軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第22話・ハッシュバル家がやばいので(後編)

「元団長!?」

驚いてみせると、ドズゥは満足げに笑ってみせる。

「がっはっは! なんじゃ、こんな歳と見た目して本気で11歳の孫にも勝てん職人だと思っとったのか!」

「てっきり片腕と片目を失ったから引退したのかと……」

「そうじゃよ? 片腕と片目を失ったから、 騎(・) 士(・) 団(・) を(・) 引退したんじゃ。この身体での生活に慣れてきたら、暇でのう。遅ればせながら職人の仕事にも手を付けたっちゅうわけじゃ」

簡単そうに言うが、騎士として戦闘、戦術を磨いて生きて来たのに急な方向転換。簡単では無かったはずだ。それを『暇だったから』だそうだ。

パラノメールの元騎士団長であるドズゥ。

その息子であるジャンは現団長で、娘であるケイシーがパラノメールの職人会の代表。

そして、ケイシーの娘であるミリアムは11歳にして一人前に働いている天才と。

「……どうなってるの、ハッシュバル家……皆すごすぎ……」

呟くと、ドズゥは俺を揶揄う。

「なんじゃ寂しいの、教わっとらんのか」悪戯な笑みと意地悪に吊り上がる唇。「ハッシュバル家は代々、ファラン家の武を支えて来た歴史ある家じゃぞ。感謝せい」

「ははー」平身低頭、ではなく、冗談で上半身のみ土下座の仕草をする。「いや、それでも俺のほうが立場は上では……?」

「ち、バレおったか」

勿論です。

「それで、さっきの提案なんだけど、詳しく教えてもらえる?」

話を戻すと、ドズゥは散らかっていた金具をいくつか並べる。

「シンシアの優秀さはこの数か月で十分理解しとる。だからこそ断言するが、まずもって野盗の教育のため、などという使い方は勿体ない。だから、教育はワシがしようという提案じゃ。元騎士団長として騎士に戦闘を指南していたワシであれば、教育能力くらいはシンシアに届くじゃろう」

魅力的な提案だ。だが、すぐに鵜呑みには出来ない。

「少し様子見をしたい。何度か訓練の様子を見学させてもらうけど、構わないかな」

「無論じゃ。アルメルも一緒に鍛えてやろうか?」

「うーん、業務に支障が無い範囲でなら」

「3日は筋肉痛で立てなくしてやるぞ」

「うん、絶対やらない」

にこやかに断り、脱線終了。

「教育と仕事の頻度も考えんといかんが、その辺りはすり合わせになるのう」

真面目に、しかし飄々とした口調で言うドズゥに、俺は頷く。

「そうだね。野盗達の疲労度、シンシアとサーシャに任せたい業務、色々と確認しながらバランスを考えよう」

無難な所でオチが着いたと思ったら、

「あと、これとのバランスじゃのう」

ドズゥが後ろ指を差したその先で居るはずのミリアムが消えているではないか。

どこに行った? なんて迷う必要は無い。音は聞こえている。ただ、積み重なった様々な何かで姿が隠れているのだ。この短時間でよくもまぁ積み上げたものだ。散らかすという次元じゃないぞこれ。

「……2日開けたら人が居れなくなるね」

「居られなくなれば、片付けの重要性も伝わるかのう」

どこか悲しそうなドズゥ。元騎士団長である祖父を片付けのパシリにするミリアムさん。かっけぇっす……。

で、だ。そのかっけぇミリアムさんはさっきから何をそんなに積み上げているのだろうか。近付いて確認してみる。

鉄、銅の何かの部品が結構な量。木もある、石もある。全てなんらかの加工が施されている。

「…………?」

首を傾げる。

何に使うものなのか、全く想像が着かないものばかりだ。部品というには歪すぎる鉄くずもある。

そして、

「…………ふぅ、よし」

ガラクタの山が喋った。……のではなく、山の向こうのミリアムが呟いたのだ。

一息付けるのか? と思いガラクタの山からミリアムを覗くと、彼女は不思議なものを作っていた。

四角い木が石の上に乗っている。2つ合わさって椅子ほどの大きさ。その石と木を鉄の部品が繋げて固定している。

「それは?」

聞くと、ミリアムは近付いてみるように促してくる。

「全然歪だから漏れもあるだろうし形が歪過ぎて使いたがる人居ないと思うけど、要望の品。仕組みは網羅出来たはず。あとはここからクオリティーを上げていく方向性で良い? 私にしては良くやった。……というかこれ以上は無理」

汗だくの身体を拭きもせず紹介されたそれは、椅子だ。ただし、真ん中に穴が開いている椅子。その真ん中の穴は木材剥き出しではなく銅で覆われていた。銅は柔らかいので、叩いて型にハマるよう調整を繰り返したのだろう。木の椅子の中に銅の器があり、底にも穴が開いている。

まさかと思い木の箱の下を見る。2つの四角い石が木の箱を支え、真ん中に空間がある。その空間に、配管がある。これもメインは銅だ。ぼこぼこで、今にも折れてしまいそうで、確かに見た目は悪い。でも、確かにそれは銅配管だった。

銅配管が横向きのS字を作っている。最終的には下を向くような構造。

そう、これはまさに。

「…………トイレだ」

座り心地を上げるためと、加工のし易さから、椅子部分は木材。そして木材に水が染み込まないよう、加工した銅で内面を覆う。そのまま配管へ繋げる。

木製トイレの下にある銅配管。横向きのS字になる事で『封水』の機能を果たす。

この封水が大切なので、倒れて折れたり潰れたりされないよう、石でしっかりと支え、鉄の部品で石と木材をしっかり固定している。

俺が把握している限りでは、これはトイレの機能を果たす。

「良い! すごく良いよミリアム! これでいけるはず! この方向で行こう!」

そう伝えると、ミリアムは特段喜びは無さそうに、当たり前に、だが少しダルそうに「わかった」と頷き、立ち上がる。

「もう少し、喜ぶとか、達成感とかは、無い系?」

サーシャかと思うほど淡々とした態度に、思わず聞いてしまった。

そしてミリアムは、やはり淡々と答える。

「ハッシュバルの人間として、必要な機能を揃える、なんていうのは前提だから。出来なきゃハッシュバル失格だと私は思う。歪でゴミみたいなクオリティーでごめん。こんな完成度じゃ喜べない。……でも、必要条件は満たせたって事に、安心はしてる」

相変わらずの病的なネガティブ。しかし、俺に背を向けて歩き出した姿が、サングラスを完成させた時のケイシーと重なり、本来なら11歳の少女に向けてはならないレベルの頼り甲斐を感じてしまった。

「流石に疲れた。水浴びして寝るから、起こさないで。あとおじいちゃん、ごめんなんだけど、片づける気力、残ってない」

「いつもの事じゃろうて……ゆっくり休め」

そんなやり取りを残し去り行く幼き俺のヒーロー。

クオリティーを上げるという課題があるにしろ、ゴールは見えた。排水路の構築は完成図が見えているので、ただやるだけで終わる。

だからこそ、これで、封水設備を伴う排水設備の構築、完了だ。