軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4話・既に無茶ぶりが約束されているので

腹も膨れたところで、説明の続きだ。

キリがよく、水を民家へお届けする給水についてはある程度説明出来たと思う。次は、大切な排水の説明だ。

個人的には、給水より排水のほうが重要だと思っている。綺麗な水は運ぶにも重いだけだが、汚い水は重いでは済まない。臭いし、キモイし、危ない。

ちなみに中世のトイレは臭い。何故か。どんなに水設備が整っていても、トイレの穴は排水設備だったり肥溜めと直接繋がっていて、匂いも、虫も、ダイレクトに登ってくるためである。トイレに行きたくなくて我慢して病気になる人間だって普通に居る。

しかし、現代日本のトイレはだいたい臭くない。虫も居ない。何故なら、

「確か、封水っていう仕組みがあるんだよ」

「ふうすい?」

首を傾げたのはサーシャだ。傾いた首に合わせて、短い青髪がさらりと垂れる。

「わざと水が溜まってしまう場所を作るんだ。新しい排水が流れてきたら、その水は新しい排水と入れ替わる。そして、そこにはずっと水が溜まっているから、その水溜まりより先の排水管から、虫や匂いが上がってこないようにするっていう仕組みだ。水で封をするから、封水」

トイレの大便器。洗う用のブラシがなかなか奥に進まないのは、見える範囲より奥に進んだ後に、一度上に上がっているからだ。Uの字型になっている。Uの字になっているからトイレには水が溜まっている。

そして、あの水が、トイレの向こうにある排水管から匂いや虫が上がってこないようにしてくれているらしいのだ!

つまりトイレのあの水は恵の水と言っても過言では無い。割と本気で。

「そんな簡単な事で、お手洗いの匂いが解決出来るの……?」

クリスティーナが、目を閉じているのに輝いていると解るオーラを放ちながら感嘆するので、俺は女子受けが良さそうなコメントも追加する。

「そう。虫だって上がって来にくくなるよ」

しかし、そのコメントにはクリスティーナは首を傾げる。

サーシャ、シンシアもパッとしていない。

「傭兵団にとっちゃ、虫ってのは場合によっちゃ非常食なんで……苦手意識は無いっすね」

と、申し訳なさそうに頭を掻くシンシアと、

「私も、目を開けてしまえば物陰に居る虫が一通り全て見えるから、視界内に居て当然過ぎて、怖がりようがないというか」

え、この中で虫が苦手なのって俺だけなの? 意外。

話を戻すが、実際、クリスティーナが感想を述べたように、この封水を作る事はさして難しくはないと思う。ここで少し問題になるのは、陶器だ。

いや、正直、排水に関しては土魔法で良い。というか現状、それくらいしか思いつかない。土木工事をするにおいて土魔法はチート。

しかしだ、土魔法に頼り過ぎちゃって脳死している感がある。別に、土魔法がダメという事は無いのだが、技術のさらなる革新のため、土魔法以外か、もうひと捻りしたい所だ。

排水管から便器までは土魔法又は新技術で網羅するとして、次なる課題であり、最大の課題。

「確かにその封水で自分達の家の中の匂いや虫は防げますけど、結局外に流しちまうんじゃ、あんまり変わらないっすよね」

と、シンシアが疑問を投げかける。その疑問は最もだ。

排水路を作って村の外に放流すれば、当然村の周りが臭くなるだけ。結局どこが臭くなるかの問題でしかない。

それでは、生活改善とは言えない。

「浄化槽だ」

「じょーかーそう?」

と、シンシア。

俺は思わず込み上げるドヤ顔を抑えながら、努めて平静に語る。

「いくつかの箱を連結させた設備だ。まず最初の部屋で排水を受け止めて、時間をかけて、汚泥と水を分離させる」

水より重い汚泥は沈み、水より軽い汚物は浮く。なので、中間の水だけがの槽へ進むようにする。これはただの物理現象と微生物の習慣を利用しているだけなので非常に簡単に再現できる。なので問題では無い。問題なのは、次の槽。

「微生物を沢山飼っているいる水槽だ。この微生物たちに、人から出た 有(・) 機(・) 物(・) という汚れを食べさせる」

何故こんな事を知っているかって?

無論、営業時代に仲介をした事があるからだ!

メーカーによる客先への説明が面白過ぎたのでよく覚えている。

「そんな事が出来るんすね……」

と、感心するシンシア。しかし、感心はすれどイメージは着かないらしい。

そう、そんな事が出来る。

さて、しかし、では何が問題なのか?

「――その微生物の代わりを探し、飼う必要がある。しかも、餌である有機物が沢山、人の数だけ安定して提供される以上、その生物は増えたり巨大化したりもするだろう。そうしないように調整が可能な上で、浄化槽の微生物と同じ役割を果たしてくれる生物」

「居るのかしら、そんな便利な生き物……」

「この世界、死体、糞尿、残らない。処理してる生き物、居る」

「でも、誰がそうしてるかは解らないのよね……」

サーシャとクリスティーナが交互に言う。その通り。この世界には前の世界と同様に、汚物を分解する微生物は居る。しかし、それがどれかは解らないし、残念ながら俺も、浄化槽の中にどのような微生物を投入していたかは解らない。ケンキとかコウキとかは言ってたような気がしないでもない。

それに、顕微鏡の無いこの世界で微生物を選別する事も困難だ。

でも、前の世界では解らなかったが、この世界では、心当たりがある。

「川を下れば見つかると思うよ。少し、危険だけど。というか、このメンバーだとワンチャン不利かも?」

と、俺は言う。言いながら、捕獲方法を考える。これがまぁ思いつかない。

「このメンバーが不利っすか? 戦力としてはAランクくらいはいけそうっすけどね」

と、戦力筆頭のシンシアが言うので心強いが、シンシアは物理の双剣使いだ。サーシャは片手剣&盾。クリスティーナは生物限定サイコキネシスと魔眼、俺は光魔法と土魔法。あと、少しだけ水魔法が使える魔法使い。戦力としては、確かに強い。

だが、

「あいつに有効な攻撃手段持ちが居ないんだよね」

俺は苦笑する。

それと対峙した事が1度だけあるのだが、あの時はすごかった。

それと戦っていたのは2人。1人は騎士団長のジャン・ハッシュバル。そしてもう1人は、武器職人のケイシー・ハッシュバルだ。そして肝心の対戦相手とは、そう

「スライムだ」

「え」「え」

サーシャとシンシアが声を揃える。不利だという事は理解したようだ。

異世界のスライムというと今でもあの丸っぽくて可愛らしい姿をイメージしかけてしまうが、この世界のスライムは結構グロテスクで、割と最近まで『物理攻撃無効で、倒しても半永久的に残る呪いに掛かる事がある』と思われ、強敵扱いだった化け物だ。動物の死骸を呑み込み骨まで溶かしながら、それを半透明の液体の中に保存しながら運ぶ、巨大な水の塊。それが、この世界のスライム。

弱点は火と広範囲の打撃。

クリスティーナが首を傾げながら聞いて来る。

「スライムって、何が魔物化したのか、まだ判明はしていないわよね。どうしてその、排水の処理に使えるって解るの?」

その質問は最もだ。

ヒントは、現代日本の知識がある俺だからこそ簡単なものだ。

「この世界ではスライムが元々なんなのか解らない。という事は、スライムはこの世界の技術水準じゃ見えないものが元だからだ」

例えば、そう――微生物とか。

「そして、スライムは水の形状をしているけれど、火に弱い。水ではなく、火によって殺菌される、雑菌だからだ」

画像検索等はおすすめしないが、お風呂場だったり、川、プール等で、やたらヌルっとしている場所がある事に気付いた事はあるだろうか? あれは、ヌメリといって、微生物が集まって膜を形成してひとつになった状態だ。巨大化した微生物の集合体。それこそがスライムの正体なのだ。

なので、俺は笑顔で言う。

「あれをなんとか捕獲して、飼いならしたい」

と。