作品タイトル不明
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「「……」」
部屋に戻って、レイコと恭ちゃんに先程の件を話したところ、静寂が訪れた。
「いや、別にユニコーンやワイバーンを乱獲して素材を、とかいうわけじゃないよ? 問題ないよね?」
「「「「…………」」」」
「あ、あの……」
4人全員からの、呆れたような視線が……。
いや、レイコと恭ちゃんは分からないでもないよ?
……でも、ファルセットとダルセンさん。どうしてあんた達も そっち側(・・・・) なんだよっ!!
「いや、まぁ、私は別に構わないよ。
香がこの人に恩義を感じているのは分かるし、商売で儲けさせてあげたいのも理解できる。
それに、 トレーダー商店(うち) の支店……元本店でも、それに類する商品を売ってるからね。
本店の下位互換の商品を売る店が現れれば、おかしな連中の矛先が分散して、支店の安全度が増すし、私達は 主対象であるお客さん(・・・・・・・・・・) だけに注力し 易(やす) くなるし……」
うんうん、その通り!
恭ちゃん、分かってるじゃん!
……って、今、恭ちゃん私のこと『香』って呼んだ?
いや、今ここでそれを指摘するわけにはいかないけど……。
この中で、私の本当の名前が『エディス』だと思っているのは、ダルセンさんだけだ。
そのダルセンさんは、何も気にした様子がない。
聞き逃した? それとも、仲間内での 愛称(ニックネーム) か何かだとでも思われてる?
今の時代、この大陸では『カオル』とかそれに似た発音の名前はポピュラーだし、 第一シーズン(アイテムボックス前) の 私(カオル) は聖女だとか御使い様だとか言われているから、図太くて目付きと口の悪い巫女の 愛称(ニックネーム) が『カオル』だというのは、あり得る話だ。
いや、今の私は変装しているから、そんなに目付きが悪いってわけじゃないけどね。
とにかく、そういうわけで、別に私の 愛称(ニックネーム) が『カオル』であっても、そう不自然じゃないのだ。
「……但し、この人が危険に 晒(さら) されるよ? 女神の加護も御神器も(・・・・・・・・・・) 、そして 魔法の力も(・・・・・) 持っていない(・・・・・・) 、この人が……。
それに、 護衛の剣士(ファルセット) もいないのよ?」
「あ……」
「当たり前でしょう。
王都には伝手もコネもない地方の商人が、貴族や金持ちに売り込めば確実に売れる商品の仕入れルートを抱えていて、護衛も連れずにうろつき、販売先を探している。
さて、それを知った王都の商人や貴族、犯罪組織の連中は、どうするでしょう?」
恭ちゃんに続き、レイコからも追い討ちが……。
「ううっ……」
イカン、恭ちゃんとレイコが言う通りだ。
支店が比較的安全なのは、店にいるのが、明らかに 何も知らない接客要員(・・・・・・・・・・) と、雇われ支店長だけだからだ。
その全員が孤児院出身であり、販売と商品管理のために雇われているだけだということは町のみんなが知っているし、余所者であっても、それくらいのことは調べればすぐに分かる。
だから、支店の従業員は恭ちゃん経由の商品の仕入れルートは知らないであろうということも、当然分かる。
この程度の文明レベルだと、経営者がただの販売員に仕入れルートを教えるようなことはない。
……それも、仕入れには全く関わっていない者とかには、特に。
まだ、恭ちゃんは売れた商品の統計を取らせたり、提案や要望事項を聞いたりしているだけ、先進的ではあるのだけど、さすがにそんなことまでは教えていない。
というか、 トレーダー商店(うち) の仕入れルートは絶対に教えられないのだけどね。
それに、あの町の商業ギルドは恭ちゃんのお店にかなり好意的らしいから、それも店の安全に大きく寄与しているだろう。
でもそれは、あそこが小さな町で、商業関係者全員が顔見知りであり、アットホームな雰囲気だからだろう。
王都じゃ、そんなのは期待できない。
ダルセンさんも、蒼くなってるよ……。
巻き込まれたら自分の身が危うくなるのだから、当たり前だよね。
商売柄、そういう話は色々と知っているだろうし。
……そうなんだよねぇ。ここにも来たよねぇ、そういうの……。
干物しか作っていなかった時の『リトルシルバー』にすら来たんだよね……。
あ、そういえば、 第一シーズン(アイテムボックス前) の薬屋、『レイエットのアトリエ』の時にも来たじゃん!
……アカン、ヒット率100パーセントやんか!
* *
……いや。
いやいやいやいや!
女神の加護とか、御神器とか、魔法の力とか、……そして『カオル』とか……。
サラエットという名の、この御使い様。隠そうという気が全くなさそうだぞ……。
そして、カオル様……、いやいやエディス様もキャン様も、それを気にされる御様子がない。
これはすなわち、私には隠すことなく本当のことを 示唆(しさ) してくださっているということなのだろうか……。
そして、『カオル』という名は、今では赤子から老婆まで広まっているありふれた名前だが、『 女神側の眷属(ゴッデス・サイダー) 』がその名を名乗るか?
人間にとっては数世代前のことでも、彼女達にとってはごく最近のことに過ぎないはずなのに、わざわざ 前任者と同じ名前を(・・・・・・・・・) 名乗るか(・・・・) ?
ということは、つまり……。
……いや。
いやいやいやいやいやいやいやいやいや!!
ここにおられるのは、『エディス様』だ!
自由巫女であらせられる、ただの、ごく普通の、『神殿勢力には所属しない、篤志家の聖職者様』である! それ以上でも、それ以下でもない!
私にとっては、エディス様は、あくまでもそういう存在である! そうに決まっている!!
……で、それはいいのだが……、いや、あまり良くはないが、御使い様に御奉仕するということは 功徳(くどく) を積むことになるため、ある意味、頼られたり迷惑を掛けられたりすることは大歓迎ではあるのだ。
しかし、エディス様の 目論見(もくろみ) に巻き込まれた場合、権力者や大店から圧力を掛けられるだけであればまだしも、身に危険が及ぶ可能性があるというのは、さすがに、ちょっと……。
いや、我が身だけであれば、まだ良い。
しかしそれが、家族に、そして従業員にも及ぶとなれば……。
むむむ……。
……って、選択の余地なんかあるものかああぁっ!!
『御使い様が、それを望んでおられる』という時点で、他の選択肢を選べるはずがあるものかっ!
ならば、返事はひとつしかない……。
「自由巫女であらせられるエディス様と、その御友人から取引相手として望まれるということは、身に余る光栄! 是非、よろしくお願いいたします!」
あああ、言った!
言ってしまった……。
もう、後には退けない。
しかし、先程見た、店頭に並べられた商品の数々。
あのレベルで、『もっと安くて身近な品々』が大量に仕入れられるとなれば……。
御使い様がどこからか入手される品々。
それを、一手にお任せいただける。
……もしかするとそれは、商人としてとんでもない 機会(チャンス) なのでは。
そう、商人にとって一生に一度訪れるかどうかという、命を張るに値する勝負所なのでは……。