作品タイトル不明
399 無 謀 2
「うっ、うるせぇ! 黙って言うことを聞かねえと、痛い目に遭わせるぞ!
自分の足で歩かねぇなら、縛り上げて 担(かつ) いでいくだけだ。
そうなりゃあ、荒縄で縛られた手足が擦り剥けて何日も痛み続けることになるぞ。
下手すりゃ、そこから腐って死んじまうこともあるかもな……」
まあ、小娘を脅して怖がらせ、言うことを聞かせようとするのは悪党の常套手段か。
いや、ファルセット、その『まだ? まだ? もういいよね、もういいよね!!』っていう、ワンコのような目で私を見るのはヤメロ!
ブンブンと、千切れそうに振られる尻尾が幻視されるよ……。
まあ、『痛い目に遭わせる』、『縛り上げて担いでいく』という言葉が聞けたから、もういいか。
暴行と誘拐の意図は、自白により完全に確認できた。
では……。
「お待たせ、ファルセット。死ななければいいから、好きにやってね」
あ~、こんな輝かんばかりの笑顔の人、初めて見たよ……。
そこまでか! そこまで嬉しいのか、ファルセット!!
……って、フランセットもこうだったよなぁ……。
* *
「……で、誰に雇われたのかな?」
「「「「「…………」」」」」
あれ、結構頑張るなぁ……。
もう、5人全員、手足がおかしな方向……絶対に、曲がっちゃいけない方……に曲がっていたり、上手く急所を避けて、神経が集まっていて激痛が走るところを重点的に剣先で刺されたりして、普通のチンピラとかには到底耐えられそうにない状態なのに……。
これは、もしかすると、割としっかりした組織の構成員とかかな?
周囲には、既にホームレス達の姿はない。
ファルセットが男達を簡単に叩き伏せたあたりまでは、何事にも興味がなさそうにどんよりとした目で見ていたホームレス達も、それから始まった 人体の破壊作業(・・・・・・・) が始まると、ひとり、またひとりと、徐々に姿が消え始め、今はもう猫の子一匹、いやしない。
……いや、猫は真っ先に逃げたか。ファルセットの殺気に当てられて。
総毛立たせて、『フギャアアア〜〜!!』とか鳴いて、飛んでったなぁ……。
こんな場所で、捕まって喰われることなく生き延びているのだから、百戦錬磨の 手練(てだ) れの猫だと思うのだけど……。
あ、手練れだからこそ、危険察知能力が高いのか! なる程なぁ……。
ホームレス達が消えたのは、これが『見てはいけないモノ』だと思ったのか、それとも、『あとで、目撃者は全員消される』とでも思ったのか……。
まあ、おかげで人目を気にすることなく 拷(ごう) も……事情聴取できたから、良かったけど。
ここじゃ、これ以上は無理かな。
……というか、実は、そんなに聞きたい情報があるわけじゃない。
黒幕は分かっているのだから。
そろそろ打ち切って、続きはまた今度、ってことにするか……。
「収納!」
よし、この連中は、後であの『片足島』に置いてくればいいか。
……え? まだ物足りなかったのか?
ファルセットのヤツ、不満そうな顔をしてやがる……。
「いや、まだ緒戦じゃん。これからだよ、これから!」
あ~、途端に、嬉しそうな顔しやがって……。
そういえば、フランセットの伝記は何冊か読んだけど、襲撃者が私に向かってきた時の、あの愉悦に満ちたグルグル目と、口から漏れ出る「うひひ!」というちょっと下品な笑い声について書かれたものは、一冊もなかったなぁ。
……さすがに、検閲に引っ掛かったか……。
まぁ、あれに較べれば、この笑顔は、ずっとマシか……。
* *
「……何だと? 襲わせた者達が全員、行方不明だと?」
「そうだ。いったい、どういうことだ!」
「それは、こっちの台詞だろうが!!」
あまり直接顔を合わせるべきではないというのに、裏組織の使いの者からコンタクトがあったため仕方なく会合場所へ行ったところ、そんなことを言われたため、怒って言い返した商会主。
……確かに、今回は商会主の方が正論であった。
「高いカネを払って依頼したのに、失敗した。……それで、どうして依頼した側が文句を言われなきゃならんのだ! 文句を言うのは、こっちだろうがっ!!」
「うっ……」
さすがに、これには使いの者も反論できなかった。
「どういうことだ。とにかく、状況を説明しろ!」
そう言われ、仕方なく説明を始めた、使いの男。
ここは、周りに何もない、原っぱの片隅である。
一緒にいるところを人に見られたくない相手と会うのに、自分の店や飲食店で会ったりはしない。
なので、近くに人がいないことが確実に分かり、遠方からは顔が判別できず、そして遮蔽物があるところ。その条件に合った場所で、護衛の者を数名連れての顔合わせである。
相手側は、使いの者、ひとりだけである。
裏組織の者、それも、使い捨てで何の価値もない者を騙し討ちする者など存在しないため、それは当たり前のことである。
そして、その説明を聞いた商会主は……。
「何だと! 5人で襲わせたのに、誰も戻らず、小娘達は普通に過ごしているだと?
相手は小娘ふたりだぞ! いくら片方が護衛だとはいえ、成人しているかどうかという小娘相手に5人で襲い掛かって、怪我ひとつさせられずに全滅だと?
あり得るかっ! お前達、この依頼をひよっこの練習台にでもしやがったのか!!
……いや、確か『行方不明』とか言っていたな? そいつら全員、示し合わせて逃亡したんじゃないのか? 組織の待遇が悪いから、とかいう理由で……。
でないと、死体も無く行方不明とか、あり得るか! 小娘ふたりで、知り合いもいない異国の街で、誰にも見つからないように大人5人の死体を運んで処分できるとでも言うつもりか!」
怒る商会主であるが、その気持ちは分かる。
正当な依頼料を払ったというのに、到底納得の行かない説明をされた上、自分に責任があるかのように言われれば、それは納得できないであろう。
しかし、納得できないのは、組織側も同じであった。
「いや、だから、納得できないのはこっちも同じだ!
そりゃ、育て始めたばかりの新入りもひとり含んではいたけれど、ふたりが一人前、もうふたりは中堅のベテランだ。
上級貴族絡みとかじゃないし、依頼の中じゃあ一番簡単な部類なんだ、依頼料も安いし……。
だから、一流とか超一流とかを出したわけじゃないが、それはそっちも納得するだろう。
そして、正直言って、いささか過剰な戦力を出したんだ。新入りの教育という面があったからな。
……勿論、新入り以外は充分な待遇を受けている連中だから、足抜けなんか考えるようなことはない。しかも、全員、ひとり残らず、なんてあり得るかよ!」
「「…………」」
自分の主張は間違っていない、と思っている商会主であるが、組織の使いの者が言っていることも、確かに納得できる内容である。
なので、暫し黙り込んでしまった、ふたり。
「……で、うちとしちゃあ、あのふたりが 訳あり(・・・) なんじゃないかと疑ってる。
貴族の娘で、腕利きの隠れ護衛が数人付いているとか、他にもアイツらを狙っている者達がいて、その連中と鉢合わせて戦いになったとか、な……。
で、アンタがそういう 訳あり(・・・) なのを知っていながら、依頼料を安く上げるためにそれを隠していたんじゃないか、って疑ってるわけだよ、うちの上の方の連中が……。
この状況で、そういう疑いが発生するの、無理のないことだとは思わねぇか?」
「…………」
確かに、そう言われれば、その通りである。
自分が納得できないように、 組織(むこう) の方も、納得できまい。
それくらい、信じがたい事実であり、あり得ない事態であった。
しかし、裏組織にあらぬ嫌疑をかけられて敵対されては、堪ったものではない。
「……無実だ。私が知っているのは、依頼の時に説明した通りだ。
価値の高い商品を持ってきた、世間知らずの他国の娘。他の商店の手に渡る前に入手するため、殺さず傷付けずに拉致するよう依頼した。……それが全てであり、嘘も隠し事もない。
初めての依頼じゃないんだ、今更隠し事をするような関係でもないだろう」
「まぁ、それもそうか。うちと好んで敵対したがるヤツは、そうそういねぇよな。
この商売は、信用第一だからなぁ……。
じゃあ、チョイと相談と行こうか……」
そして、組織の使いの者と商会主は、次なる手の相談を始めるのであった……。