作品タイトル不明
第3話・ロードマップが出来……
現実世界において『水』の流れはおおまかに下記になる。
①ポンプで水をくみ上げる。
②浄水設備で水を綺麗にする。
③ポンプで水を各地へ送りつつ、高い圧力を維持する。
④蛇口を捻ると、配管内の圧力から逃げて来た水が出てくる。
⑤使用され、流れた水は排水管に流れる。
⑥浄化設備や下水道施設に流され、そこで処理される。
⑦ある程度綺麗な水になって放流される。
この中で問題になのは、⑥だろう。
「え、ぽんぷ、という機械じゃないの?」
俺が諸々を語っていたら、クリスティーナが首を傾げた。確かに、①から⑦の工程において、ポンプこそが最大の近代技術だろう。フレミングの法則だか電磁波だかなんだかの法則を用いて、電気を通すだけでどこかの部品が回り続けて、その自動で回転する構造を用いてうんたらかんたら。門外漢の俺にはあまりにも難しすぎる話。だが、これに関しては解決法が明確にある。
「この土地は高所から水が流れてくる。そこに貯水槽を設置してから、配管という物を作れば、水は勝手に流れてくれる」
水は当然、高い所から低い所へ落ちる。
その落ちる方向を配管に沿うようにしてしまえば、勝手に水は流れてくれる。そして、貯水槽が一番高い所にあると、それより下にある配管内の水は『昇る』事も出来る。この構造を利用したのが、現代日本において今でも使われている数世代前の技術『高架水槽』だ。
「川の上流で浄水設備と貯水槽を作り、配管で村に届ける。これが第1段階」
勿論、水を採り過ぎて農業用水が無くなってしまっては意味が無い。そのバランスは見極めなくてはならない。
「そうなると次は、蛇口っすね。常に流れようとする水を、止めたり、流したりをコントロールできる仕組み。……考えつかないっすけど、異世界だとそれがあったんすもんねぇ」
と、シンシアが遠い目をしていた。その通り。便利過ぎて魔法のような話だが、俺は未来においてこれがある事を知っている。だから、開発にも踏み込める。
しかもこの蛇口というのは、鉄製だ。鉄を用いた微細な作り。工業の革命が起きてくれないと、ケイシーでも蛇口作りは難しいだろう。俺限定で、土魔法であと少しの所までは作れた事があるのだが、どうしても土のザラザラとした触感が蛇口と相性が悪いらしく、全くうまくいかなかった。
「前世の蛇口の技術は、そもそも前提になってる文明レベルが違うから、現段階では再現不可能だ。でも、いつでも捻れば水が出てくる仕組みは難しいけれど、いつでも家庭に新鮮な水を用意しておく事は可能だ」
水を流し続けて、必要な時にある程度溜まっていて、不要な時に溢れない。
流し台で誰もが見た事があるだろう、アレだ。流し台に水を溜めていても一定以上にはならないように設けられている、あの洗面台の謎の穴。あれを設けた貯水窯を各家庭に届ければ良い。
いつでもまとまった量の水を使える上で、必要以上に溢れない。そして、溢れた水は農業用水へ。排水は別の経路へ。そうする事で、水を無駄にせず、安定した水の供給が可能になる。土魔法によって土木関係の作業においては近代並みにも出来たりするので、その辺りを上手く使って、開発を進めていきたい。
そして、次は……と、考えていた所で、誰かの腹の虫が鳴った。多分、聞こえて来た方角的にサーシャだ。
だが、誰の腹の虫かは関係無い。誰かが腹が減り始める時間だ、と解ってしまうと、その本能は伝播する。俺も、そろそろ飯にしたいと思い始めてしまった。
「はは、流石にそうか。ご飯の準備にしよう」
そういうわけで、いったん休憩にする事にした。
―――――(◇◆◇◆◇)―――――
ひとまず、料理人は勿論、屋敷に居た使用人は誰もは連れてきていないため、料理は自分達で自炊する事になる。
俺も先月まで挑戦していた料理開発で前世のちょっとした自炊スキルは取り戻したし、キャラ的に少し意外だがシンシアとサーシャも料理が出来る。と言っても、なんでも塩とハーブを振って加熱すれば良いという、野営系のワイルドな食事限定だ。
対して、この家に導入されていたキッチンは、お父様の計らいだろう、最新の物が支給されていた。
アルメルライトが普及したおかげで石油・石炭の需要が減った。
料理の過熱の際に、火に木を 焼(くべ) る窯と、石油ランプの要領で少量ずつ加熱の2種類の過熱が出来るキッチンだ。そう、強火と弱火が選択可能になったのである。といっても、流石に石油を使うキッチンは危険なので一般には普及出来ない。これに関しては専門店のみに販売していく予定だ。因みに、合わせて鉄の網もケイシーに作成依頼の手紙を出している。石炭を使ったBBQも解禁するのである。
それはともかくとして、強火・弱火の加減を使った料理は、シンシアとサーシャにはまだ早い。流石に俺がシェフ長として作らせてもらう。
といわけで、クッキングスタートだ。
使える食材は多くない。村長がいくつかの食材を祝いの品として分けてくれた川魚と、お父様が持たせてくれた卵や調味料、パラノメールの農家達が分けてくれた野菜。
使う食材を選定すると、指定された魚をシンシアが捌き始めた。それをクリスティーナが野菜の下処理を始め、サーシャが慣れた手つきで窯に火を焼べる。その間に俺調味料の選定をして、下処理が終わった野菜たちの準備をして、っと。
野菜系の供給が安定した事で比較的使いやすいお値段になりそうな、使えると嬉しいアイテムその1はこちら。オリーブオイル。これを熱したフライパンに少々。そして、まずはスライスした芋と玉ねぎを加熱する。ある程度の熱が通ったら、別の皿に分ける。硬めの根菜はこのタイミングで投入
根菜に熱が通ったら、オリーブオイルをたっぷりとニンニクを加え、ある程度の所で弱火(中火)の石油キッチンに移行する。次に魚の切り身を投入。またある程度火が通ったら、調理用に用意していた白ワインを投入。煮立ったら塩と最初に加熱した芋と玉ねぎを追加、緑黄色野菜も追加。
皿に盛りつける。
本当はここでプチトマトも入れたいところだったが、この時代のこの地には渡来していないらしく、存在が確認出来なかった。なので、変わりに普通のトマトを、汁が垂れないように添える。
「具沢山アクアパッツァの完成!」
「おおおおおおお」
そのインパクトのある優しい香りに、シンシアとサーシャが目を輝かせる。クリスティーナは目を閉じているので解らないが、両手を合わせて香りを味わっているようだった。
アクアパッツァ。魚が確保出来ていれば、トマトソースのパスタよりもこっちを新名物候補にしていただろう。だが残念ながら海沿いでは無い都合で魚はそんなに出回らない。というわけで、なのでこの品は、今はまだ俺達の嗜みという事にさせて頂こう。
「早速、パンと一緒に食べちゃおう」
皆で食卓を用意する。そして、実食!
「すごい、お店を出せる、いえ、出すべきよ、アルメル」
「これが未来の食べ物だよ」
ドヤってはみるものの、実際俺が開発したものでは無く、異世界の、そして未来の恩恵であるという事は、身内には正直に伝えるべきだろう。他人のパクリで得意になるというのは、俺の性分に合わない。
パンにアクアパッツァの汁を吸わせて食べて見せると、皆もそれを真似て食べる。そして幸せそうに頬を緩める。無表情なサーシャの口元が緩んでいるのを、久々に見た気がした。
しかし、意外にもシンシアの反応が薄い。
どうしたのか、としばらく様子を見ていたら、発作のようにわなわなと震え出した。
そして言うのだ。
「……酒が欲しい……」
わかる。
「さっきの白ワイン、残ってるよ。飲んじゃう?」
と悪魔の提案を囁くも、シンシアは首を横に振った。
「いえ、まだダメっす! まだ、今日は仕事が残ってるんで!」
偉い。
これを食べ終わったら、給水設備の話をし終わった所だと思うので、排水設備についての話をする必要があるのだ。