? クライ!」

「え!? あ……うんうん、そうだね」

「えー、そうなの!?」

勢いで押し切られてしまった僕にリィズが目を丸くした。

ルークの勢いにはいつも負ける。そのせいで僕はまだこうしてハンターをやっているのである。

馬車から持ち込んだ大荷物を整理していたシトリーが話をまとめるように言った。

「まぁ、私達に襲撃があるとしたらかなりの人数でしょう。剣士かどうかは……わかりませんが」

だからなんで確定なのだろうか……。

「……僕たちそんな悪いことしたっけ?」

「武帝祭の出場者を血祭りに上げれば名も高まりますから」

仕方ないと言わんばかりの表情をしているけど……名を上げるために血祭りに上げるって、一体モラルはどこに行ってしまったのだろうか。

「つまり、そいつらを返り討ちにすれば訓練にもなるし名声にもなる、一石二鳥ってことだ! そうだな、クライ!」

「…………ルークは頭がいいなぁ」

大丈夫だ。僕は出場者ではないし、ルーク達は強い。

一人でも強いのにアンセムもいるのだから襲撃者の一人や二人や三人や四人くらいなんとかなるだろう。

§

「ああ、早く来い。腕が八本ある竜の剣士来い……」

「ルークちゃん、まーだそんな事言ってんの? そんな生物いるわけないじゃん。さすがのクライちゃんでも……ねぇ?」

「うんうん、そうだね……」

室内で素振りを始めてしまったルークに、リィズが深々とため息をつく。

ジェノサイダーであるリィズもルークと並べれば少し大人しいように見えてしまうのは何かのマジックなのだろうか。

僕は視線を手元に落とし、深々とため息をついた。

どうしよう、これ……。

シトリーに作って貰った予想される襲撃者のリストは凄い量だった。

壊滅済みのものも出して貰ったからなのかもしれないが、よくもまあたった数年でこんなに恨みを買えるものだと感心してしまうくらいだ。優れた記憶力を持つシトリーが「あれ? 数が足りない……後五つくらいあったはずなんですが……」とか言い出すレベルなのだから、世も末である。

僕自身については一切恨みを買っている自覚がないのが一段とやるせなさに拍車をかけていた。どうやら全てが巨大組織というわけではなさそうだが、こんなに数があるとリストに書かれたそれぞれの組織が一人ずつ襲撃者を出しただけで軍隊が出来上がってしまう。

余りの現実感のなさに目を瞬かせる事しかできない僕に、シトリーは言ったのだ。

「他の出場者を狙ってやってきた悪党が結託して襲い掛かってきたりするらしいですよ」

地獄かな?

僕は暴力が嫌いだが、言う事は言うぞ。言うだけなら言うぞ。

「しっかり壊滅させないからこうなるんだ!」

「組織の仇討ちに他の組織から狙われる事もありますからね……ゼブルディアを守る騎士団は優秀ですが、この国はそうでもありませんし……」

シトリーの言葉は理解はできるが納得し難かった。

まだ襲われるとは限らないが、こんな四面楚歌の状況に陥って襲われないなんてこれまでの僕の運を考えてもありえない。もはや半分あきらめている。

「襲われたくないなあ……今回は観光なのに……」

「大会で負けた出場者が勝者に闇討ちをかけるとかもあるらしいですよ」

何でもありかよ。正々堂々じゃないのかよ! まだ観戦していないのに輝かしい大会の裏を見た気分だ。

まぁ、勝者に闇討ちは僕には全く関係ないのだが――。

いくら考えてもこの状況を回避する方法は見つからなかった。僕が噂通り、神算鬼謀だったらよかったのに。

窓際に行き、大きな窓から外を見る。この窓も刃や衝撃、魔法に強い特別製らしい。

高そうな上層階の部屋だけあって、大きな窓からはクリートの町並みを一望することができた。僕の眼はあいにく余りよくないが、よく見ると街のあちこちで煙が立ち上っているのが見える。

あの中の幾つかは喧嘩の跡だったりするのだろうか……とんでもない街に来てしまった。

「うーん、どうにかならないものか……」

深々とため息をつき、そんな事を呟いたその瞬間、僕は凍りついた。

窓のすぐ外に狐面をした黒尽くめの男が張り付いていた。眼の位置に空けられた穴からはぎらぎらした獣のような輝きが見える。

驚きの余り無表情になる僕に、男がさもここにいるのが当然のような表情で言った。

「ボス。必要とあらば、我々………………狐面愛好会にご命令ください」

ここまで来ると逆に怖いわ。一体狐面愛好会ってどういう組織なんだよ。