作品タイトル不明
394 敵 地 2
「……まぁ、来ちゃったものは、仕方ないか……。
それに、正直言って、助かるよ。私達は、情報収集に関しては素人だからね。
力押しなら、 ほんの少し(・・・・・) 、自信があるんだけどねぇ。
……って、何だよ、その『え?』っていうような顔は……」
くそ、慌てて眼を 逸(そ) らしやがった。
「ファルセットは、ひとりで正規軍1個小隊くらいは蹴散らせるだろうから、商人が差し向けるチンピラや落ちこぼれハンターとかに対する戦力としては充分なんだけど、私を護りながら一騎当千の活躍ができたフランセットには遠く及ばないからね……。
……あ、いや、 貶(けな) してるわけじゃないから! そんな、この世の終わり、みたいな顔をしないで!!
そもそも、 一族(エインヘリヤル) の真祖様、狂犬フランと張り合おうと考えるのが間違ってるから!」
ファルセットが私の言葉に盛大に落ち込んでいるけれど、ひとりで正規軍1個小隊……だいたい、40人くらい……に立ち向かえる時点で、充分おかしいんだよ。
フランセットを基準にして考えるのは、チワワに対してドーベルマンを基準にして考えるのと同じだ。
40枚の金貨は、1枚の金貨の40倍の価値がある。
でも、40人の正規兵は、ひとりの正規兵40人分の強さじゃないんだよ。
1対1の戦いを40回やるんじゃないんだ。40本の剣が、一斉に襲い掛かってくるんだよ!
そんなの、普通の人間がひとりで相手して、勝てるかあぁっ!!
……はぁはぁ……。
でも、フランセットの奴は、 1個中隊(・・・・) でも相手にできたからなぁ……。
いや、さすがに、全員を斬り殺すわけじゃない。……やろうと思えば、できるのだろうけど。
いつも、半分も斬らないうちに、敵が雪崩を打って敗走を始めるのだ。
戦いなんか、自分だけは無事、生きて帰れる、って思うからやれるんだ。
絶対確実、100パーセント間違いなく死ぬ、と分かれば、そりゃ逃げるだろう。
後で捕まると、軍法会議で死刑になるかもしれない?
……でも、その危険を回避するために、今、ここで死ぬ?
いやいやいやいや、逃げ切れるかもしれないし、戦死したと思ってくれるかもしれない。
そりゃ、逃げるわなぁ……。
フランセットには、相手に『死』というものを 生(ナマ) で感じさせる凄味があった。
いつもは優しそうな騎士のお姉さんだけど、 狂戦士(バーサーカー) モードに入った『鬼神フラン』は、万の敵をも総崩れで敗走させると言われていたからなぁ……。
それはもう、えげつないほどの『死の恐怖』を感じさせる……、うん、まあ、『死神』みたいなオーラを身体中から放出しているんだよ、恐ろしいことに……。
それ、私も何度か見たんだよ……。
それに較べると、ファルセットは、まぁ、チワワくらいなんだろうなぁ……。
圧倒的に、実戦経験とオーラが足りていない。
まぁ、いくらファルセットがチワワでも、普通の兵士達はヒヨコの群れなんだよなぁ。
そりゃ、無双できるって……。
……って、フランセットのことは置いといて!
「じゃあ、『女神の眼』のみんなは、諜報活動をお願い。対象は、とある商家と、そこと関わっている連中。犬、猫、鳥は……、人間の言葉が分からないから、諜報活動はできないよねぇ。
……私達の護衛と、交代でモフモフ要員かな?」
「モフモフ……」
何か、ファルセットの眼が輝いてるぞ。
現地雇用の 連中(動物達) をモフれるようになってから、かなりハマってるからなぁ、コイツ……。
まぁ、私のところへ来るまでは修行 三昧(ざんまい) の毎日で、娯楽だとかは殆ど経験がなかったらしいからなぁ。
そんな時間があるなら、その間、修行を、っていうのが、 筋肉馬鹿(エインヘリヤル) 達の考え方……というか、多分、フランセットの指導方針……らしい。
だから、娯楽や遊びを知って、楽しんでくれるのは良いことだ。
動物さんチームにとっては、大迷惑かもしれないけれど……。
* *
『女神の眼』の連中に、諜報活動の対象や必要とする情報について詳細説明をして、解散。
……まあ、連中もこの宿に部屋を取っているらしいから、毎日、夜には情報交換をするわけだけど……。
そして、外に出て、動物さんチームを呼び集めて、 人気(ひとけ) のない場所へ移動。
いや、泊まってる宿屋の前で、犬語、猫語、鳥語で話をするわけにはいかないからね。
……主に、私の羞恥心と、医者や神官を呼ばれかねないという事情によって……。
悪魔憑きとか、動物憑き、獣憑きとかいうのは、ここでは実在すると思われているから、下手をすると治療や祓いやらのために、檻や地下牢に監禁されるおそれがある。
いや、マジで!
さて、動物さんチームに仕事の説明をした後は、『女神の眼』の連中が情報を集めてくれるのを、のんびり待つか……。
初めは、自分でやるつもりだったんだよね、情報収集……。
まぁ、恭ちゃんの母艦製の超小型録音器とか、変装用の装備とか、色々あるからね。
七つの顔の女だぜ、ってやつだ。
でも、『 女神の眼(専門家) 』がいるなら、そっちに任せた方が安全確実、そして迅速だ。
餅は餅屋。蛇の道は蛇。
ま、数日間、のんびりしながらこの 王都(まち) の雰囲気や、一般的な商人達のモラル、他国の商人との取引に関する意識調査とかを行うか……。
報復は問題の商人に対してのものだけでいいのか、他の商人達にも釘を刺しておいた方がいいのかの、参考になるからね。
* *
「昨日から、エディス様と 女神の守護騎士(エインヘリヤル) の少女の姿が見えません」
「何? いや、3人が交代でお出掛けになるのは、いつものことだろう?」
部下からの報告に、軽くそう返す、レイフェル伯爵家精鋭チームのリーダー。
そう、カオル達が交代で『リトルシルバー』に行くのはいつものことなので、この連中はその行き先がどこか分からず、それが気にはなるものの、そのこと自体は別に心配するようなことではなかった。
それに、いつもは単独で出掛けるのに、護衛の少女を連れているとなると、更に安心であった。
女神の守護騎士(エインヘリヤル) であれば、たとえそれが少女であろうが、盗賊や誘拐犯如きに 後(おく) れを取るようなことはない。
……しかし、部下は更に報告を続けた。
「エディス様がここで 現地雇用(・・・・) されました、犬、猫、鳥達の数が半減。
お店の方も御自宅の方も、警備に就いている数が減っています。
おそらく、護衛のために随行したものと思われます。
そして、『薬屋』の連中が、留守番役を残し、全員姿を消しました」
「……しまった! 御出陣に、置いて行かれたああああぁっっ!!」
この連中も、『女神の眼』と同じように、密かにカオル達の身の安全を図るために行動しており、ダルセンの小規模商隊のことも把握していた。
そしてその、襲撃事件のことも……。
盗賊の存在を知った者は、警備隊本部に届けることが義務なのである。
他の商隊の被害を防ぐためや、討伐隊の規模を決めるためには、盗賊に関する情報は必須事項なのは当然である。
そのため、『盗賊達は、全員、御使い様が捕らえ、連れて行かれました』などという、到底信じてもらえそうにないことであっても、届けざるを得ない。
もし届けておらず、後で事実が発覚すれば、大きな罪に問われる。
そしてもしバレることがなかったとしても、真面目なダルセンには、届けを出さないなどという選択肢は存在しなかった。
それに、護衛や、ダルセンの取引先であるカルド商会の者達からも、当然、ダルセンの商隊が襲われたという話は広まる。
そのため、カオル達やトレーダー商店の動静に眼を光らせているレイフェル伯爵家精鋭チームに、その件が知られていないわけがなかったのである。
なので、もしカオル達が何か行動を起こす時には、と思っていたのであるが……。
神罰の開始はこの 王都(まち) で始まると考えていたことと、その時には全員で動かれるものと思っていたため、初動を見誤った。
精鋭チームのリーダー、一生の不覚であった……。
* *
「エディス様、御出陣の可能性、大!
護衛のCランクハンターと商店主は随行せず、店を通常営業。
予想随伴戦力、 女神の守護騎士(エインヘリヤル) 1騎、『女神の眼』駐在部隊全兵力、及び現地雇用の動物兵(使い魔)達の約半数!」
アリゴ帝国官民合同支援部隊の作戦会議室に、諜報活動責任者からの、叫ぶような報告の声が響いた。
「……しまった! 後れを取ったか!!
我らと妖怪ババアの手下共は、置いて行かれた……、いや、御出陣に気付けなかった故の、自業自得か……。
『薬屋』の連中も、別にお声掛けいただいたわけではあるまい。
自ら気付き、勝手に同行したか……。
しかし、お仲間を置いて行かれたということは、 大した仕事ではない(・・・・・・・・・) 、とお考えだということか。そして、終われば 王都(ここ) へ戻られるのは間違いない、と……。
仕方ない、今回は 潔(いさぎよ) く諦めて、お留守をお守りするか……。
おい、『薬屋』の連中がいないんだ、お店と御自宅の警備レベルを上げるぞ!
窃盗事件のひとつでも起こさせたら、ただじゃ置かんぞ!!」
やはり、カオルの考えを読み、先手を打つという点においては、カオルのことを熟知している『女神の眼』長老会の面々に教育された者達には敵わないらしき、レイフェル伯爵家チームとアリゴ帝国合同支援部隊であった……。