作品タイトル不明
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「……どなた?」
「…………」
ダルセンさんのことを知っているレイコ以外のふたり、恭ちゃんはにこやかに迎え、ファルセットは怪訝そうな顔で、そっと右手をお腹の前あたりへと動かした。
……うん、さすがに剣の柄を握るほどの非礼行為は自粛したけれど、少しでも速く剣を抜ける位置へと手を 遣(や) ったわけね。
まあ、いくら私が連れて来たとはいえ、みんなに何の相談もなく、いきなり他人を私達の城、本拠地へと連れて来たわけだ。私の意思ではなく、脅迫されて、とか、色々な可能性があるからね。
いくら確率が低かろうが、最悪の場合に備える。
うん、フランセットの教育……元は、私がフランセットに仕込んだ……が、今もしっかりと末端まで行き届いているな。偉いぞ、フランセット!
「あ〜、大丈夫、心配ないよ。
こちら、ダルセンさん。以前サラエットとファルセットにも話したよね、地方の町でおかしな貴族の手の者に襲われた時に助けてもらった、商隊を率いていた商人さんのこと……。
その時の、赤字になることなんか考えもせずに商隊を引き返させて助けてくれた商人、ダルセンさんだよ」
私がそう言った途端、ファルセットの態度がガラリと変わった。
そして右手を元の位置に戻し、真面目な顔で頭を下げた。
「我が着任する前に、エディス様をお助けいただいた敬虔なるしもべと聞き及んでおります。
その信仰心と御献身、 天晴(あっぱ) れでございます!」
「……は、はぁ……」
どひゃ〜!!
あの誇り高き 女神の守護騎士(エインヘリヤル) の一員であるファルセットが、ただの平民である商人に頭を下げて、感謝と称讃の言葉を口にしたぞ!
これって、かなり凄いことなんだよ。
……騎士爵様が平民に頭を下げたのに等しいんだよ。
普通は、絶対にあり得ない。
でも、そうするくらい、ただの平民の身でありながら 自分達(エインヘリヤル) が到着するまでの間、危機に際して私を護って時間を稼いでくれたということを高く評価しているのだろう。
……自分が絶対の信仰心を捧げる対象である、女神の 私(カオル) の敬虔なるしもべとして、 同志である(・・・・・) と認めたのかな?
でも、ダルセンさんはそんなことは知らないし、ファルセットが 女神の守護騎士(エインヘリヤル) であることも知らない。
……そりゃ、戸惑うわなぁ……。
恭ちゃんも、態度が変わっている。
誰に対しても常にウェルカムである恭ちゃんはファルセットほどあからさまじゃないけれど、私が紹介した後は、明らかに友好度が爆増してる。
……私とレイコくらいにしか分からないけどね。
そして、紹介というものは、片方だけじゃ駄目だ。ちゃんと、双方を互いに紹介しなきゃね。
「……で、こちらは私の昔からの親友、新米商人である、トレーダー商店の経営者サラエットと、駆け出し……、いや、Cランクになったから、もう『駆け出し』じゃないのかな……、とにかく、新人ハンターのキャンです。
私とキャンは、たまに少しだけお店の手伝いもしますけど、普段はそれぞれの本来の仕事をしています。
そして、護衛の剣士、ファルセットです」
「…………」
あれ? ダルセンさんが固まってるぞ?
* *
……何だ、ソレ。
何なんだよ、ソレ……。
その、あまりの常識のなさから、『人間側』ではなく、明らかに『 女神側(ゴッデスサイダー) 』、つまり女神に気に入られた人間という方の御使い様、『愛し子』ではなく、女神の眷属である方の御使い様である、聖女エディス様の 昔からの親友(・・・・・・) ……。
後ろ盾(バック) も何もない新米の小娘なのに、商店主。
駆け出しの新人なのに、Cランクのハンター。
そんなの、 眷属仲間(・・・・) に決まってるだろうがああァ〜〜ッッ!!
……そして、明らかに 人間(こっち) 側である、凄腕らしき少女剣士。
頭に浮かぶのは、昨日、商業ギルドで受付嬢から受けた忠告だ。
『今、王都に若き少女の 女神の守護騎士(エインヘリヤル) が滞在しているという噂があります。
もし万一、それに関係した揉め事があった場合、関わらないか、彼女の味方側に付くことをお勧めします。
……自殺したいのでなければ……』
そんなの、コイツに決まってるだろ!
御使い様がいるってのに、 女神の守護騎士(エインヘリヤル) が他の者を護衛するわけがあるもんか!!
……金貨100枚賭けてもいいね!
逆側に張る奴がいないから、賭けが成立しないだろうけどなっ!!
……まぁ、自分で言うのも何だが、私はかなり敬虔な信者だし、聖人君子というわけではないが、決して悪人ではないと自負している。
それに、 御使い(エディス) 様には御信頼いただけている様子。
慌てる必要はない。
今までと同じように、誠実に対応すれば良いだけのことだ。
それに、御使い様に信頼されお役に立てるということは、望外の幸せだ。
世界に、そのような僥倖が訪れる者が、いったい何人いると?
* *
「あ、そうだ! ダルセンさん、 王都(ここ) の商業界に顔、利きます?」
「い、いえ、それはちょっと……。
確かに地元では大店扱いされておりますが、それはあくまでも地方の田舎町での話ですよ。
王都に店を構えているわけでなし、うちなんか、王都の大店から見れば田舎の中小商店に過ぎませんよ。
そりゃ、王都の大店とも取引はしておりますから、手代や番頭の方達とは商談もしますが、大番頭さんとはたまたま出会えば頭を下げて挨拶する程度ですね。
商会長とは、お会いすることはありませんよ。
そんなの、貴族家の厨房に出入りする野菜の納入業者が御当主様とお会いするようなものですよ。
年に一度くらい、遠目にチラリとお見掛けすることがあるくらいですかねぇ……。
商業ギルドには知っている職員もいますけど、まぁ、向こうにとっては私など、ただの客のひとりに過ぎないでしょうねぇ……」
ううむ、そう強いカードじゃなかったか、ダルセンさん……。
いや、困っている時に助けてもらったし、商業関係に詳しくて信用できる人だという点では、とてもありがたい人材なんだけどね、勿論。
商隊引き返しの件では金銭的に損害を与えただろうから、お礼代わりに少しいい思いをさせてあげたいしなぁ……。
恭ちゃんのお店、トレーダー商店絡みでは、ターヴォラス商会の王都支店は使えない。
あそこと絡めば、その本店があるターヴォラスの町との繋がり、そしてそこにある『リトルシルバー』へと、ずるずると糸を 手繰(たぐ) られる可能性があるからなぁ……。
あの町、そして『リトルシルバー』と、エディス、キャン、サラエットとしての私達とは完全に無関係であり、一切の接点をなくしておかなきゃならない。
次男がうちに喧嘩を売ってくれた、あのレリナス商会とは、もう特にしがらみがあるわけじゃないけれど、別にあそこと縁を繋いだり儲けさせてやったりする気もない。
だから使えるのは、商会主が 綺麗になった(・・・・・・) クルト商会と、対クルト商会戦で協力してくれた、ホークス商会だね。
あのふたつの商会は大店だし、手繰ってもトレーダー商店の支店……元本店……がある町までしか繋がらない。
そこでぷっつりと糸が切れて、それ以上先へは調査の手が進めないから、安心だ。
それに、ダルセンさんと 私(エディス) の関係は、私を捕らえようとした連中がやって来たあの町の領主様から報告が上がっているかもしれない。黒幕の貴族は王宮に報告して処罰する、って言ってたから……。
ただの口先だけだった可能性もあるけれど、真面目そうな領主様だったから、本当に報告されたかもしれない。
まあ、それで本当に貴族が処罰されたかどうかは分からないし、ひとりの自由巫女が貴族に狙われたとか、そんな些細なことの報告が上の方まで上がっているとは思わないけれど、何かの切っ掛けで調べる気になれば、調べられるだろう。
だから、ダルセンさんと懇意にしても、別にバラ撒かれる情報量が今より増えるわけじゃない。
「……よし、ダルセンさんのお店、オーリス商会とも取引しよう!
キャンと私はそれぞれソロのハンターとソロの野良巫女として活動するけれど、サラエットのトレーダー商店には取引相手が必要だからね。
さすがに、どことも取引をしない『ソロの商店』というのは、無理がありそうだからね……」
うむ、私の説明に納得したのか、みんな黙り込んでいるな……。