軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

379 商人ダルセンの奮闘 1

「御無沙汰しておりました! オーリス商会のダルセンでございます!」

「おお、もうそんな時期ですか……。

うちは滅多に買い取らないというのに、毎回、よくお顔を出してくださいますよねぇ。

うちの旦那様は、そういう方はお嫌いではないのですよ。

どれ、ではまずは目録を見せていただきましょうかな……」

荷馬車の荷を直接確認する前に、まずは書類選考である。

たいした商品がなかった場合、この時点で今回の売り込みは終了する。

この店は、王都の大店であるにも拘らず、小さな商店や田舎町から荷を運んできた商人達を軽んじることがない。

……しかし、決して弱者に甘いというわけではなく、商品の種類、品質、価格、……そして売り手の誠意の、全てに満足が行く場合にのみ買ってくれるという、何というか、『ほんの少しであっても、ここに買ってもらえたならば、今回の王都行きは満足の行く成果であった』と地方の商人が思える店なのである。

ここが買ってくれたということは、『王都の大店に認めてもらえた』ということであり、勲章を貰えたような気持ちになるのであろう。

この店に買ってもらうには、ただ、安くて良い品だというだけでは駄目なのである。

今、王都で人気のある商品であるか。

他の商人が持ち込む商品を上回る魅力があるか。

……そう、ただ前回買ってもらえたのと同じ商品を、というだけでは、今回も買ってもらえるとは限らないのである。

毎回が、今回限りの一発勝負であり、真剣勝負。

相手をしてくれるのは、数人いる番頭のうちのひとりであり、地方からの飛び込み営業に対しては、いつもこの番頭が担当してくれる。

もう何年も挑戦を続けているダルセンにとっては顔馴染みであり、好敵手であり、そして高き壁である。

何度かは、買ってもらえたこともある。ほんの少量ではあったが……。

その時は、嬉し涙を堪えるのに必死であった。

商人は、取引相手に弱味を見せたりはしないのである。

「ふむふむ、今回は商品の種類が多いようですな。他店への定期納入の分や予約発注の分は納品された後でしょうから、いつもはもっと少なく……、ん?」

番頭が、読んでいた目録に顔を近付けた。

「すごく透明度の高いガラス製のコップと置物? すごく透明度が高い(・・・・・・・・・) 、というのは……」

「すごく透明度が高い、ということでございます。他に、説明のしようがございません」

「……」

「「…………」」

「……見せていただきましょう」

第一関門、書類選考通過である。

* *

商品納入口の近くに駐められた、2台の荷馬車。

王都に来た荷馬車はもっと多いが、他の馬車に積んでいた商品は既に納入済みであり、帰路に積むための荷物待ちで、馬と共に馬車屋に預けてある。

なので、今売ろうとしているのは2台分だけである。

御者と護衛に軽く手を挙げ、番頭を荷台へと案内する、ダルセン。

移動中はみっしりと荷が詰め込んであったが、売り込みで商品を見せる必要があり、今は荷台に入り込めるよう十分な空間が空けられている。

その中へと入り込み、木箱の蓋を開け、詰め物を取り除いて……。

「これが、『 すごく透明度の高い(クリスタル) ガラス製のコップ』です」

「…………」

手渡されたコップを受け取り、しげしげと眺める番頭。

「……荷馬車の外へ持ち出しても?」

「ええ、勿論構いません」

荷馬車の中は暗い。なので、外の明るい場所で確認しようとするのは、当然のことである。

そして……。

「……」

「…………」

「………………他には?」

「はい?」

「『 すごく透明度の高い(クリスタル) ガラス製のコップ』はこれひとつだけですか、と伺っているのです!」

「は、はい!」

大店の番頭であっても、自分達のような中小の商人を馬鹿にすることなく、買い取らない時であっても丁寧な口調で礼儀正しく相手をしてくれる。

その番頭が、少し語気を荒らげたことに驚く、ダルセン。

「形の違うコップ……グラスが数種類と、置物があります。動物を 模(かたど) ったものや、異国の建物を 模(も) したものとか、色々と……」

「…………」

ダルセンの返事に、腕組みをして何やら考え込んでいる番頭。

そして……。

「それらの商品を、荷馬車から降ろして商談室へ運んでいただけますか?」

「は、はいっ!!」

商品を、商談室へ。

ここまで来れば、買ってもらえる確率は7~8割である。

勝算は充分にあった。

……しかし、実際にここまで来ると、少し身体が震えるダルセンであった。

* *

護衛は荷馬車と積荷を護らねばならないため、御者に手伝わせてガラス製品を商談室へと運んだダルセン。

一旦奥へと引っ込んだ番頭が戻るのを待っていると……。

「お待たせしましたかな?」

馴染みの番頭だけでなく、初老の男性がふたり、一緒に現れた。

少し腹の出た、 如何(いか) にも『遣り手商人でござい』と言わんばかりの典型的な商人タイプの男と、温和そうな表情ではあるが、全く笑っていない鋭い眼がそれを台無しにしている男性。

「お、大番頭様!」

以前、店内で偶然出会った時に頭を下げたことがあるだけで、今まで一度も話したことのない大物、この店のナンバーツーの登場に、驚きの声を上げるダルセン。

……しかし、驚くのはまだ早かった。

ダルセンに話し掛けてきたのは、番頭でも腹の出た大番頭でもなく、もうひとりの、ダルセンが知らない目付きの鋭い男であった。

「ようこそお越しくださった。商会主の、エイヴィスです」

「え? え、えええええ〜〜っっ!!」

大番頭の登場で、驚愕のため固まっていた、ダルセン。

そこに、商会主が登場。

オーバーキルにも、程がある。