作品タイトル不明
358 噂
ヴォーレル伯爵家絡みの話は、 瞬(またた) く間に広まった。
当たり前である。
御使い様を 謀(たばか) ろうとした神敵の出現と、それを見破り神罰をお与えになった御使い様。
そしてそれに巻き込まれた伯爵家の幼き少女を救い、悪党にさえ慈悲の心をお示しになられた、慈愛の大聖女、御使い様……。
娯楽に飢え、そして信心深い者が多いこの世界で、そんな話が広まらないはずがなかった。
* *
「「「……」」」
「「「…………」」」
「「「………………」」」
「今回の、計画外の事態について、何か申し開きはあるかな?」
「「ございません……」」
恭ちゃんの前で 項垂(うなだ) れる、私とレイコ。
いや、恭ちゃんが私とレイコを責める図というのは珍しいよ? かなりのレア物だよ?
大抵は、責め役はレイコで、私と恭ちゃんが受け……、いやいや、怒られる側だ。
まあ、今回は私とレイコ、ふたり揃ってやらかしちゃったし、恭ちゃんは 蚊帳(かや) の外だったからなぁ。
自分が状況を把握する前に留守番役にされて仲間外れになったというのが、一番ムカついたんだろうなぁ、恭ちゃん……。
でも、あの時は仕方なかったんだ。
恭ちゃんに説明する数十秒のせいで間に合わず、女の子を死なせてしまう可能性もあったんだ。
たとえその確率が1パーセント以下であろうと、ゼロでない限りは決して冒してはならない危険だったんだよ。
だから、その判断に後悔はないし、自分に恥じることは何ひとつない。
もしまた同じようなシチュエーションになったとしたら、私はまた同じ選択肢を選ぶ。
……でも、それと恭ちゃんへの謝罪は別問題だ。
恭ちゃんには、悪いことをした。
だから、謝る。
当たり前のことだ。
そして変装忘れは、致命的とまでは言わないけれど、かなり大きなミス、それも完全に油断してのポカミスだ。そりゃ、さすがに恭ちゃんも怒るよねぇ……。
しかし、それもそろそろ終わる頃だ。
恭ちゃんは普段、こういう怒り方には慣れていないから、そろそろエネルギー切れで落ち着くはずだ。
いつもの恭ちゃんの怒り方は、何というか、こう、にっこりと微笑んで……。
「……まぁ、時間がなかったのは理解してるよ。だから、説明なく置いていかれたことは、そんなに怒ってない」
……嘘だ!
いや、理解しているというのは、本当だろう。
でも、『理解しているかどうか』と、『そのことに対して、ムカつくかどうか』は、別問題だ。
しかし、今、恭ちゃんは『怒っていないというコト』にしてくれているのだから、私もレイコも、『そういうコト』にさせてもらう。
うん、ふたりとも、馬鹿じゃないんだから。
「でも最近、私が仲間外れ、ってことが多くないかな?」
「「……」」
「いや、 トレーダー商店(おみせ) のことは仕方ないと思うよ? 単独行動である ハンター(キャン) や 野良巫女(エディス) と違って、従業員やら取引相手、仕入れやら色々とあるから、どうしてもそっちに時間を取られてみんなと一緒にいる時間が少なくなる、っていうのは……。
でも、それ以外に、私に対する隠し事が多い!
こういうの、前世でもあったよね、確か……」
「「申し訳ございませんでしたあぁ〜〜!!」」
うん、私とレイコも、それは自覚していた。
でも、別に悪気はなかったんだ。
……ただ、多くの人……私とレイコを含む……が被害を受けるのを防ぎたかっただけなんだよ。
本当だよ!
* *
誠心誠意謝って、何とか恭ちゃんに納得してもらった。
恭ちゃんも、少しは自覚があったらしく、私とレイコの配慮を少し不満には思っている様子だったけれど、まぁ、矛を収めてくれたわけだ。
……その代わり、以後は隠し事、意図的な情報の遅延はなし、と 言質(げんち) を取られた。
仕方ない。
これから恭ちゃんと出会うであろう、この世界の多くの人達のために、祈っておこう……。
「もうここまで事態が推移しちゃったら、計画を大幅に前倒しするしかないよね。おかしな連中から身を護るために……。
あの町の私のお店、トレーダー商店は本店から支店に格下げ。雇われ店長を支店長にして、店のことは殆ど任せる。
あと、孤児院と相互協力の協定を結んで、お金と労働力を融通し合う。
そしてそれぞれに敵対者が現れた時には、協力して敵を潰す、ってことにするよ。
王都(ここ) には、可及的 速(すみ) やかに本店を開く。貴族や王族達が重宝し、味方に付いてくれる店を、ね。
そしてここは隠れ家的な使い方をして、拠点、普段の居住場所としては、本店の居住区画を使う。
……何か反対意見はある?」
「「ございません……」」
恭ちゃんは、あまりこういうことでグイグイ来るタイプじゃない。なのにこんなに押してくるってことは、やっぱり、先程の件を相当引きずっているな……。
あの町の、元本店、現支店については、まあ、そうなるだろうとは思っていた。
本当は、あの店は『役割を終えた』として撤収してもいいはずなんだ。このまま続けても、商品の補充やら何やらで、恭ちゃんにとっては面倒で負担になるだけだから。
……でも、まぁ、恭ちゃんだからなぁ……。
窮鳥懐に入れば猟師も殺さず。
恭ちゃんは、一度自分の懐に入った困窮者を見捨てられるような子じゃない。
まあ、私達にはお金も時間もあるんだ、面倒事や不効率なことも、楽しもう。
人間、効率だけを考えて生きていたんじゃ、楽しくないからね。
それに、そういうことに関しては、私にも前科がある。
昔の、『女神の眼』の子供達。
今の、『リトル・シルバー』の子供達。
……似た者同士。
見た目も性格も違うけれど、私達3人は、出会うべくして出会ったのだろう……。
* *
「本店の候補物件を仮押さえしてきた」
「「早っ!」」
うん、恭ちゃんは、こうと決めた時は、行動が早いんだ。
「あと、じわじわと評判を広めるのは時間が掛かるから、ここは時短で、最初から飛ばすよ。
そのために、開店イベントをやる」
あ〜、恭ちゃんが『疾走モード』に入ってるよ……。
細かいことは考えず、とりあえず目的のために全力で突っ走る、ってやつだ。
……そして、周囲の者が被害と迷惑を受ける。
主に、私とレイコが。
「イベントって、何やるの?」
レイコが、そう尋ねた。
うん、勿論私も、それが一番気になるよ。
「集客力があって、話題性があって、大した準備は必要なくて、そこそこ利益も出るやつ。
そう、『 飛竜(ワイバーン) の解体ショー』だよ!」
「「えええええええっ!!」」