作品タイトル不明
390 反 撃 4
「次は、どこへ行くの?」
「とりあえず、お店に戻るよ。……でないと、ファルセットが怒り狂う」
「「あ~……」」
恭ちゃんの質問に返した私の言葉に、納得の声を漏らした、レイコと恭ちゃん。
まあ、他の選択肢はないだろう。
ダルセンさんと商隊は、あのまま王都の大店へ向かったから、問題ない。
普通の盗賊は、こんなに王都に近いところでは活動しないし、護衛もちゃんと付いているしね。
ダルセンさんの商隊を襲うために人数を揃えた特別編成の連中でなければ、狙われるような場所でもないし、護衛の数が少ないというわけでもない。
それに、普通の盗賊ならば、馬車と積み荷は奪われても、抵抗しない人間が危害を加えられることは滅多にない。そして奪われた馬車と積み荷は、私達ならば簡単に取り返せる。
ダルセンさんの商隊には女性はいないから、その点でも心配はないし……。
積荷は私達が造ったお酒だから傷む心配はないし、当然ながら、商品については大店の商会主と事前に調整してあるらしい。
だから、もうそっちは放置でいいや。
「じゃあ、帰るよ。……発進!」
恭ちゃんが、手動操縦で 王都本店(おみせ) へと機首を向けた。
* *
……ファルセット、激おこ。
いや、分かっちゃいたけど……。
一応、御機嫌取りのために、『我らの不在の間、拠点の防衛任務、大儀であった!』って褒めておいたのだけど、効果なし。
普段なら、そういう言い方をしてあげれば、ワンコのように喜んで尻尾を振るのに……。
でも、まあ、いくら怒ってはいても、さすがに立場は 弁(わきま) えているらしく、怒鳴ったり声を荒らげたりするわけじゃないんだけど、声を抑えてクレームをつけるその額には、青筋を浮かべている。
……メチャクチャ怒ってるやん!
「……滅多に出番のない私の、数少ない活躍のチャンスだったのに……。
どうして……。どうして、私を置いて行ったのですか……」
涙目やん……。
「「「すみませんでしたあぁ〜〜!!」」」
うん、待ちに待った出番、せっかくの見せ場を潰されたんじゃあ、 女神の守護騎士(エインヘリヤル) としての立場がないよねぇ。
ファルセットも、真祖であるフランセットのように、老後に孫やひ孫に何度も繰り返し話して聞かせるためのエピソードが欲しいよねぇ、そりゃあ……。
よし!
「大丈夫だよ! 今回は、雇われただけの下っ端の連中から黒幕の正体を吐かせるだけの、簡単なお仕事だったから、ファルセットは連れて行かなかったんだ!
ほら、雑魚の相手とか尋問とかは、誇り高き 女神の守護騎士(エインヘリヤル) がやるべきことじゃないでしょ?」
「あ……、た、確かに……」
「これから、ファルセットの本当の出番、黒幕との戦いが始まるよ!」
「おお! おおおおおおおっ!!」
……チョロい。
レイコと恭ちゃんも、そう思っていそうな顔をしてる。
そして、 エインヘリヤル(じぶん) がやるまでもない雑事である下っ端相手の尋問を、女神に押し付けたということについては、何も気にならないのかな、ファルセット……。
とにかく、最大の懸案事項は片付いた。
よし、次行こう、次!
* *
「何だと! 商隊が襲われただと!!」
到着したダルセンから襲撃のことを聞いたカルド商会の商会主エイヴィスは、思わず腰を浮かせて大声を上げた。
「……で、商品は! 商品はどうなった!!」
いつもは穏やかな表情を崩さず、格下の者に対しても丁寧な言葉遣いをするエイヴィスが、声を荒らげている。余程動転しているようである。
「お、落ち着いてください!
私達が全員無事であり、馬車も何の損傷もなく健在。……つまり、そういうことです」
ダルセンの言葉に、急速に落ち着きを取り戻した、エイヴィス。
そう。盗賊は、無駄に殺傷を行うことはないが、馬車は持ち去る。
積荷を運ぶために自前の馬車を用意する盗賊など、いない。
荷を積んだままの馬車を、そのまま動かして持ち去れば簡単なのだから。
そうすれば、荷を積み替える必要すらない。
なので、商隊……人員だけでなく、馬車も込みで……が無事到着したということは、 そういうこと(・・・・・・) なのであった。
なので、そのことにすら頭が回らず激昂してしまった自分を恥じ、まだまだ修行が足りぬ、と反省し、少し顔を赤らめながら、静かに椅子に腰を下ろしたエイヴィス。
今回の荷は酒であり、今までのような、ひとつが金貨数十枚、というようなものではない。
それに、値を吊り上げられるだけ吊り上げての暴利で、というつもりもない。
なので、せいぜい、1本あたり小金貨数枚程度で売る予定であった。
それでも、どうしても欲しい、と言い出す貴族や王族、金持ち達は多いであろうが……。
別に、貴族や王族に対する武器となるのは、高額商品だけではない。
価格はそう高くなくとも、どうしても欲しい、と思わせることができる商品であれば、それは商人にとっての立派な武器になるのであった……。
そして、一度は落ち着いたエイヴィスであるが、賊に襲われたのになぜ被害ゼロで助かったのかという説明を求め、……そしてダルセンが『助けてくれたのは、あくまでも、初対面である見知らぬ女神か御使い様である』ということにして、うまく説明したところ、口をパクパクさせるだけの置物と化したのであった。
御者や護衛達も全てを目撃しているし、もしかすると、あの盗賊達が 生きたまま(・・・・・) 引き渡される(・・・・・・) 可能性もなくもない(・・・・・・・・・) ため、ダルセンは嘘を吐くわけにはいかなかったので、仕方ない。
* *
「よし、じゃあ、それで決定!」
作戦計画……ではなく、人数割りが決定した。
作戦は、向こうで状況を確認してから、臨機応変に。
というわけで、レイコと恭ちゃんは留守番……というか、ここに残って、普通にお店を営業することに。
そして私とファルセットが、空母打撃群として、隣国へ。
なぜ『空母打撃群』か、って?
いや、向こうで現地採用しようかと思ってね。
搭載機(鳥や犬達) を……。
お店や借家の庭で警備をしてくれている者達は、連れて行かずにそのままこっちにいてもらう。
家族やら飼い主やらがいる者もいるからね。
だから、現地採用。
……あ、『リトルシルバー』の警備員も、あの町で現地採用しなきゃ。犬や鳥、猫とかを……。
本気になった犬や猫と殺し合いをして、勝てる人間は少ないよね。
だから、私達がいない時に子供達を護ってくれる頼りになる護衛として、最適なんだよね。
何より、絶対に裏切られることがない上、報酬が食べ物だけで済むから安上がりなのがいい。
とにかく、この編成は、変えられない。
恭ちゃんを攻撃側にすると、……せかいがはめつする。
そして恭ちゃんには、私かレイコが付いていないとマズい。
それに、ファルセットに活躍の場を与えないと、今度こそ本当にキレそうだし、ファルセットは私の側にいようとする。
そうなると、この編成割しかあり得ないんだよねえ……。
そして何より、ダルセンさんは私にとっての恩人だ。
ならば、当然……。
復讐するは、我にあり。
「あ、ファルセットが抜けて、レイコと恭ちゃんだけだと、舐められて、馬鹿に絡まれるかも……。
ハンターギルドか傭兵ギルドで、護衛を雇った方がいいかもね。営業中だけ。
若手を雇えば、依頼料が安く済むし、向こうも仕事が得られて嬉しいだろうし、……そして若いハンターはちょっと絡まれただけですぐに剣を抜くだろうから、危なくて下手にちょっかいを出すヤツはいないだろうから、安心だよ」
「「…………」」
「あ、それと、恭ちゃん、色々と用意してもらいたいものがあるんだけど……」
「護身用の装備とかだよね? 後で要望リストを頂戴」
「よろしく~」
うん、準備はしっかりとしておかなきゃね。