作品タイトル不明
372 来た来た…… 6
「……で、行くのは暗くなってからですか?」
「え、何が?」
ファルセットがいきなり何か聞いてきたけど、それだけじゃあ、説明不足で何のことか分からないよ……。
「勿論、あの商人を始末しに行く件です」
「お、おぅ……」
私が少し引いていると、横から恭ちゃんが答えてくれた。
「……いや、あれくらいのことで始末するとか、そんな必要はないよね?
あの人は、ただ店先でちょっと偉そうな喋り方をしただけだよね?
私の襟首に掴み掛かろうとしたのは、雇い主を馬鹿にされたと思った護衛の人が勝手にやったことであって、あの商人さんが命令したわけじゃないし……」
いや、確かにそう言えなくはないけど、あれは明らかに雇い主の意を汲んだというか、事前の打ち合わせ通りの行動じゃん……。
自分が実際に見たとおりに受け取り、善意で解釈する。
……恭ちゃん、恐ろしい子……。
まぁ、あの商人も、そんなに深く考えての行動ではなかったとは思うよ?
阿漕(アコギ) な遣り手商人とはいっても、それはあくまでも商売的なことに関してのことだ。
自分の身に迫った暴力や死の恐怖に関しては、そんなに耐性があるわけじゃないだろう。
……というか、失いたくないものが多かったり、肉体的な痛みとか恐怖とかを味わったことがなかったりして、兵士やハンターどころか、一般民よりもそういったことに対する耐性が低かったりするんじゃあ……。
だから、ああいった商人は、自分自身が危険なところへ赴いたりはしないよね、普通。
そういったところへは、部下を派遣するか、十分な人数の護衛を連れて行くものだよね。
なのにあの程度の人数の、それもレベルの低いチンピラクラスしか連れずに来たというのは、うちが若い女性しかいない店であり、護衛も、ゴネる客に対処するための女性ハンターひとりだけであると事前に確認していたからなのだろう。
……ま、それが、選りに選って 狂犬(エインヘリヤル) だとは思わないよね〜!
なので、自分が得意な口頭でのやり取り、つまり脅しや威圧、交渉等が全く通用せず、ちょっと実力行使に出ようとしただけで問答無用で斬り掛かってくる相手になんか、二度と近付きたくはないだろう。
今度いきなり斬り掛かられるのは、護衛の者ではなく、自分かもしれないのだから。
……うん、もう二度と来ないよね、多分!
手下も派遣しないんじゃないかな。
もし手下が捕らえられて雇い主の名を吐いたら、あの女護衛が 深夜に訪ねて来るかも(・・・・・・・・・・) しれないから(・・・・・・) ……。
いや、一瞬の 躊躇(ちゅうちょ) もなく手首を斬り落とすんだ。拷問を 躊躇(ためら) うはずがないと思うよねぇ……。
そして自分の手下は間諜としての訓練を受けているわけじゃない。拷問になんか耐えられるはずがないと思うよね。
……というわけで、あの商人が再挑戦してくる確率は、非常に低いと判断していいだろう。
「アレは、放置でいこう。床掃除以外の迷惑は受けていないし、多分もう二度と来ないだろうからね。もしまた来たら、その時に対処しよう」
「え……」
ファルセットは不満そうだけど、レイコと恭ちゃんはこくりと頷いている。
「よし、決定!」
ふふふ、命拾いしたな、商人よ。
私を、命の恩人として崇めるが良い……。
まぁ、私のおかげで助かったなんて事実を知ることはないだろうけどね。
* *
その道(・・・) の者達の間で情報共有でもなされたのか、あの後、ああいうタイプの変なのは来ていない。
……別のタイプのは来るけどね。
もっと安くしろとか、古竜の肝を入手してくれとかいう連中だ。
まぁ、多少ゴネられても、それは商売上の駆け引きなので、通常業務の範疇だ。ファルセットの出番じゃない。
わくわくした目で、剣の柄を握って私やレイコ、恭ちゃんの方を見てくるけど……、あの程度で剣を抜いたら、悪党はこっちの方になるぞ。
……まぁ、そういうわけで、王都における地歩固めのうち、第一段階は完了した。
なので、第二段階……、お店の地下の掘削・秘密基地化の時間だ。
いや、ロマンだよね、秘密基地を造るのって!
お店の地下深くをくり抜いて、広い空間を確保。
勿論、土や岩をそっくりアイテムボックスに収納するという、超簡単、かつ騒音や振動が発生しない、環境に優しい方法で……。
その後、恭ちゃんの母艦の技術で崩落防止のための補強措置を行い、壁面を樹脂コーティングして防湿や断熱処置。
空気は、普段は外気を取り入れて、異常を検知したら内気循環に切り替わり、二酸化炭素の除去や酸素の添加を行う。
生体情報を登録した者以外が侵入しようとした場合、その時の設定によって、自動的に捕獲、殲滅等が行われる。
最悪の場合には、自動的に通路が破壊され、埋没する。
だから、もし秘密基地への入り口が見つかっても、安心だ。
また、恭ちゃんのところの自律型作業機械が、海に向かって地下を掘り進んでいる。
……うん、勿論、『リトルシルバー』がある港町に向かってね。
地下道があれば、人目を気にせずいつでも高速移動できるし、新鮮な海産物の補充が楽になる。
緊急脱出路としても使えて、とても便利だしね。
別方向へも掘り進んでいるから、行動の自由が大幅に改善される。
通路はツルツルで、摩擦係数がとても小さく作られており、目的地に向かって僅かに下方に角度が付けてある。
……つまり、乗り物がなくても滑り台のように一直線、ってわけだ。
そして目的地寸前で角度が上方に変わり、自動的に停止する。
そのため、往路用と復路用の2本のトンネルが必要になるけれど、疲れを知らない工作ロボット君が頑張ってくれるので、問題ない。
到着地では、たまたま地形的に低地になっていない限り地下深くに到着するので、階段を使って地上へと上る必要がある。
また、途中で何カ所かに分岐点を作り、上向きにして停止する『途中下車駅』も作る予定だ。
あ、勿論、 王都(ここ) の町外れに借りている住居の地下にも繋いであり、そことお店との地下通路は既に開通している。……至近距離だからね。
『リトルシルバー』や他の方面への地下通路の完成は、まだまだ当分先。
いくら疲れ知らずの作業機械でも、そんなに早くは掘れないよ。掘った土や岩の搬出や処理もしなきゃならないし……。
さすがに、ビーム兵器で一発貫通、なんて無茶はできないよ。
そんなことをすると、熱やら何やらで、地上にも影響が出そうだし。
地下通路は、摩擦係数が小さいから普段着のまま滑っても大丈夫だけど、一応、ボブスレーのような無動力の乗り物と、動力付きの乗り物も用意してある。一人乗りの小型のものから、ふたり乗り、4人乗り、その他諸々……。
動力付きのものは、到着地で地上までの垂直上昇もできるようになっている。
……まあ、そういうわけで、お店の地下にもできたわけだ。
文明の利器を使えて、日本の飲食物を堪能できる隠れ家が……。
勿論、お酒もある。
私達は、全員が成人なので、問題ない。
身体の見た目は子供だけど、ここじゃ15歳以上は成人だし、飲酒年齢の制限なんかない。
そもそも3人共、日本じゃ成人で飲酒もできる年齢だったから、精神年齢的にも問題ないし、神様製のこの身体だと、成長期の身体に悪影響が、とかいう心配もない。
うむ、何でも食べ放題で、飲み放題だ。
フグの肝とかも、行っちゃえるかもしれない。
ピリリと痺れるスリルが、何とも……。
「「やめなさい!!」」
レイコと恭ちゃんに、止められた。
とにかく、広めに作っている地下通路が完成したら、移動が便利になる。
そうすれば、次のステージ、第三段階に進める。
……また一歩、野望に近付くのだ……。
「ハングとバッドも使ってあげなさい!」
「そうそう!」
……そして、またレイコと恭ちゃんに怒られた……。