作品タイトル不明
385 あれ? 4
「緊急出撃! 恭ちゃん、4人乗りの小型艇出して!」
「分かった!」
私の指示で、真っ先に部屋から飛び出して、階段を駆け下りる恭ちゃん。
さすがに、屋内で小型艇を出すわけにはいかない。
そして恭ちゃんに続く、私とレイコ。
各種小型艇は全員がアイテムボックスの中に入れているけれど、極限まで簡略化された操縦系統を自動サポートや安全機構に手伝ってもらって操縦する私とレイコより、自動的に操作法が頭の中にインストールされる恭ちゃんが操縦してくれた方が、速いし安全だ。
人間が乱暴にブッ飛ばした方が、安全措置でガチガチに固められた自動操縦より速い。
恭ちゃんは、ぽややんに見えて、……事実そのとおりではあるのだけど、ゲームとかの操作は苦手じゃないんだよね。自分の身体を動かして、とかいうのは駄目駄目だけど。振動もなくGもかからないなら、これの操縦はゲームをやっているのと変わらないから、恭ちゃんでも人並みに操縦できるんだよね。
だから、急いでいる時や慌てている時の 操縦者(パイロット) は、恭ちゃん一択!
裏庭に出された小型艇に飛び乗る、私とレイコ。
外からは見えないように光学的に細工してあるから、人目は気にしなくていい。
音も、上昇するまではほぼ無音の重力制御系だし、念の為に遮音フィールドも展開しているらしい。
そして、静かに上昇して……。
「スクランブル・ダッシュ!!」
恭ちゃんの掛け声と共に、急発進。
加速によるGはシステムによって相殺されているので、苦しくはないし、シートベルトも必要ない。急停止しても、つんのめってフロントガラスや計器板に顔面を強打する心配もない。
超科学、万歳!!
……とか言ってる場合じゃないよ!
ダルセンさんの命に関わる事態かもしれないんだ、あらゆる場合に備えて、心構えをしておかなくちゃ!
何が起こったのか。
崖崩れに巻き込まれた、崖から転落、魔物の群れに襲われた、盗賊の襲撃、怪我人か病人の発生、自分達ではなくそういう目に遭っている人に出くわした、その他諸々……。
あああ、通話機能があるアイテムを渡しておくべきだったか?
……いや、ダルセンさんとは、まだそこまで私達の秘密を教えるような関係じゃない。
商人に、あまりにも非常識なものを見せるというのは、マズいだろう……。
とか言っているうちに、現場到着。
昨夜、商品の引き渡しをしたんだ、街道の夜営用空き地で。
そして、明日の夕方頃に王都に着く予定だったのだから、王都まで荷馬車で残り1日弱の距離。
……小型艇なら、音速を超えないようにしても、2分そこそこだ。
そして勿論、盗難とかに備えて、積荷の中には発信器がいくつか仕込んであるから、目的地には最短距離で一直線。
そりゃ、すぐに着くよね。
遮音フィールドと不可視シールドがあるから、高度を下げて接近しても気付かれることはない。
なので、接近し、前面スクリーンに地上の様子を拡大して映し出した。
そして……。
「……」
「…………」
「………………」
私達が警報音を聞いてから、小型艇に乗り込んで、ここへ来るまでには、ほんの4~5分しか経っていない。
だから、現場はまだ そのまま(・・・・) だった。
進行方向を反転させつつある、4台の荷馬車。
縛られて転がされた、ふたりの御者と護衛達。
……そう。
ふたりの御者と(・・・・・・・) 、 護衛達(・・・) 、だ。
もうひとりの御者と、御者兼商隊リーダーであるダルセンさんは?
ボロボロに痛めつけられて、かなりの怪我を負っているらしきダルセンさん。
縛られた人達から離れた場所にいる。
その位置から考えて、馬車が反転し終われば、荷台に乗せて連れ去るつもりなのであろう。
……それなら、今、ここでそんなに痛めつける必要、あった?
そして、4台の馬車を反転させている者達のうち、3人は盗賊っぽい恰好だけど、ひとりだけは 御者らしき服装を(・・・・・・・・) している(・・・・) 。
……分かりやすい。
非常に。
とても。
……分かりやすい。
周囲には、如何にも悪党でござい、と言わんばかりの風体の、20人少々の男達。
あ〜〜、そういうコトかぁ……。
「恭ちゃん、無音フィールドと不可視シールド、解除……」
無言で、そして無表情で機器を操作する、恭ちゃん。
怒ってるなぁ……。
……いや、違うな。
怒るのをやめた(・・・・・・・) んだ。
恭ちゃんは、悪いことをした人間に対しては、怒る。
そして悪人に対しても、慈悲はある。
…… 相手が(・・・) 、 人間であれば(・・・・・・) ……。
恭ちゃんに、相手の行動原理が理解できない場合。
あ、これはいくら話しても無駄で、意味がないな、と思った場合。
恭ちゃんは、相手が人間だと認識するのをやめる。
恭ちゃんは、大部分の人間と同じく、自分の周りをうるさく飛び回る蚊を叩き潰すことには何の罪悪感も抱かないし、ハエに向けて殺虫剤を噴霧するのに心の葛藤を覚えることもない。
相手が人間なら、酷い行為に対して怒りもする。
でも、相手が虫や動物であれば、嫌な思いはしても、 相手に対して怒る(・・・・・・・・) 、ということはない。ただ、淡々と排除するだけだ。
……そして今、恭ちゃんは奴らを『人間のレベルに達していないモノ』と判断したのだ、多分。
突然頭上に現れた、 謎の飛行物体(U F O) 。
大騒ぎの盗賊達と、ぽかんと頭上を見上げる、縛られた御者と護衛達。
御者と護衛達は、怪我をしている様子はない。
それは、別に不思議じゃない。
そんな無意味な暴力を振るっても、盗賊達には何のメリットもない。
暴行するために時間を費やすと、その分、逃げるのが遅れる。
あまり人的被害を出すと、領主が本気で討伐隊を出す。
……しかも、ここは王都に近いため、国からの討伐隊が出る可能性もある。
いくら盗賊の方が人数が多くても、護衛相手に戦えば、何人かの被害が出る。
商隊を全滅させず積荷だけ奪えば、商人はまた商隊を編成するから、いつかまた獲物になってくれる。……殺したり再起不能にしたりすると、どんどん獲物が減っていくし、すぐに討伐隊が出される。
なので、圧倒的な戦力差である時には包囲して降伏勧告を出し、それに応じれば、積荷は奪われるが人間には手出ししない、というのが、 この業界(・・・・) での約束事らしい。
降伏勧告に従ったのに約束を破られる、ということはない。
一度そんなことがあると、商隊側が降伏勧告を受け入れることがなくなり、毎回盗賊側にも被害……死傷者が出ることになるため、この約束事を破った盗賊は、同業者達を敵に回すことになる。
勿論、凶悪犯として、すぐに近傍の領主達や国から討伐隊が出されることになる。
……なのに、ダルセンさんがかなりの怪我をしている。
常にこういう事態は想定しており、変に抵抗したりするはずのない、そして降伏したなら絶対に手出しされないはずの、商会主であり、この商隊の 指揮官(リーダー) である、ダルセンさんが。
私達からも、積荷はもし奪われてもすぐに取り戻せるから、その場合はさっさと渡しちゃってね、と言ってあり、命あっての物種ですからね、と言ってそれを了承してくれた、ダルセンさんが。
商売的な損失を意にも介さず、私を助けてくれた、ダルセンさんが。
……でも、私は何もしない。
怒ってはいるよ?
でも、何もしない。
……何もしない、ってことは、 今の状態の恭ちゃんを(・・・・・・・・・・) 止めない(・・・・) 、ってことだ……。