作品タイトル不明
393 敵 地 1
私達は、ポーションでドーピングしたハングとバッドによって超スピードでやってきたけれど、普通なら、荷を満載した馬車と護衛役の徒歩のチンピラ達が移動するには、かなりの日数が掛かるだろう。どうせすぐに休みたがるだろうし、夜は酒を飲んだり馬鹿騒ぎをしたりして翌朝起きるのが遅くなったりして……。
そういうのを制止するための 手綱役(たづなやく) が、あの潜入役の御者だったのだろうけど。
とにかくそういうわけで、まだ奪った馬車の到着予想日……実際には、永久に到着しないけど……は、まだかなり先のはずだ。それに、多少予想日から遅れても、そんなに気にしないだろうし。
こういう世界での馬車移動なんて、不測の事態……天候とか、車軸の折損とか……くらい、いくらでもあるからね。
なので、黒幕達が不審に思い始めるまでには、まだかなりの日数があるだろう。
そして襲撃の失敗や、黒幕の正体がバレていることに気付くまでにも、ね。
* *
華奢で小さく、 如何(いか) にもお嬢様が乗っていそうな馬車、ペネロープ号で王都に乗り込み、そこそこ高級そうな宿屋に部屋を取った。
……ファルセット御希望の、私と一緒、二人部屋だ。
フランセットと旅をしていた時は、同じ部屋とかじゃなかったぞ。
フランセットは、ロランドの護衛もやっていたから、宿ではロランドと同室だったからね。
私は、レイエットちゃんとふたりか、それにベルが加わって3人、というのが多かったなぁ。
王都(ここ) には、勿論、すごく高級な宿屋もある。
でも、そういうのは、貴族とか大店の商会主とかが泊まるところであって、多少金回りが良くても、供の者も連れていない小娘と護衛の女騎士が泊まるような宿屋じゃない。
もし泊まろうとしても、多分、『 生憎(あいにく) 、満室でございます』と、慇懃無礼に断られるだろう。
勿論、本当は空室があるんだけどね。
最上級の宿は、宿泊客のレベルを保ち、客が下等民を視界内に入れて不快な思いをしないように配慮するのも、サービスの内であり、料金の内なのだ。
……多分。
まあ、そもそも、そんな居心地の悪いところには、こっちが泊まりたくないよ。
何が悲しゅーて、大金払って嫌な思いをせなアカンねん!
どんな罰ゲームだよ……。
というか、そんなところに泊まったら、ファルセットがヤバい。
お貴族様や金持ち連中が、平民の小娘である私に対して、もし無礼な態度を取ったりすれば……。
初日の夕食時には、食堂に死体が5~6体転がることに……。
……いや。
いやいや!
いやいやいやいやいや!!
絶対に、最上級の宿屋なんかには泊まらないよ!!
馬車と、ハングとバッドは厩番に預けてある。
特別料金を払って、 心付け(チップ) も弾んだから、餌も特別食で、馬体の手入れもしっかりやってくれるだろう。
私とファルセットの部屋は、2階の、一番奥。
しばらく滞在する予定だから、フロントクラークにも 心付け(チップ) を渡して、良い位置の部屋にしてもらったのだ。
……敵を迎え撃つとか、脱出するとかに 都合の良い位置(・・・・・・・) に……。
しかし、デカいな、部屋のカギ……。
こんなに鍵穴がデカくて簡単な作りの錠前だと、ドライバー1本で簡単に開けられそうだな。
というか、それ以前の問題として、力任せに引っ張れば、錠前が固定されている部分を引き千切れそうだな。
ま、そんなことをする客も従業員もいない、っていうのが、高い宿泊料で買った『安全』ってわけか。
現代地球でも、国によっては、そしてホテルの格によっては、従業員が窃盗犯だとか、強盗の引き込み役だとか、普通にあるものね。
タクシーの運転手どころか、警官が強盗の仲間だったりするし。
ま、安全はお金で買うものだよね、日本以外では。
とりあえず、後で、ドアと窓には追加で自前の錠前を付けておこう。
無理に開けようとすれば、電流が流れたり火を噴いたりするヤツを……。
防犯用具は、マジなやつ、ジョーク用、その他諸々、アイテムボックスの中に各種取り揃えてある。
恭ちゃんの母艦製とか、ポーション容器とかで、色々と作ったからね。
「というわけで、作戦会議だよ。
まずは、情報を……」
「それは、我らにお任せください」
「ぎゃあああああああ〜〜っ!!」
突然後ろから声がして、椅子から飛び上がってダッシュ、ファルセットの後ろに駆け込んだ。
「な、ななな、何者っ!!」
カギを開けて、ファルセットとふたりで部屋に入り、カギを掛けた。
そして小さなテーブルを挟み、ふたり向かい合って座った。
……私達以外の者が、この部屋にいるはずがない!
もしいれば、それは幽霊か 曲者(くせもの) の、どちらかだ。
……あれ?
どうしてファルセットが座ったままで、平然としているんだ?
今こそ、私を護るために活躍すべき時だろうがっ!!
……って、ファルセットが動かないということは……。
「『女神の眼』の、若い世代の連中じゃん……」
まあ、ファルセットが、ここまで接近した敵の気配に気付かないはずがないし、賊であれば、わざわざ奇襲の前に声を掛けたりはしないわなぁ……。
それに、そもそも、私の後ろから声を掛けられたということは、私と向かい合って座っていたファルセットには、最初から相手が見えていたってことじゃないか。
なぁんだ、ははは……、じゃねぇよ!
「女性ふたりの部屋に、こっそりと忍び込むなああぁっ!!
……あ、いや、堂々となら忍び込んでもいいってわけじゃないからね!」
危ない危ない。コイツら、言葉尻を捉えて、都合良く解釈しやがるからなぁ。
「……で、どうしてここにいるのよっ!」
「はい、カオル……エディス様の御出陣と伺いましたので……。
いくら名馬ハングとバッドであっても、そちらは馬車、こちらは騎乗ですから、一定距離を保って護衛しながらついていくのは、全く問題なく……。
私達の馬も、シルバー種ですからね」
「聞いてるのは、そこじゃねぇ!」
「エディス様がお雇いになりました、犬、猫、鳥の一部も、ついてきていますよ。
今は、この宿の周囲で護衛の任に就いているようですね」
「な、なぜ……」
「え? いつも交代でエディス様をお護りしている連中ですよ? 命令を解除されていなければ、そりゃ当然、護衛を継続しますよね?」
「あ……」
失敗した!!
「連中に、悪いことをしたなぁ……。犬と鳥はともかく、猫は長距離を走り続けるのは大変だったんじゃないかなぁ……」
私が、そう言うと……。
「あ、猫は犬の背中に乗って、しがみついていましたよ。結構、仲が良いみたいですね」
「何じゃ、そりゃあああ!!」