作品タイトル不明
359 王都本店 1
「 飛竜(ワイバーン) の解体ショー、って……。
いや、マグロの解体ショーじゃないんだから……、って、そうか!
日本でマグロの解体ショーが各地で行われていたってことは、あれが商売として有効だってことか……」
「そうそう! あれは、客のわくわく感、非日常感を刺激して財布の紐を緩ませるという、パフォーマンス性、娯楽性、商売性の全てを兼ね備えた上、皆に満足感を与えるという、考え抜かれたイベントなんだよ。そして、お店の宣伝効果抜群!
だから、あれだけ日本各地で催されていたんだ。
なので、その 戦闘証明(コンバット・プルーフ) 済みの方法をパクるわけよ」
「なる程……」
飛竜(ワイバーン) は、改めて狩りに行く必要はない。
以前、恭ちゃんの小型搭載艇……直径数十メートルのデカいやつじゃない、もっと小さな、連絡艇みたいなやつ……に乗って移動している時に向かってきたのを何頭か始末して、アイテムボックスに入れてある。
…… 飛竜(ワイバーン) を数える単位、『頭』でいいのか?
鳥じゃないから『羽』は違うと思うし、人間より大きいから、『頭』でいいか。
とにかく、その在庫を使って解体ショーをやって、その場で売り捌く。
いや、 飛竜(ワイバーン) って、稀少価値が高いんだよね。
このあたりじゃ滅多に見ないらしいし、そもそも、強くて凶暴で空を飛ぶというあんなモノが、そうそう狩られるわけがない。
他のバケモノじみたヤツに殺されたり、自然死したりしても、死体は食い散らされるし、食べ残しも小動物や鳥、虫達の餌になり、残りは腐り、細菌類によって分解される。
それに、そもそもそういうのは人里離れた秘境か魔境じみたところで起こることなので、素材が人間の手に渡るようなことはない。
その、 飛竜(ワイバーン) の新鮮な素材が丸ごと解体されて、即売される。
そりゃ、来るわ……。
肉屋が、料理人が、武具職人が、……そして貴族の遣いとかが。
うん、一発で、王都中に店の名が広まるよねぇ……。
さすが、恭ちゃん。
発想が、ブッ飛んでる。
* *
「……指名依頼ですか? 指名ハンターの名は、……えええ、モスさん?
モスさんはハンターじゃないですよ、 ギルド(うち) の解体場の職員ですよっ!」
今日は、レイコがお留守番。
私、恭ちゃん、そして護衛役のファルセットの3人でやって来た、ハンターギルドだ。
いや、全員で来ても問題ないのだけど、あまり大勢でやって来ても、話が進みづらいだけだと思ったからね。
それに、家を空けると泥棒が入るかもしれないし。
もう、 エディス(わたし) や、 一角獣(ユニコーン) の角でガッツリ稼いだ キャン(レイコ) があそこに住んでいるということは、 その道の人達(・・・・・・) には知られちゃってるだろうからね。
いや、金目の物や普段使わない物、下着とかは全部アイテムボックスに入れてあるから、泥棒が入っても大きな被害はないのだけれど、やっぱり、他人に家の中を掻き回されるというのは嫌だし、不潔な手であちこち触られるというのも気持ち悪いから……。
防犯設備で侵入者はすぐに分かるから、誰かひとり残っていれば、安心だ。
私達が一番怖いのは、奇襲による即死攻撃だ。
弓矢によるヘッドショットとか、すれ違いざまに心臓をひと突き、とか……。
だから、防犯装置を張り巡らせた本拠地での防衛戦は、そう心配はないんだよねぇ……、って、イカンイカン、今は受付嬢に説明せねば!
「あ、ハイ、そうなんですけど、モスさんは以前Bランクのハンターで、引退後にギルドにお勤めになったと……。
そして、Bランクハンターとしての肩書きに未練がおありで、数カ月に一度の最低限の依頼を受けて、ギリギリ資格を維持されているとか……」
「あ……、た、確かに、そう言われているのを聞いた覚えが……。
し、しかし……」
ガツガツッ
「ぎゃあ! ……しっ、失礼いたしました! すぐに確認いたします!」
どうやら、隣の窓口の先輩から、 教育的指導(脛蹴り) があったらしい。
いずこも、後輩指導は厳しいねぇ……。
受付嬢は、窓口を他の者に替わってもらい、私達を個室ブースへと案内した後、解体場へと走り去った。
* *
しばらくして、ひとりの年配の男性を連れてブースへと戻ってきた、受付嬢。
「俺に指名依頼たぁ、酔狂な依頼人だな。
ハンター資格を維持しているとはいえ、何年も前から引退同然の俺に、いったい何をさせようって魂胆だ?」
何だか、疑ってるような顔だな。
まぁ、不思議に思うよねぇ……。
「Bランクハンターの剣士としてのあなたの能力、そして解体場で身に付けた知識と技術。
モスさん、あなたにしかできない仕事を依頼したいのです。
依頼内容は、…… 飛竜(ワイバーン) の公開解体作業です!」
「「えええええええ〜〜っっ!!」」
うん、まぁ、驚くよねぇ……。
そして、さっきから頷くだけで、全部私に任せっきりかい、恭ちゃん……。
ファルセットが何も喋らないのは、当たり前だけどね。
雇い主の商談に、横から勝手に口を挟む護衛なんか、いるわけがない。
そして、依頼を受けてもらえるかどうかなんだけど……。
受付嬢は驚愕の表情のままだけど、モスさんの顔は、驚愕から徐々に変化して、わくわくキラキラ、って表情に変わっていった。
「受けた! この依頼、俺が受けた! 他の誰にも譲らねぇ!!」
まあ、そうだよねぇ……。
* *
あれから10日。
恭ちゃんは本店にする物件を買い取り、アイテムボックスと母艦の工作室をフル活用して、あっという間に内装を整えた。
居住区画には母艦からトイレや浴室ユニット、冷凍・冷蔵設備とかを移設している。
娯楽用の映像機器とかゲームとかも。
そして勿論、防犯設備も、バッチリ!
既に 飛竜(ワイバーン) の解体ショーの告知も終わっている。
解体した素材は、その場でオークション形式で販売する、という説明と共に……。
そしてハンターギルドと商業ギルドから、猛攻を受けた。
いや、別におかしな真似をされたわけじゃない。
そんな馬鹿な真似はやめろ、頼むからギルドに納入してくれ、という陳情や泣き落としだ。
大店からの使いも、大勢来た。あと、貴族の使いとかも。
皆、あまり信じてはいないみたいだったけどね。『現物を確認させろ』とか言ってたから。
だから、そういうのには『当商店の説明、そして商品を疑うような方達には、信じていただかなくて結構です。雇い主の方には、自分が相手の商品を疑うようなことを言って怒らせたために追い返されたと、正直にお伝えくださいね』と言って、追い払った。
売り手市場なんだ、こっちを信用しないような連中の相手をする必要はないし、そんな時間もないよ。
あ、『もし本当に 飛竜(ワイバーン) の素材があるなら、それは国王陛下に献上すべきである!
儂が仲介し、全てを取り計らってやろう』とかいう変なのが来たけど、そんなことをすると大損して開店前から店が潰れちゃうよ、とか、私が献上したいと思ったなら自分でやるので無関係の人に口出ししていただく必要はありません、とか、そんなに献上したいならどうぞ御自分で 飛竜(ワイバーン) を狩ってきて御献上ください、とか言って追い払った。
いや、いくらこっちが小娘だと思っても、 飛竜(ワイバーン) を入手できる 伝手(つて) があるんだ、バックに大きな力が付いているとか考えないのかなぁ。
まぁ、そんなのはないのだけどね……。
そして、それらの相手は、全部私がやった。
恭ちゃんはそういうのは苦手だし、 悲しいこと(・・・・・) が起こるといけないから……。
レイコは、いつも沈着冷静だから、相手に冷たい印象を与えるんだよねぇ。
……そして、毒舌家だ。
なので、やっぱりこういうのには向いていない。
いや、冷たく拒絶、という点では適材のように思えるけれど、『自分の方が偉い』と思っている者を相手にした場合、怒らせちゃうからねぇ。
開店前の商店が、あまりたくさんの敵を作るべきじゃない。
その点、私なら温厚に説明して、お帰りいただける。
……殺意を込めて睨み付ければ、一発だ。