作品タイトル不明
382 あれ? 1
「よし、ダルセンさん、グッジョブ!」
王都に来て直接大店に荷を運び込んだダルセンさん、うまく全ての商品を高値で売り、うちに寄って挨拶し、次回の取引の打ち合わせをすると、そのまま拠点の町へと帰っていった。
王都から運ぶ荷は、……大店が用意してくれていたらしい。
ダルセンさんの商隊が運べる量の何倍もの商品が揃えてあったそうだ。
良質で、地方の町で売れそうな選び抜かれたものばかりが、相場よりかなり安い価格で……。
この中から好きなものを選んで買え、文句はないだろう、ということだったとか。
勿論、それは『田舎町で売るようなチンケな商品の買い付けなどのために時間を使い、うちに売るブランド商品とやらを運ぶのがその分遅れるとかいうことのないように』ということなのだろう。
ダルセンさんとしては、商売とはそういうものじゃない、とか、自分で買い付ける商品を選んだり安く買うための工夫や交渉を楽しんだりするのが、とか、色々と言いたいことがあったらしい。
……だけど、当然ながら、目が全然笑っていない、笑顔の商会主にそんなことが言える程の勇者ではなかったため、素直にその中から買い付けたらしい。
とんぼ返りで休む暇もないとか、馴染みの店に顔を出す暇もなかったとか、少しは王都で遊ばせてくれとか、色々と愚痴を溢して帰っていったけれど、口で言う程嫌がっているようには見えなかった。
……多分、アレだ。
ツンデレ、ってやつ……。
「まあ、大儲けしているし、王都の大店と太いパイプで 繋(つな) がれたということは、地方の商会としては嬉しくないはずがないよね。
今はちょっと大店側が舞い上がっちゃってて、ダルセンさんの商人としての楽しみや矜持に少し問題が出ちゃってるけど、ダルセンさんの話だと大店の方も悪い人達じゃないみたいだから、興奮が少し醒めれば落ち着いて、あまり無茶は言わなくなるでしょ。
……というか、ダルセンさんがあまり舞い上がっておらず、冷静で堅実な態度なのは、驚きよね。
もっと、その、ガツガツ来るかと思っていたのだけど……」
うん、私も、レイコが言うとおりだと思う。
ホント、ダルセンさんはしっかりしていて落ち着いた、立派な商人さんだよねぇ……。
そして、困っている女性を見れば、商売の予定が狂って損をすることなんか意にも介さず、助けてくれる。
あの時に出会った商隊が、ダルセンさんのものであって、本当にラッキーだったよなぁ。
そして、大店からの要求だけど……。
ずっとこんなのが続けば、さすがにダルセンさんもキレるだろう。
それに、そんなに早く大量の商品を運べば、すぐに相場が暴落するだろうしね。
それは、ブランド品の売り方じゃない。
次の納入で、『仕入れ先の在庫が尽きた。次にまとまった量の商品が揃うのは、かなり先になる』ということにしよう。
一応、レイコと恭ちゃんにもそう言ってある。
……但し、ガラス製品と陶磁器と服飾品は、だ。
特定ジャンルの商品の供給過多は、価格の低下だけでなく、特別感、高級感の喪失と、類似業種の人達の困窮に繋がる。
うちと全く同じ商品ではなくても、食器や服飾品の製造や輸送、販売等に 携(たずさ) わっている人達……、いや、それだけではなく、それらの原材料の供給に携わっている人達や、その稼ぎで家族が色々なものを購入している商店とか、迷惑の輪がどんどん広がっていく。
上流階級への販路を切り拓くための撒き餌は、既に十分その役割を果たしてくれた。
次は、それらに較べればあまり高価じゃないけれど、貴族の欲望と飢餓感を煽り、継続的に入手を求め、供給を断たれることを非常に恐れる商品を投入するのだ。
既存の商品のシェアを奪うことなく、プラスアルファとして追加購入、という形で売れるもの。
そう。貴族や金持ちの商人とかが求め、犯罪行為や非人道的なこととは関係のない、飛び抜けて高価というわけじゃないけれど、そこそこ利益が出る商品。
そして、腐らず傷まず、廃棄品や不良在庫にはならないもの。
……そう。お酒、キミに決めた!!
* *
「というわけで、売るお酒の種類を決めたいんだけど……」
「 酒類(しゅるい) の種類?」
「うるさいわっ!」
真面目な話なのにギャグに走るレイコに、一応突っ込みを入れておく。
いや、どんな場合であっても、そしていくらつまらなくても、ボケには突っ込みを入れるのが礼儀であり、マナーだ。
「エールはある。ワイン、シードル、その他の果実酒もある。
蒸留酒は、ないわけじゃないけど、あまり広まっていない。ごく一部のところで、自家製レベルで 造られていなくもない(・・・・・・・・・・) 、ってレベル」
「まあ、造られてはいても、現代の地球で出回っているレベルのを造れば、比較にならないでしょ」
うん、レイコが言うとおりだろうな。
「蒸留酒の他にも、果実酒に蒸留酒を添加するとか、エールの上面発酵酵母じゃなくて下面発酵酵母でラガービールを造ってホップも加えるとか、色々あるわよね……。
エールは常温で香りとコクを楽しむのもいいけれど、ビールは冷やした方が美味しいから、冷却方法がないこの世界だと、どうかなぁ……。
あ、麹や酵母は、カオルの能力で出せる?」
え?
「酵母って、微生物だよね……。麹も菌類、カビの一種だから、真核生物か。
生物は、出せないかも……。
セレスの種族って、そのあたりは拘りそうだし……。
恭ちゃんの母艦も、酵母は積んでいないだろうし、造れないよねぇ……」
「「「…………」」」
いかん。お酒って、酵母がなければ話にならないじゃん!
まあ、この世界にもエールとかワインとかがあるのだから、地元の酵母が使えるか。
その他の色々な酵母を探す、というのも、恭ちゃんの母艦の科学力で何とでもなるし、ポーション容器で探知機を作ることもできる。
蒸留酒なら、今ある地元の醸造酒からでも造れるし……。
お酒は、 もう出来てるやつ(・・・・・・・・) なら、ポーション作製能力で地球のとほぼ同じものを出せる。
でも、自分達が飲む分はそれでいいけれど、商売で売るものをずっとポーション能力で出すのは、ちょっと違うだろう。
それじゃあ、この世界の酒造技術の発展に何も寄与しないどころか、足を引っ張るかもしれない。
それに、私達が急に 拠点を移す(にげだす) ことになれば、全てがパーになる。
だから、販売用のお酒は原料の入手から始めて、ちゃんと地元の人達の手で造らせたいんだよなぁ。私達とは関係なく造れて、自分達で発展させていけるように……。
あ、さすがに、リトルシルバーの子供達をお酒造りに関わらせるつもりはないよ。
どこかに、旨い酒のためなら何でもします、って言うドワーフとか、いないかなぁ……。
まだ、見たことがないけどね、ドワーフ。エルフとかも……。
この世界に、いるのか? 今度、セレスに聞いてみよう。
「本当は、売るお酒は能力で出したくないんだけど、……今回は仕方ないよね。
お酒を造るには、時間がかかるし……」
こくりと頷く、レイコと恭ちゃん。
うん、さすがにふたりも、今から酒造りを始めるのは無理があると思ったか。
設備や原材料、働き手とかの準備もだけど、ワインやブランデー、ウイスキーとかは、長期間寝かせて熟成させなきゃならないし。
「さすがに、今から麦や葡萄、トウモロコシ等を買い集めるところから始めるのは、ちょっとアレよねぇ。
それに、下手に私達が酒造用に穀物を買い集めると、価格の高騰や品不足になって、大勢に迷惑を掛けることになるかも……」
「うっ! 確かに……」
レイコが言うとおりだ。
この世界には、決して十分な余剰食糧があるわけじゃない。
もしある場所では豊作で余っていても、それは他の地域へと売られ、不作の国を助けるために使われる。
あまり贅沢品のために浪費していいものじゃないよね、主食級の穀物は……。
家畜による肉の生産は、その何倍もの飼料用穀物を必要とする。
それだけでも、十分な余剰食糧がない世界においては、かなりの贅沢だ。
なのに、その貴重な食糧を、肉どころか酒を造るために使うなど、とんでもなく……。
素晴らしいことである!!
「人類にとっての食べ物は、お酒のアテ、つまみだけあればいいよね!」
いや、恭ちゃん、それはちょっと……。