作品タイトル不明
223 愛好家③
「あ、帰ってきた」
無事、地下室から帰還し、僕の言う通り待っていたルシア達に合流する。
暗闇から急に明るい所に出たが、僕の視界は今、『 第三の視界(サードビジョン) 』に頼っているので眩しくはない。
あまり仮面を被ったりしないので使う機会が少なかったが、高いだけあってなかなか有効な宝具らしい。
ルシアはじろじろと僕の持っていた包みを見ると、眉を顰めて言う。
「どこに行ってたんですか……?」
「んー…………秘密」
「はぁ?」
ルシアが瞠目する。僕が地下で体験したことはきっと言っても信じられないだろう。
この世の中には色々な愛好会があるんだな……。しかも、どうやらレアな狐面を持っている僕はそこのボスらしい。
面白い経験をしてしまった。厄介事には関わりたくないが、まあ攻撃を受けたりはしていないわけだし、面倒事でもなさそうである。
唯一、狐面同好会は秘密結社らしく、あまり派手なことはしないようにお願いされてしまったが、僕程派手な事をしない人間はいないよ。なんかよくわからないが宝具まで受け取ってしまった。これまで色々経験してきたが知らない人から宝具を貰うのは初めてだ。
宝具くれるなら僕も愛好会のボスやるわ。しかし、ドロップアイテムの狐面が目に留まるとは、あの人達、かなりの目利きだな。
武帝祭に行く予定があるみたいな事を言っていたから、多分向こうでも会えるだろう。
滞在する宿を決めると、部屋の中で丁寧に包まれた袋を開ける。出てきたものを見て、ルークの真紅の双眸が輝いた。
「おお……! 剣じゃねえか! クライ、俺にくれッ!」
「今度ね」
現れたのは一振りの剣だった。幾何学的な模様の成された奇妙な柄。鞘に収められているがそちらは後から作ったのか、木製であり、明らかに特殊な柄に対して非常に地味だ。
シトリーが眼を瞬かせて唸る。
「これはこれは……ロングソードというには短くショートソードと呼ぶには長い」
「宝具なのは間違いないけど……随分軽い剣だ」
まあどうせ僕はコレクターだ。振ったりはしないので問題ない。
狐面愛好会から貰ったのだから狐に縁のある品なのだろうか? だが、ただでくれたのだから大したものではないはずだ。
そっと鞘から刃を抜く。刃幅は一般的な直剣と比べて半分程度しかなく、武器として使うには強度に欠けていそうだ。両刃で、銅のような光沢があり、剣身全体にも細かな溝が刻まれ奇妙な模様を作っている。
宝具は過去の記憶の具現化なので見た目と能力が見合っていない事も多いのだが、同時に過去確かに存在した代物ではあるので、見た目は能力を類推する上で有効な材料でもある。武器を作る上でわざわざ刃を短くする必要などないのだから。
もちろんそれは装備者が小人だったなどの理由がなければの話だが――もしかしたらこの剣は儀礼用の剣だったのかもしれない。
と、そこでルシアが眉をハの字にしてまじまじと剣を確認して言った。
「…………それ、この間の街で盗まれたものじゃないですか?」
……そんな馬鹿な。
予想外な言葉に目を丸くする僕に、ルシアが荷物から丁寧に畳まれた新聞を取り出し、開いて見せてくれる。
「ほら、写真が載ってます」
「ほー……」
ルシアが見せてくれた新聞は街を出る直前に買ったものらしかった。
一面の記事に、博物館に賊が侵入した旨と、無事撃退したので被害はなかった旨、奇跡的に死者がでなかった旨が誇らしげに記されている。
そのど真ん中に印刷された白黒の写真。そこに載っていた宝具は確かに僕が今もっている宝具にそっくりだった。
いや、まて――。
「鞘が違うじゃないか」
「そうですね」
写真の宝具は抜き身の刃の柄もそっくりだったが、鞘にもしっかり模様が刻まれている。
確かにそっくりだが、僕が愛好会からもらった宝具とは違う。大体、盗みは失敗したのだ。実行犯も大半が捕縛されていると書かれている。
と、僕はそこで目を見開き、指を鳴らした。
「わかった。博物館に秘蔵されている宝具は鞘ごと出現したけど、愛好会が手に入れた宝具はきっと鞘は出てこなかったんだな」
宝具の出現は大抵セットだ。剣だったら鞘もついてくるし、靴には紐がついてくる。スマートフォンには箱と説明書がついてくる。だが、たまに一部だけ足りていない場合があるのだ。そしてそれが値段に如実に反映されるのである。
剣の宝具なら鞘が出現しないことは珍しいがないことではないし、逆に鞘だけが出現するとても悲しいパターンもある。
「ええ……そんな偶然あるんですか?」
「あるね。間違いない」
そもそも、同じ宝具が出現するというのはない話ではない。かつての流通量に比例して出現数も増えるというのが一般的見解だが、過去一点しか存在しなかったと思われる品が二つ以上出てくるという例はこれまでも存在している。
狐面愛好会が悪者で街を焼いて博物館から品物を盗んだと考えるよりずっと自然である。つまり、盗まれた物と同じ物ではあるが、盗まれた物ではない。
まだ疑いの眼をしているルシアに、ぱんぱんと新聞を叩き、続ける。
「そもそも、写真だけ見ても同じ物だと判断するのは早計だし――いや、待てよ?」
「……なんですか?」
僕は真剣な表情で、目を皿のようにして新聞を見た。
新聞によると、この宝具の名前は『大地の鍵』で、国宝の一つらしい。
同じものかどうかは置いておいて、鞘がないのも置いておいて、二個目が見つかったのは一大ニュースと呼べるのではないだろうか。
多分この宝具を持っていって頼めば、間近で博物館の宝具を見せてくれるだろう。もしかしたら触らせてくれるかもしれない。
「……帰りに博物館に寄ろう」
「……帰りでいいんですか?」
いや、それだけではない。博物館に恩を売ればきっと他の貴重な宝具も見せてくれるはずだ。
狐面愛好会にはまた改めてお礼を言わなければ。
そして、僕はさっきからお預けされた犬ばりの表情で剣を見ているルークに宝具を手渡した。
「はい。人斬っちゃ駄目だよ」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ! 人以外。人以外ならいいんだな!?」
ルークは剣が大好きだ。そして、当然剣型宝具も大好きである。ただの剣を持たせただけでも危険なルークに剣型宝具を振るわせるなんてとんでもないので普段は木刀だけ使わせているが、僕の持つ宝具の大半をルークは試し済みだったりする。
刃渡りを確認し、ルークがごくりと息を呑む。
「この刃渡り、長さ、重さ、この模様――――クライ、この剣――凄く使いづらい。玩具みたいだ」
「うんうん、そうだね」
「しかも、いくら魔力をチャージしても全然満タンにならないッ! 手応えが違う。俺じゃこの剣のチャージができないッ!」
「うんうん、そうだね?」
興奮したようにルークが叫んでいる。もう剣ならなんでもいいようだ。
ちなみにルークは剣士だが、魔力の方も僕より余程持っていて、大抵の剣型宝具の力は引き出せる。そのルークがチャージしきれないというのだから、この宝具、相当燃費が悪いらしい。
ルシアが僕からチャージを頼まれた時みたいな表情をしている。ルークが拳を握り、身を震わせて叫んだ。
「つまり……この剣にチャージできるようになった時、俺は剣士として更にワンランク高みに上がれる。そういうことだな、クライ!」
「うんうん……そうだね」
「……誰かさんもこの姿勢を見習ってくれたらいいのに」
ルークのせいでルシアからの評価が下がってしまった。
単純なルークに、リィズやシトリーも呆れ顔だ。アンセムだけは……宿に入るために甲を取れないのでわからないが、きっと呆れているだろう。ルークは昔から本当に変わらない。
「クライ、この剣、持ってていいか?」
「いいよ。この鞘は宝具じゃないみたいだし、そっちの鞘に納めておいた方がいい」
ルークの持つ鞘は幾つも剣を入れられる特別な品である。
詳しく調べたいところだが、今は旅中だ。先日、宝物殿のど真ん中で背負っていた剣を落とした事を考えるとルークが持っていた方がずっと安全だろう。
にこにこする僕にルークが歓声をあげ、さっそく剣をぶんぶん振り回す。
目的地は後少しだ。今回はかなり運がいいぞ。もういい出会いが二つもあった。と、そこで狐面愛好会の写真を送った妹狐と兄狐から返信がきた。
『ダサい』
『欲しい』
どうやら妹には不評、兄には好評なようだ。
§
そして、僕たちは無事、武帝祭の会場、剣と闘争の街、【クリート】に辿り着いた。
道中寄った街にも興奮の破片はあったが、本命の都市を包んだ熱気はそのレベルではなかった。トレジャーハンターが戦いの前に感じる(らしい)高揚と張り詰めた空気がこちらまで伝染しているかのようだ。
軽く確認しただけで歴戦の傭兵やハンター、見るからに暴力を生業としているであろう強面達が溢れかえっている。帝都でもあちこちでトレジャーハンターたちの姿が見られるが、そういうレベルではない。
そして、この街でそれら自らの力に誇りを持つ者たちがぶつかり合い、覇を競い合うのだ。男なら興奮せざるを得ない。
いやー、観戦客で良かった!
その出場者の一人でもあるシトリーがニコニコという。
「クライさん、もう出場者の受付をやっているはずなので、行ってきますね。同じパーティならば一括で出せたはずです」
「あー、いってらっしゃい」
「例のチケット、お借りしていいですか?」
シトリーは本当に働き者だな。
言われるままにプラチナチケットを渡すと、僕はぼんやりと路上を闊歩する戦士達を見渡し、ハードボイルドを装い、言った。
「戦争が……始まる」