軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話・ロードマップが出来たので4

「スライムを捕獲っすか……」シンシアは顎に手を当てて考える。「すぐには思いつかないっすね」

当然だろう。自在に動き回るジェルのような形状で、雑菌の塊なので無防備に接触すれば病気になる。スライムを倒しても呪いを受ける、というのは、病気の事なのだと思う。

だから、必要以上の接触はせずに、特定の場所に誘導しなければならない。

だが、それはおいおいだ。物事には順序がある。

「ひとつひとつ解決していこう。課題を整理する」

俺はひとつ、人差し指を立てて言う。

「まずは、浄水装置の作成だ。これを川上に設置する」

「じょうすいそうち……」

また変な言葉を使って……みたいな、訝しむ目で俺を見るのはサーシャだ。

俺は答える。

「水を綺麗にする装置だ。といっても、これは木炭でろ過する程度で構わないと思う」

現代日本の衛生観念的には不十分だが、そもそも未処理の井戸水や川の水、溜めた雨水で生活しているこの時代においては、ろ過するだけでも上等だろう。

「次は、上水配管の設置だ。ろ過して安全性を高めた水を各家庭に届ける道だけど、これに関しても、いくつか案を検討する必要があると思う」

「土魔法で作るのではダメなのかしら?」

そう提案したのはクリスティーナだ。

「ダメというわけじゃないけど」歯切れ悪く、俺ははにかむ。「劣化が進んだら、水に泥が混じる事になっちゃうから、そのままでは使えないかなって」

普通に生活していると気付かないが、現代日本において、ステンレスという最新技術を駆使しても配管は経年劣化して、赤水、と呼ばれるトラブルを引き起こす事がある。ステンレス配管ですらそうなのだから

、土配管なんてとんでもない話である。

……とは、言い切れない。技術力の格差を埋めるには、時に妥協も必要なのである。

「でも、どうしても他の案が思いつかなかったら、そういう形になるだろうね」

そう言って、次の話へ進める。

「定量の水を流す仕組みの設計。これに関しては、多少原始的になってしまうのも仕方ないかなと考えている」

語る事は多くない。トイレの度にバケツで流してもらうとか、そういう対策にはなるだろう。何か良いアイデアがあれば、考えたいところだが、まだ、その時ではないと思う。

「そして、封水を伴う排水設備の構築」

と、俺は話を進める。

排水管に関しては、ギチギチに固めた土魔法による土配管でも良いだろう。課題になるのは封水だ。工作物の形としては複雑な部類に入るので、専門設備無しで作るのは至難の業になる。この点は、労働時間をもってひとつひとつ丁寧に作っていくしかない。100人の村、全家庭分の便器、流し台を作るにあたって、これらを土魔法だけで進めたらどうなるか。土魔法の使い手、過労死、待ったなし。である。

俺は正直に言う。

「排水管は簡単な部類だ。でも、封水を伴う便器や流し台については、結構緻密な設計だから、俺がつきっきりになってしまうかもしれない」

しかしまぁ、サーシャも土魔法は使える。排水管工事についてはサーシャに一任しても良いかもしれない。

「アルメル様が付きっ切りになったら、他の開発が進まなくなるんで、ダメっす」

と、シンシアに釘を打たれた。まぁ、それはそう。完成図が俺の脳内にしか無い現状、どう足掻いても俺は全てに一通り関わる必要がある。ひとつの事に専念は出来ない。

「で、最後は浄化槽開発だ。狙い通りならスライムで代用が可能なので、スライムが欲しい」

その言葉に、サーシャが反応する。

「スライム、増える。処理、必須」

スライムを浄化槽に使用できたとして、増えすぎて村人に危害を加える可能性は確かにある。

だからこそ、

「必要以上に大きくしない方法は、考えがある」

「?」

俺の言葉にサーシャは微かに身を乗り出した。どうやら、興味があるらしい。

でも申し訳ない。多分、解らない話だ。

俺は苦笑する。

「雑菌が増えるのにも酸素が必要なんだ。だから、酸素量を制限する。って事を考えてるくらいかな」

一応言ってはみるが、サーシャから「何言ってんだこいつ」みたいな目で見られた。それはそう。

日本でも、ブロワーという空気を送る機械を使って浄化槽へ酸素を送っていたので、ああいう感じで空気量をコントロール出来たら良いなとは考えていたのだが、そこでふと、クリスティーナが呟いた。

「スライムは打撃に弱いという新情報が最近出回ってるはずよ。必要な体積だけ残して潰してしまえる攻撃装置を作るのはどうかしら」

俺は少し考える。

「ありはありだけど……ちょっと倫理観的に、採用の優先度は下げたいかな……」

開発のために、多少の残酷さは受け入れなければならない。ならないのだが……排水処理をさせたスライムが巨大化してきたらその度にすり潰すというのは、少しばかり抵抗がある。

ならば、と言わんばかりにサーシャが対案を提示した。

「灯油ランプで燃やす。スライム縮小、有効」

呪いと呼ばれる病原菌も散らない。確かに作戦としては良い。でも倫理観的には同レベルである。

スライムとはいえ命は命だ。その力を借りるなら、理想は共存である。しかし、言葉が通じない魔物である以上は、割り切りも必要。スライムに対してどこまで無慈悲になれるかが、この開発に掛かっているかもしれない。

なんにせよ、

「どの方法を採用するかは、各種の実験と開発を進めながら、都度、考えて行こう。今は、大雑把な全体の流れを整理したい。まとめて構わないかな」

と、手を叩いて話をまとめる。

すると、クリスティーナ、サーシャ、シンシアの3名は、なにやら覚悟が決まった顔つきでこちらを見て、言う。

「ひとつ・浄水装置の作成。綺麗な水を、まずは作るのよね」

とクリスティーナ。

「んで、上水配管の設置っすね。運搬の手間を省いて、水を届ける装置っす」

とシンシア。

「決まった水量を流す装置作り。バケツ等で代用可能」

とサーシャ。

俺の変わりに、俺の話を理解した有能3人がロードマップを整えてくれている!

感動のあまり、俺はしばらく、彼らを見ていた。

次は最初に戻り、クリスティーナだ。

「封水を伴う排水設備の構築よね。匂いの解決が出来るなら絶対に作りたいけど、技術的な面で課題があるわ」

そして、流れを引き継ぐのはシンシアである。

「浄化槽開発。……いや、これ、俺、言葉にしてますけど、アルメル様任せっすからね。頼みますよ」

との事。そう、これが今回の開発のロードマップ。これが全て……と思いきや、サーシャが最後にひとつ、追加した。

「村民の理解」

と。

「へ?」

素っ頓狂な声が、俺の喉から漏れ出る。え、なんて?

サーシャは答える。

「アルメル、水道開発、専念、不可。領主の息子、実績なし、村民、不満」

と。

つまり、領主の息子である俺が実績無しのままで数年間水道開発をしたら、村民の不満と不信感が募り危険なため、俺は水道開発に専念せず、村民のメンタルケアも行う必要がある、と、サーシャは言いたいのだ。

「…………」

反論したい。反論したいのだけど、非の打ちどころが無い正論だ。

確かにそうなのだ。村民に村の開発のため協力と理解を求めるなら、好感度は必須だ。だが、現状この村において俺の好感度はゼロだ。悪い意味では無く、所詮他人という好感度なのである。

それなのに、仕事をしないまま数年過ごしたと思ったら、唐突に「水の流れ、変えるから」と言って、納得してもらえるだろうか。

否である。

人間の真理的に、得しか無いと解っていても、唐突な話は信頼出来ない。信頼出来る人物からの説明が無ければ信頼出来ないという人間は、かなり多い。いや、それこそが人間の大多数だ。

村開発の協力を得るためにも、俺は、村民の好感度を稼ぐ『開発』を、小まめにしなければならない。大きい開発の協力を得るため、小さい開発をいくつか重ねる必要があるのだ。何故ならここには、お父様の人脈は無いから。人脈がゼロだから。アルメルライトを作った時とは、前提が違うから。

「……ふふ」

しかし、しかしである。

前提が違うのは、そういう不利な状況だけでは無い。

俺は順繰りに、目の前に居る3人を見る。

頼れる兄貴分のくせに舎弟みたいな態度で居てくれるスーパー有能戦力、シンシア。

メイドスキルから傭兵スキルまで身に着け常人では経験不可な多様な経験を持つ、サーシャ。

公爵家令嬢が故の教養と、重度の突然変異が故の超能力者、クリスティーナ。

今思えば、魔法灯、アルメルライトを開発したあの時を、今思えば、比較にならない戦力が、今、手元にある。

頼れる仲間が居る。

だから、問題無い。

課題はあれど、問題は問題にならない。全て解決出来る確信しかない。

さぁそういうわけで、世紀の発明。この世界に来てからずっとずっとやりたかったもののひとつ。

上下水道開発を、

「やってやりましょう」

「了解」「おけ」「ん」

今までは一人で決めていた開始の合図に、三者三葉の相槌が乗っかった。