作品タイトル不明
398 無 謀 1
連中の店と、 引っ掛け用(・・・・・) の店を訪問した翌日は、ファルセットと一緒に町の観光。
……『女神の眼』の連中も、何人かが少し離れた場所から隠れ護衛として見守ってくれているのだろうけど、多分、出番はない。
ファルセットが、そんなのの介入を許すはずがないだろうからね。
そりゃ、国や領主が放った精鋭の騎士団とかなら、話は違うよ?
いくらファルセットが強くても、優れた者達に数で来られちゃあ、自分ひとりならばまだしも、私を護りながらというのは、ちょっと無理があるだろう。
……でも、たかが中堅商家の私兵やら雇ったゴロツキ程度に、 女神の守護騎士(エインヘリヤル) が 後(おく) れを取るとは思えないよね。
私も、自分自身の肉体的な戦闘力はゼロだけど、恭ちゃんから貰った装備があるし、数秒の余裕があれば、ポーション作製能力で、何とかなるだろう。
まあ、今日は、まだ襲われたりはしないだろう。
だから、こんなにのんびりとしているのだ。
向こうも、裏の組織と繋ぎを取ったり、そこの連中が準備をしたり調査をしたりするにも多少の時間は掛かるだろうから、さすがに翌日には来ないだろう。
見張りは付いているかもしれないけれど……。
ま、田舎から来たお 上(のぼ) りさん、っていう設定だから、王都で観光するのは何のおかしなこともない。
逆に、商談が上手く行った小娘が、浮かれて王都見物をしない方が不自然だろう。
そういうわけで、丸々1日ファルセットとふたりで遊び回り、みんなへのお土産を買い 漁(あさ) った。
容量無限で時間が経過しないアイテムボックスがあると、お土産を帰る前日に纏めて買わなくてもいいから、便利なんだよねぇ。
良い物があれば、その都度、衝動買いできるから……。
そして、量を気にしなくてもいいのが、更に良い。
レイコと恭ちゃんの分だけでなく、『リトルシルバー』のみんなの分もたくさん買い込んだよ、勿論!
* *
そして、その翌日。
「……来ました」
「来たか~」
今日も、ファルセットとふたりで、王都巡り。
……但し、典型的な観光コース巡りであった昨日とは違い、今日は少々 危ないところ(・・・・・・) を重点的に……。
『危ない』と言っても、別に、高い塔のてっぺんとか、魔物が出る森とかいうわけじゃない。
そっち(・・・) ではなく、スラム街とか、薄暗い裏路地とか、……つまり、治安的に危ない、って場所だ。
勿論、 釣り(・・) の一環。
一昨日は、 疑似餌(ルアー) を 投入(キャスティング) した。
そして今日は、 竿を振(シャク) る。
……獲物を餌に食い付かせるために……。
「まあ、来るよね~。わざわざ、絶好の 機会(チャンス) を与えてあげているのだから……」
他の商店との取引が成立したと思わせている以上、連中は、私達が荷を引き渡す前に王都を離れるはずがない、と思うはず。
そして、さすがに王都の中心部付近で堂々と宿屋に押し入ることはできないだろう。
私の身柄を押さえるにしても、荷馬車に積んである荷を奪うにしても……。
そんなことをすれば、 大事(おおごと) になって、本格的な調査が始まってしまう。
面子を潰される者が大勢できちゃうからね。警備隊とか、王都の治安維持を担当している貴族とか、お膝元で舐めた真似をされた王様とか、色々……。
そうなれば、とても中堅商家程度の力で揉み消すことなんかできやしないだろう。
……ならば、どうするか。
うん、私をこっそりと確保して、 合意の元に(・・・・・) 、 荷を引き渡してもらう(・・・・・・・・・・) 、ってことだ。
そうすれば、万事、丸く収まる……、わきゃねーだろ!!
とか考えているうちに、前後を塞がれた。
前方に3人、後方にふたり。
浮浪者風ではなく、チンピラやゴロツキよりも少し上……クズ度からいえば、『下』かもしれないけれど……に見える、男達。
ここは、 王都(この街) の地理に不慣れな 余所者(わたしたち) がうっかり迷い込んだ、という 体(てい) を装って入り込んだ、裏路地だ。……それも、王都でもかなりヤバいところ。
人通り……というか、その辺りに座り込んでいる浮浪者っぽいのが何人かいるけれど、そういう連中は、誰かが襲われていても、何もしない。自分にとばっちりが来ない限り……。
あとで警備兵に事情聴取されても、『何も知らない、何も見ていない』としか答えない。
……お金を握らせれば喋るが、浮浪者にお金を払う警備兵はいないし、お金を渡された浮浪者の証言なんか、信頼性ゼロで、相手にされない。
つまり、何人かの浮浪者がいようが、誰も見ていないのと同じ、ってことだ。
「へっへっへ、お嬢ちゃん達、こんなところに来ちゃあ危ねぇぜ!」
「あ、御親切に、忠告ありがとうございます」
「え……」
まさか、額面通りに受け取られるとは思ってもいなかったのか、口を半開きにして、ぽかんとした顔の男。
このメンバーの、リーダー役かな?
「あ、いや、その……」
意表を 衝(つ) かれて、予定していた台詞が頭から飛んでしまったのか、少し頬を赤らめて、しどろもどろになっている。
……ちょっと、カワイイ……、というようなことはないよ、うん。
「え、ええい! いいから、おとなしくついて来い!」
「…………」
「何とか言えよ!」
「あ、いえ、『おとなしく』と言われたので……」
「そっちは従うのに、どうしてついて来ないんだよ!!」
リーダーさん、真っ赤になってるなぁ。何か、頭から蒸気を噴き出しそうだな。
……いかん、何だか楽しくなってきたぞ。
ファルセットは、呆れたような顔をしている。そして、催促するような視線を寄越してきた。
早く 殺(や) らせろ、ってことかな。
でも、まだこの連中は、決定的な言葉を口にしていない。
今なら、まだ『ただの忠告と、安全な表通りまで連れて行ってやろうとしただけだ』とか、『ナンパだよ!』とかいって言い逃れができなくもない。
なので、油断させて、決定的な言葉を口にさせなきゃね。
……別に、官憲の前で『そんなことは言っていない!』とかしらばっくれても構わない。
別に、裁くのを官憲の手に 委(ゆだ) ねるつもりはないからね。
私が、知っている。
そして、私が知っているということを、この連中が知っている。
それだけで、充分だ。
自白ポーションとかは、 風情(ふぜい) がないからねぇ。
だから、そういうのは、なるべく使いたくはない。
まあ、必要があれば、別に使うことに躊躇はしないけれど、それは最後の手段だ。
余裕がある時は、正攻法で、正面からブチ破る!
なので、まずは素直に聞いてみよう。
可愛い女の子が聞けば、ついポロリと喋ってしまうかもしれないからね。
……ポロリもあるよ、ってヤツだ、うん。
「あの、誘拐でしょうか、強盗でしょうか? そして誰かの御依頼でしょうか、それとも皆さんだけでの行動でしょうか?」
両手の 拳(こぶし) を軽く握って口元に寄せ、両目を大きく見開いて星を飛ばし、バックに花を背負って、きゃるんっ、って擬音が聞こえそうな顔をしてそう尋ねたら、……ドン引きされた。
なんでだよっ!