軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21話・ハッシュバル家がやばいので(前編)

オヌシとの交渉に失敗し、シンシアとの口喧嘩練習にも失敗し、割と踏んだり蹴ったりな昨日を終え、本日を迎える。

残る課題は3つ。

1・定量の水を流す仕組みの設計。

2・封水を伴う排水設備の構築。

3・浄化槽開発。

1に関してはミリアムとドズゥに丸投げしている。最悪これはトイレに水を溜める窯と柄杓を用意してそれで流させる、という工程だって構わない。流して、清潔を保てればそれで良いのだ。

2に関しても、いくつかアイデアはある。そのいくつかのアイデアを検討しつつ、それもミリアムとドズゥに投げている。

3については俺の仕事だが、これはオヌシ達の進捗に依存するので、今は机上の空論しか組めない。

ともすれば、1と2についてミリアムとドズゥの元へ行き、進捗確認をするくらいしか、俺には出来ない。

それと、今まで野盗の面倒はシンシアに見させていたが、今日からはサーシャもそのチームに加わってもらう事にした。野盗達の安全を少しでも高めるためだ。人員が余っているわけではなく、あの広い家の事を殆どクリスティーナにやってもらう事になるのは心苦しい。

本来ならばサーシャが護衛兼メイドという立場なので、サーシャを狩りチームに回してしまった時点で、どうしてもどこかにしわ寄せは来てしまう。

「なんじゃ、困り顔でもイケメンなその面を自慢しに来たのか?」

考え事をしているのが伝わってしまったらしく、ドズゥがデリカシーの無い感じでイジってきた。

右腕が無く、右目も眼帯をしている。年寄りではあるが、シンシアにも劣らないガタイの良さ。快活なおじいちゃんでいかにもやり手の職人みたいな風貌をしているのだが、職人としては11歳のミリアムにも劣るという。そんなおじいちゃん。

「しないよ、そんな自慢」

デリカシーの無さが面白くって笑って返してから、状況を見回す。

ドズゥとミリアムは、川での作業中は別の家に住んでもらっていたが、その間に鍛冶作業が出来る環境を村の大工さんに作ってもらっていたのだ。

出来てひと月も経っていない、本当に新しい、ミリアム達の仕事場。

それにしては随分と散らかっている、新しいはずだった仕事場。

既に使い古されてる感がすごい。

「片付けが苦手でのう。作る事と使う事ばかり覚えて、片付けと掃除はからっきしじゃ。片手しかないワシが掃除するより早く散らかすし、ワシが手入れをするより早く道具を傷める」

「まぁ、そう説明されると……すごく納得できる」

「じゃろ」

散らかった作業場の奥で鉄を打っているのか、散らかっているせいで手元は見えないが、何度もハンマーを振り下ろしているミリアム。11歳の少女が鉄を打つ、というとロリっ子が社会学習で職人体験しているところを想像してしまうが、ミリアムは俺よりも体格が良いので、どう転んでも年下の少女には見えない。

そんな少女のはずの職人が、一心不乱に槌を振るう。

仕事中なのだから当然の事であり、労働者として素晴らしい姿だと思うだろう?

でも残念、実は――

「おうい、ミリアム、そろそろどうじゃ」

「無理。あとちょっと」

「打ち合わせじゃから、そろそろ区切りつけてくれな」

「区切りは区切りが良い時に降りてくるもの。つけるものじゃない」

「そ、そうか……あとどれくらい掛かりそうじゃ」

「納得出来る水準を想定してないから答えられない。勝手に進めてて」

「そうか……」

苦笑いするドズゥ。「どうどう」と慰める俺。

――そう、ミリアム、現在絶賛、上司と祖父の指示をガン無視して創作活動に励んでいる最中なのである。

「まぁこういうわけじゃから、茶でも飲みつつ出来る話をすべきかのう」

「そうですね……因みに開発の進捗について、ドズゥさんは把握してたりとかは……」

「把握できるほどの知識がありゃあ開発に参加しとる。現状ただの世話係じいちゃんじゃわ」

言葉とは裏腹に、少し嬉しそうなドズゥ。まぁ、孫の世話が出来るともなれば祖父としては嬉しいのかもしれないし、自分の娘であるケイシーや孫であるミリアムならば、職人として自分より格上であっても喜べるおじいちゃんなのだろう。

「まぁ、ドズゥが面倒を見てくれてるなら、ミリアムの生活面は大丈夫そうかな」

と、冗談っぽく言うと、ドズゥは自嘲気味に笑う。

「……あのペースで散らかす孫の片付け、めっちゃ大変じゃぞ」

「……でしょうね」

ふと見ると、さっきまでは手元が見えない程度だったはずのミリアムは、いつの間にか肩まで見えなくなっていた。何を積み上げてるの、あれ。

「俺に他の仕事がありゃ、片付けはせんで散らかったままで作業させて、片付けの必要性を解らせる、ちゅうのも手っちゃあ手なんじゃがのう。仕事が無ねぇのに掃除もしねぇってのは、ちっと俺の性格に合わなくてのう」

少し解る心境だ。手持無沙汰、というやつだろう。

ドズゥは続けた。

「せめて川で作業してた時程度の仕事がありゃ良かったんじゃが」

当たり前のように、普通の口調で言う。

川での作業と言えば水車作りとかもしていたので、そこで力を貸してくれていたのだろう。俺は見ていないが、11歳のミリアムが山の中で生活して健康を保っているのだから、それこそがドズゥの功績と考えるべきだろう。

「そういうそっちはどうなんじゃ。こちらの進捗はミリアムの手が空くまで答えられんが、こっちが急ぐべきなのか、ゆとりがあるのかは、ワシでも把握できるじゃろ」

そう言うので、俺は現状を説明した。

「スライムの生け捕りを野盗に10体。……出来るのかのう」

ドズゥには魔獣の知識があるらしい。天井を見つめながら思考し、呟く。

「この村への奇襲に失敗して、シンシアに一太刀も入れられず10人掛かりで敗北した、って聞いてるんじゃが、これが事実ならスライムの生け捕りは無理じゃぞ」

ああ、考えてみれば、武器職人なら、戦士と魔獣・魔物の実力の指針をある程度持っていても不思議では無いな、と自己解決して、俺は答えた。

「だから、シンシアを教育係にして、今日からさらにサーシャも付けて、シンシアが野盗の教育係&指揮官をやりながら、サーシャが戦闘面をサポート、という方針になっている」

その説明に、ドズゥが「待て待て」と身を乗り出す。

「その水準の野盗が手下なら、シンシアは教育係、指揮系統の他にも、前線での戦闘も必要になるはずじゃ。そんな無理をさせたら、どんな手練れでもどこかでミスをするぞ。背負わせすぎじゃ」

「え、いや、でも、だからサーシャを戦闘面のサポートにしたんだ。大丈夫だよ」

「サポートに付けた、なら、大丈夫じゃあ無いのう」

意味深に、ドズゥはため息を吐いた。冗談とか、弄りでは無いようだ。

「というと?」

俺が聞くと、ドズゥは言う。

「あの真面目そうな男が、『補助役が入ったから俺は後ろに下がろう』なんて、すぐになるわけが無いんじゃよ。そこは補助役じゃなく、戦闘面での責任者はサーシャ、として任命しない限り、シンシアは必ず、一番責任があるポジションに自分を置く。アルメルが、シンシアを責任者に置いているからじゃ」

「!?」

その通りだ。確かに、シンシアならそうする。負担のバランスなど考えない。自分が責任者ならば最大限自分を責任ある立場に回すし、補佐役ならば喜んでサポートに徹する。それがシンシアだ。

だからこそ任せられる事は多いのだが、だからこそ『任せ過ぎてはいけない』という発想は、俺には無かった。任せられるから、任せた。それに期待以上に答えてくれるから、また任せた。その積み重ねは、すなわち、シンシアが限界を迎えるまでのチキンレースだ。

「……確かに、背負わせ過ぎたら、優秀な人間でもミスをする……今の状態はまずい……」

人の操作ミスや判断ミスで引き起こされるヒューマンエラー。これは、必ずしも実力不足で起きるものでは無い。本来実力は十分と評価された者でも、何かの拍子に、普段なら絶対しないミスをしてしまうものなのだ。

歴史上のとある教育学者が提唱した理屈がある。『人は無能になるまで出世する』というものだ。

今の俺は、シンシアが限界を迎え、シンシアの能力を上回る仕事を押し付け、失敗させるまで、責任を上乗せ(出世させる)状態に入っていた。これは、冷静にならなければいけない。慎重に、確認しながら、シンシアと意思確認をしながら進めなければいけない。

だが、だからと言ってどうすれば良い?

人手は尽きている。シンシア、サーシャ、俺は出払い、俺、シンシア、サーシャが帰る家の管理をクリスティーナに委ねている。クリスティーナを野盗の管理に導入すれば、4人全員が綺麗な寝床と安定した飯を失う。それで健康を維持できるか? 否だ。どこかで誰かが体調を崩して、看病が必要になり2人の欠員が出て崩壊する。

おっと、まずいなこれ。崩壊フラグが立ったかもしれない。

と、割とガチで焦っていたとこに、ドズゥが言った。

「そこで提案なんじゃが、アルメル」その表情は自信に満ち、見ているだけで安心するほどの、成功の確信が垣間見えた。「ワシを野盗の教育係にせんか。野盗に対し、狩りの日はシンシアとサーシャを投入。教育の日はワシを投入し、徹底的にしごく。狩りの効率は落ちるが、シンシアとサーシャっちゅう戦力を温存出来る。渡りに船じゃろ」

と。

理屈は解る。その理屈は解るのだが、俺は問う。

「ドズゥ、職人なのでは? 野盗の教育って……出来るのか?」

確かに、ケイシーがスライムと戦闘し、普通に蹂躙していた。だから、ケイシーの親であるドズゥも『職人でありながら戦士並みに強い』としても、不思議では無い。

だが、その予想は裏切られる。

ドズゥは答えた。

「野盗の教育なぞ容易いじゃろう。ワシは――パラノメール騎士団の元団長じゃぞ」

と。