軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

381 商人ダルセンの奮闘 3

「ダルセンさんは、うまくやってくれたよね。次の商品を前倒しで出すことになったけど、別に何の問題もないし……。

うまく私達の名前や『トレーダー商店』の店名を出さずに上級貴族の間に商品が浸透すれば、いざという時にはうちがそれらの商品の供給元だということを公表し、『あそこに敵対すると自分達にはあの商品が廻って来なくなる』ということになって……」

「「私達の敵に回る者が減り、多くの貴族が味方をしてくれる……」」

レイコと恭ちゃんの台詞が揃った。

……そう。

それが、私達が顔や名前を変えて、王都で色々とやっている理由であり、目的なのだ。

本当は恭ちゃんの『トレーダー商店』にその役割を果たしてもらうつもりだったのだけど、大店に伝手がある……『顔が利く』ということはないけれど、商品を見たり話を聞いたり、くらいはしてもらえる……というダルセンさんの登場に、ちょっと試行してみたのだ。

ダルセンさんは、信用できるからね。

そうしたら、何と、かなり良い感じになったみたいなんだよね。

あとは、あの大店がうまくクリスタルガラス製品を上級貴族に売り込んでくれて、貴族達がうちの商品を欲しがって、そのためならばうちを護ってくれる、というように持ち込めれば……。

恭ちゃんが『トレーダー商店』として上級貴族との繋がりを得て、そこから徐々に手を広げて、というのより、その方がずっと手っ取り早い。

そもそも、貴族や金持ち連中が、自分が手に入れた素晴らしい品の入手先を他の者に教えるはずがないよね。

せっかくみんなに自慢できるものを手に入れたというのに、他の者達がもっといい品を手に入れるための手助けなんか、するはずがない。

下手をすると、囲い込んで自分専属にしようとか、他の者に売ることを禁止しようだとか、 他の者が手に入れる(・・・・・・・・・) ことができないように(・・・・・・・・・・) しよう(・・・) とかする可能性も、ゼロじゃないだろう。

うん、餅は餅屋。貴族への売り込みは、大店に任せればいい。

『リトルシルバー』や、あの町とは全く接点のない大店に、ね。

店頭販売するわけじゃないだろうから、ターヴォラス商会、ホークス商会、クルト商会とかに迷惑が掛かることはないだろう。

……あ、その3店もそのうちガラス製品の噂を聞くだろうから、それ関連には余計な手出しはするな、って釘を刺しておこう。

阿漕(あこぎ) な真似はしないだろうとは思うけど、念の為だ。

よし、ダルセンさんに卸す商品を用意しておくか。

ポーション容器として出すんじゃなくて、ちゃんと恭ちゃんの母艦で原材料から作ったやつを……。

* *

「お待ちしておりましたよ。ささ、そのまま奥へ!」

ダルセンが再び王都へとやってきて、そのまま宿も取らずに商隊の馬車全てを率いて大店……カルド商会に向かったところ、飛び出してきた商会主のエイヴィス自らが、ダルセンが御者を務める先頭馬車を誘導して、敷地の奥へと案内した。

……それも、取引先の馬車が入れる限界点である馬車止めを越えて、賓客を馬車ごと迎えるための建物に向かって……。

(……あり得ん……)

馬車ごと1階部分へと乗り入れることができる、倉庫とも迎賓館ともつかぬ、1階部分には窓のない謎の建物。

ダルセンも、その建物の噂だけは聞いたことがある。

それは、遠国から運ばれたとても稀少な商品を載せた馬車だけが迎え入れられるという、地方の中小商店にとってはほぼ伝説の域の噂である。

(神々の宮殿か、魔王城か……)

次に王都に来た時は、宿を取らずにそのまま商隊ごと店に来るように、と言われていたため、こういう状況になっているわけである。

商会主がそう指示したのは、時間の節約という意味もあるが、それよりも『積荷の全てを、丸ごと確保する』ということと、秘密が漏れることを防ぐためであろう。

ダルセンはまだ知らないが、既にクリスタルガラス製品のことは貴族や金持ち達の間に知れ渡っている……というか、知らない者はいない。

業者用の馬車止めは外からは見えない場所なので、そこから更に奥へと通されたダルセンの馬車を目撃したのは店の者達だけであり、そして勿論、それを口外するような者がこの店の従業員の中にいるわけがなかった。

そしてダルセンが率いる馬車は全て、奥の建物の中へと入っていった。

全ての馬車が建物の中へ入ると、外観は倉庫のようなその建物の、大きな扉が閉められた。

……中は広々とした空間であり、低い位置には窓がないが、上の方には明かり取りの窓がある。

また、多数のロウソクを使用するシャンデリアや燭台が全て点灯されており、十分な明るさが確保されていた。

おそらく、ダルセンの到着を知ってから、急いで点灯されたのであろう。

昼間なのに、上方の明かり取り以外の窓がないためそれだけでは薄暗く、それを補うためにたくさんのロウソクを使用する。

いくら大店であっても、意味もなくそのような浪費をするはずがない。

……ということは、これには意味があるということであり、それは……。

(徹底した、秘密保持……)

そう。

馬鹿ではないのだ。ダルセンにも、それくらいのことは分かる。

ここにいる店側の者は、商会主と大番頭、そして数人の貫禄がある年配者……おそらく、番頭と、手代のうちのごく一部……がいるだけであり、小僧や丁稚と呼ばれる下働きはひとりもおらず、手代も若手はひとりもいない。

それは、この店の内部でも、信用のあるごく一部の者にしか秘密を明かさないということであろう。

「……荷を」

商会主の短い言葉の意味を取り違えるようなことはない。

ダルセンは、御者と護衛に命じて、馬車から荷を降ろさせ、広い地面に並べさせた。

屋内ではあるが、馬車を乗り入れるようになっているため、床の部分は建物に来るまでの道と同じく、石畳になっている。

前回とは違い、移動中の状態のままなので、荷台には商品がギッチリ詰まっている。なので、荷を降ろさないことには商品の確認をすることができない。

まあ、たとえ荷台に乗り込むスペースがあったとしても、集まっている者達が全ての商品を確認するためには、荷を降ろして並べるしかなかったのであるが……。

* *

「「「「「「…………」」」」」」

広げられたシートの上に箱のまま並べられた商品を確認している店側の者達は、最初のうちは驚きの声や称讃の言葉を漏らしていたが、皆、すぐに無言となった。

静かに、ただ商品を手に取って確認し、箱へと戻す。

そして、次の箱へ。次の箱へ。次の箱へ……。

それを眺めながら、ダルセンはぼんやりと考えていた。

(王都の近くで、事前の打ち合わせ通りにエディス様達と落ち合い、向こうが用意した2台の馬車……軍用馬車よりゴツいのと、普通のやつ……に積まれた荷をうちの馬車に積み替えた。

町を出る時、御者達だけでなく、護衛達からも『どうして空荷で王都へ行くんだ』、『空荷で行くなら、1日待ってくれ。金を借りて商品を買い集めるから、それを馬車に積んでくれ』などと頼まれたが、あれを断るのには苦労した……。

護衛の連中には、護衛任務の遂行に関係ないことで雇い主に何かを強要するなら契約破棄、ギルドに依頼任務不履行で苦情を出すぞ、と言えばすぐに引き下がったが、御者の連中はしつこく食い下がってきたからなぁ……)

まあ、それも無理のないことであろう。

せっかく王都へ向かうというのに、空荷の馬車が何台も。

もしそこに自分が用意した荷を積ませてもらえれば、大儲けできるのである。

馬車代、馬代、飼い葉代、護衛代が 無料(ただ) であれば、当たり前である。

そして雇い主は、別にそれによって損をするわけではない。

……実際には、荷を積めば速度が落ちるし、馬車の傷みが大きくなるが、それくらいは誤差のうちであろう。

(まあ、それもエディス様達と落ち合って荷を受け取ると、皆、納得してくれたが……。

いくら厳重に梱包されていても、……いや、だからこそ、今回の積荷が普通のものではないと感じられたはずだ。

そして今、この状況を見れば、自分達の浅はかな行為を恥じていることだろう。

いや、皆、別に強欲だというわけではない。

自分の前を歩く者が、道端に金貨が落ちているのに気付いていながら拾わずにそのまま歩き去ったなら、自分が拾うだろう。普通の者ならば。別に、おかしなことではないし、悪いことでもない。

私が儲け口を見逃したと思い、それを自分が代わりに、と考えたにすぎない。人として、当然の判断だろう。

……ただ、私にはそうする理由があった。

馬鹿ではないのだ。

オーリス商会を立ち上げ、ここまできた、商人ダルセンを、甘く見ないでほしいね)

そして、御者と護衛達も、無言で積荷を調べ続ける商会主や番頭達を、黙って見続けていた。