軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

秘話2・継がれる願いは遠く②

ある日の昼下がり。私とハンスで 昼餉(ひるげ) の片付けをしているところに、どたどたとヘンリーが戻ってくる。そして開口一番、胸を張って発表した。

「ファラン家に嫁入りする事が決まりました!」

14歳で婚約。まぁ、男爵家の長女としては普通くらいか。

「ファランってどこだ?」

と、料理以外に興味が無い 料理馬鹿(ハンス) が聞いて来るので、私は答えた。

「リンド帝国やエルフの土地、若干ドワーフの土地とも接触してる超危険地帯、パラノメールを守ってるから、王国の盾、なんて呼ばれてる……えっと、確か辺境伯?」

「子爵だよ!」

お相手の爵位を間違えて、ヘンリーに怒られた。

「へぇ、子爵家への嫁入りなら出世なわけだ」

ハンスが言うと、ヘンリーは両手で丸を作りながら、大袈裟に正解だと示す。

「そう、出世。お祝いのお菓子、受付中だよ」

「お前はいつでもお菓子受付中だろうが」

ハンスはそう言ってひとしきり笑った後、今度は私に標的を移す。

「で、フレイヤも、フレイヤにしては相手の事をよく知ってんじゃねぇか。フレイヤなのに珍しい」

私、日曜学校ではあなたよりよっぽど優秀だったからね? というのは、言い飽きたツッコミなので、あえて言わない。

「ヘンリーが社交場に顔を出すと、絶対に、真っ先に挨拶に来るんだもん。あれは絶対にヘンリーに惚れてるなぁと思って目を付けてた」

「お、そういやお前、ヘンリーのお供でパーティーに参加してるんだったか」

「いや参加はしてない」

パーティーは基本的に、給仕は開催者側が用意をする。爵位の低い男爵家が大きなパーティーを開催する事はあまり無いが、同じ派閥の人に協力を頼まれたりする事がある。そういう時に、たまに駆り出されるのだ。

ヘンリーと一緒にパーティー会場を回りたいなら、もう少しメイドとして出世しないといけない。

「お零れくらい貰えるんじゃねぇの? 貴族達が残した余りものをメイド達で食う、みたいな」

言われてみれば。

「確かに、ちょっとくらい食べても良いよね……。なんで食べさせてもらえないんだろ?」

私とハンスで首を傾げると、ヘンリーが苦笑した。

「貴族の社交場だよ……? 毒が盛られてないとは言い切れないでしょ」

「「たしかに」」

私とハンスが絶句する。残飯をばくばく食べて死にました。死因は残飯漁り。……嫌すぎる。

言われてみれば、パーティー会場での貴族達は、食べるものも飲むものも、いくつか並んでいる中から自分で選ぶ。誰かに渡されるパターンは見た事が無い。特定の誰かを狙った暗殺を防止するためなのか。

「それにしても、パラノメールかぁ……。ちょっと遠いなぁ」

ふと考えて、私はぼやく。馬車で何日掛かるだろうか。

「ヘンリーと会えなくなるのは寂しいな」

ハンスも私に乗っかってしみじみとした空気を漂わせる。私もハンスも、日曜学校でヘンリーと仲良くなった結果、ヘンリーの強硬的な各所への根回しとアプローチによって、半ば強制的にこの屋敷の使用人になっている。

あの時は驚いた。私の知らない所で、私の就職先が貴族のメイドになったという結果だけが親戚中に広まっていたのだ。

まぁ、私は次女だし、どうせオフマン商会は継ぐ未来は無かった。だから割とどこでも良かったのだけど、問題なのはハンスのほう。レストラン・フォイの次男で、長男とどちらが店を継ぐかを争っていたはずだった。なのに、ハンスの知らない所で、ハンスの目標は『将来的には貴族の屋敷で料理長になる事』になっており、いつの間にか私達はヘンリーの居る屋敷で働いていた。

その時のヘンリーはこう言った。

『だって、3人一緒が良かったんだもん』

可愛いから許したけど、やってる事はかなり怖い。

「でも、ヘンリーの強硬手段で屋敷勤めになった俺らって、ヘンリーが居なくなったらどうなんだ?」

と、ハンスが言うと、確かに、という疑念が私の中に湧き始める。

「流石にクビは無いんじゃない?」

私もハンスも、それなりに役に立っている。すぐに職を失う事は無いだろう。

なんて算段を立てていたら、ヘンリーがもじもじしながら何かを言い始める。

「あの……それでね? ちょっと2人に相談があって」

黙ってヘンリーのほうを見ると、ヘンリーは微かに頬を赤らめつつ、上目遣いで、私達を口説いてきた。

「パパとママにも、メイド長にも料理長にも、あとフォイの家族にもオフマンの家族にももう一通り説明してあるんだけどね?」

おっと? これはどこかで見た流れだぞ?

ヘンリーは言う。

「2人とも、私と一緒に、パラノメールに来てくれないかな。勿論、2人が良ければ、なんだけど……」

少し、思う所はあった。

それでも、外堀はもう埋まっているし、多分、ヘンリーが居るなら、大抵、なんとかなると思った。

だから私は、その場で答える。

すると、その返答は、ハンスと重なった。

「「しょうがないな」」

タイミングも含めて一言一句同じ、という状況がおかしくて、一瞬だけ固まって、数秒後、声を揃えて、皆で笑った。

こうして、私達はファラン家へ――パラノメールへ拠点を移すのだった。

―――――(◇◆◇◆◇)―――――

パラノメールでの日々は、激動だった。

まず屋敷が広い。使用人もオース家の数倍居た。そして何より、同じ屋敷に大量の騎士! パーティーの給仕よりちょっとラクなだけの忙しさが毎日続くような感じだ。

でも、慣れてしまえばどうという事は無い。やっている事が違うだけ。

ファラン家はまさしく質実剛健。パーティーには長男長女と家長がたまに参加するだけで、自分達は開かないし、友好派閥からの応援要請にも応じない。ただ、戦いのみで、戦果のみで立場を得ている貴族。パーティーが無いと気付くと、パーティーの下位互換程度の忙しさ、大した事では無かった。

そして、ファラン家の次期当主であるダグラス様とヘンリーの間に、第一子が産まれた。名前はスレインと名付けられた。

ダグラス様は言った。

「誰をスレインのお付きのメイドにしたい? お前が決めるといい、ヘンリー」

ヘンリーは答えた。

「……お付きのメイド? 子供1人に、メイド1人が着くの……?」

ダグラス様は答えた。

「ファラン家ではずっとそうらしいのだが……違うのか……?」

ヘンリーは答えた。

「多分、かなり贅沢だよ、それ」

社交界に出ない弊害として、ファラン家が非常識である事が、その時初めて発覚した。

しかし、郷に入っては郷に従え。ヘンリーは一瞬だけ私のほうを見て、すぐにダグラス様へ視線を移し、こう進言した。

「私とダグラスの最初の子供。私が1番信頼するメイドに預けたいな」

その言葉に、ダグラス様は微笑みを返す。

「わかった。では、スレインのお付きのメイドは、フレイヤにしよう」

そうして私は、ダグラス様とヘンリーの第一子、スレイン様のお付きのメイドとなった。

―――――(◇◆◇◆◇)―――――

スレイン様誕生から3年後、ダグラス様とヘンリーの間に第2子が産まれた。名前はアルフレッドと名付けられた。

ダグラス様が子供の頃にお付きだったメイドが、アルフレッド様のお付きのメイドとなった。

それから、また3年後、

「拾ってきちゃった」

ヘンリーが子供を拾ってきた。

元のところへ戻してきなさい、と言いたいところだったが、ヘンリーの事だ、事情も無しに誘拐してきたわけではないだろう。その頃、流行病が蔓延しはじめていた事もあって、人の出入りには慎重になっていた頃だったというのに、ヘンリーの暴走癖は親になっても変わらない。

10歳にも満たない子供。教会に預けられた孤児だったらしい。曰く『助けなければならない目をしていた』との事で、半ば無理やり引き取ったとか。これから、ファラン家のメイドにするらしい。

その新人かつ幼いメイドの名前は、シャーリーという。

そして、ヘンリーが 子供(シャーリー) を拾ってきた、1年後。

ひとつの、小さくない戦争が起きた。パラノメールは無事だが、ファラン家は増援として他所へ駆り出され、当時の騎士団長が死亡。ファラン家の当主は怪我で戦場から引退。――ダグラス様が正式に、ファラン家当主となった。

ついでに。

「拾ってきちゃった」

ヘンリーが大人を拾ってきた。

元のところへ戻してきなさい、と言いたいところだったが、事情が事情だった。その私より少し年上くらいの女性は、戦死した騎士団長の妻であり、騎士団長との子を成す前に未亡人となって、失意のあまり食事を摂れず、餓死寸前だったという。

元騎士団長の妻。曰く『騎士団を運営するファラン家として、責任を取るべきだ』との事で、説得して連れて来たのだとか。その色気と風格がやたらある新人メイド。名前は、ウェインという。

アルフレッド様のお付きであり元ダグラス様のお付きのメイドを次のメイド長にするため、アルフレッド様のお付きのメイドが、元騎士団長としてファラン家に忠誠を誓った男の妻が、アルフレッド様のお付きのメイドとなった。……複雑すぎる……。

そして、ダグラス様とヘンリーの間に、第3子が産まれる。名前を、アルメルという。

ヘンリーが拾ってきた事でファラン家への忠誠が厚いシャーリーがアルメル様のお付きのメイドとなり、そして。

そして。

少し前からこの国を蝕み始め、そして今、爆発的な猛威を振るっている流行病によって、ヘンリーが倒れた。