軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

377 次の段階 5

「「えええええ?」」

ありゃ、みんな納得してくれたものだとばかり思っていたけど、その沈黙は『異議なし』って意味じゃなかったのか……。

昔から言うじゃん、『異議なき時は、沈黙をもって答えよ』ってさぁ……。

でも、驚いてるのはダルセンさんと恭ちゃんのふたりだけだな。

レイコはダルセンさんの人となりは知っているから、私がここへ連れてきたという時点で、それくらいのことは察していただろう。

そしてファルセットは、こういう、護衛や戦闘以外のことにはあまり口出ししないし。

……食事に関することを除いて、だけどね。

コイツ、食べ物に関しては、結構うるさいのだ。

そして、他のことでは割と控え目なのに、護衛計画と食べ物に関してはズケズケと物を言い、なかなか 退(ひ) こうとしない。

……いや、護衛については分かるよ? それが自分の任務であり、存在意義だと思っているだろうから……。

でも、どうして食べ物に関してもそこまで強気で主張するんだよ……。

いや、まぁとにかくそういうわけで、『トレーダー商店』には、個人客だけでなく、取引をする他の商店が必要だ。

「……あ、あの、私共と取引していただきますのは構わないのですが、扱います商品とか、数量とか、価格とか、色々と……」

ありゃ。敬虔な信徒であるダルセンさんは、巫女のためであれば、多少の損をしようが、あまり気にしないんじゃあ……。

……あ、 商売は別(・・・・) なのか!

巫女を護るために商機を逃したり大損したりするのは構わない。

でも、正規の商取引において、巫女やその仲間を儲けさせてやるために忖度する、というのは駄目なのか。

これは、ダルセンさんの、商人としての矜持がそれを許さないのかな。

それに、新米商店主である サラエット(恭ちゃん) のためにも、そういうのは良くないと考えたのかも。

いくら相手が巫女とその仲間達であろうと、商売という土俵の上では対等。

いや、先輩商人として、常識を教え、導いてやらねば。

そう考えて、ふたつ返事で引き受けたりはせず、しっかりと条件を確認するのか。

さすが、ベテラン商人! しっかりしてるなぁ……。

「ふぅん……」

あ、レイコも、少し感心しているみたいだぞ。

レイコはあの町で、ダルセンさんが敬虔な信徒であることと、私のために大損することを気にも留めずに色々と便宜を図ってくれたことを知っている。

だから、ダルセンさんが無条件で私からの申し出を引き受けると思っていたのかな。

でも、ダルセンさんは商売のことに関しては、商人としての矜持を守った。

レイコは、そういう姿勢を高く評価するんだよねぇ……。

「ダルセンさんは、王都に来たばかりですか?」

「は、はい、昨日の昼頃に……。納入先が決まっていた荷を届け、その後商業ギルドに顔を出しましたが、最新情報を少し確認した程度でして……。

事前契約のない荷の売り込みや帰路の荷の買い付けは、今日から動く予定です」

「じゃあ、トレーダー商店のことはご存じないと?」

「はい、まだ新しい商店について情報を得るところまでは行っておらず……」

ふむふむ。

ワイバーンの買いたいショー、いやいや、解体ショーのことも、特異な品揃えのことも、全く知らないか……。

さっきも、売り場は素通りでこの部屋まで来たからねぇ。

トレーダー商店(うち) の商品は、ダルセンさんの本拠地である、あの田舎町よりも、 王都(ここ) で売る方がいいものばかりなんだよねぇ。

高額商品は、田舎町より都会の方が購買力がある顧客が多いから……。

なので、ダルセンさんが王都で仕入れてあの町へ持ち帰る商品としては、 トレーダー商店(うち) の商品は不適だ。

そして、ダルセンさんが王都へ運んできた商品を トレーダー商店(うち) が買い取るのも、同じく、不適切だ。

事前予約の分ではなくても、いつも売って廻るお得意先というものがあるだろうから、今回そういうところを廻って顔繋ぎをしなければ、今後のためには良くないだろう。

買ってくれようがくれまいが、いつも売り込みに行っているところには、必ず商品を持って顔を出す。そういうのが、結構大事なんだよねぇ。

それに、 トレーダー商店(うち) は、田舎町産の普通の商品を置くタイプの店じゃないし、安いものをたくさん並べられるだけのスペースもない。

うむむ、どうするか……、って、そんなの私が考える必要ないじゃん!

そういうのは、ダルセンさんが自分で考えて、自分で決めることだよ!

「よし、話の前に、とりあえず トレーダー商店(うち) がどんな商品を扱っているか、見てもらおう。でないと、話のしようがないからね。

じゃ、ダルセンさん、売り場に行きましょう!」

「は、はぁ……」

レイコと恭ちゃんは、ここで待っているつもりらしく、席を立つ様子がない。

そして勿論、ファルセットはついてくる。

いくら味方判定をしたとはいえ、ファルセットが私を身内以外の者とふたりきりにするはずがないんだよねぇ。

ま、護衛としては当然のことだろうけど。

そういうわけで、私、ダルセンさん、ファルセットの3人で売り場へと向かったわけだけど……。

「なっ! ななななな……」

以前、お店で 紅玉(カーバンクル) ダイヤ……レッドダイヤモンド……を見せた時のように驚く、ダルセンさん。

……うん、まあ、高額商品や稀少商品がたくさん並んでるからねぇ……。

私達と合流する前に、恭ちゃんが搭載艇でひとりで世界中を廻っていた時にお店で買ったり採取したりした品々や、3人で小旅行をした時に狩った大物の素材だとか、母艦の艦内工場で作られたものとか……。

安いものは、こういう店にはあって当然、なければおかしい、というような定番商品だけだ。

そして……。

「今、ここに並べてあるのは、安いものだけだよ。高額のは、金庫の中に入れてあるから」

うん、普通なら高額商品なんだけど、この店では、これらは安い部類に入るのだ。

閉店の間も金庫やアイテムボックスに仕舞わず、売り場に並べたままにしている商品なのだから。

「…………」

「ここにある商品や金庫の中のものを卸しても、 トレーダー商店(うち) と同じ商品だと、ダルセンさんの方が不利だよね。

こっちは王都に店を構えているけれど、ダルセンさんは短期滞在で、すぐにいなくなっちゃう。

そして自分の利益分を上乗せしなきゃならないから、売り値が トレーダー商店(うち) より高くなる。

拠点の町へ運んでも、田舎町じゃあ高額商品は買う人が少ない。

そして トレーダー商店(うち) は、ダルセンさんが地元から運んでくるような商品はあまり扱わない。

……それじゃ、 トレーダー商店(うち) と取引する意味がないよね」

「はい……」

うん、ダルセンさんが トレーダー商店(うち) との取引にそんなに乗り気じゃなかったのは、それが分かっていたからだろう。

ダルセンさんは王都では貴族とかに伝手があるわけじゃないし、小売りをするわけでもない。

大店(おおだな) か中規模商家に、ある程度纏まった量のものを納入するだけだ。

……それなら、 トレーダー商店(うち) と同じ商品を扱っても、客は トレーダー商店(うち) から買うよねぇ。

何かあった場合、いつでも怒鳴り込めるし、王都内の店持ちだから信用があるし、急な発注にも対応できるし……。

そもそも、卸元から直接買えるのに、わざわざ他の業者を挟む必要がない。

「だから、ダルセンさんには、 トレーダー商店(うち) が扱っていない 商品(もの) を卸しましょう! 王都で売れるものや、地元に持ち帰っても売れるものを!

……たとえば、 すごく透明度の高い(クリスタル) ガラス製のコップや置物、ちょっとした便利用品やアイディア商品とか……。

ブランド名は、『女神様のアイディア』とか、『御使い様のアイディア』とか……」

「「…………」」

どうして黙り込むのかな、ダルセンさんと、ファルセット……。