軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

352 伯爵家 1

「……よし、依頼を出した貴族の調査と、偽病人のガセネタをバラ撒いた連中の内で特に悪質そうなのを2〜3、見繕って。

行(ゆ) け、『女神の眼』よ!」

「「「ははぁ〜っ!!」」」

顔に喜色を浮かべて、飛んでいった。

エミール達、初代『女神の眼』の連中も、私がこういった感じで大仰に命令すると、すごく嬉しそうだったんだよねぇ。

やっぱり、あの連中も喜んだか……。

「香ちゃん、処す? 処す?」

「恭ちゃん、何でそんなに生き生きとして嬉しそうなんだよ!」

ホントにもう、コイツは……。

* *

「……では、この薬を飲ませなさい」

「「ははぁ〜〜っ!!」」

「……」

「…………」

「………………どうして飲ませないのですか?」

うん、今は『御使い様劇場』の、公演中だ。

……つまり、『女神の眼』の出張所によって調べられた救済対象の家を訪れて、『女神の涙』を渡したところ。

但し、本当に救済に値する家ではなく、 ガセ(・・) の方ね。

「早く飲ませなさい!」

そう言って、私が更に催促すると……。

「い、いえ、息子はようやく寝付いた様子。今まで熱にうなされて眠れておりませんでしたので、せっかく寝付いたばかりなのに起こすのは可哀想で……。

目覚めましたら、すぐに飲ませます、ハイ……」

子供の様子を見ると、あからさまな狸寝入りをしている。

「…………では、子供が目覚めたら、すぐに飲ませるように。

いいですか? 分かりましたか? 決して約束を破ってはいけませんよ?」

「は、はい!」

よし、 忠告はした(・・・・・) 。

そのポーション、『女神の涙 効果限定版』は、大した効果はない上、今から12時間以内に使わないと、治癒効果が完全になくなる。

そして、すごくマズくなって、オマケに、飲むと数日間下痢が止まらなくなるのだ。

そんなものを偉い人に売りつければ、どうなるか……。

なむなむ……。

よし、離脱!!

* *

『ついてきています。3人……』

私の護衛についている、カッコよくてダンディな、 緒形拳(おがたけん) ……、いやいや、4頭の大型犬のうちの一頭が近付いてきて、そう報告してきた。

『あ、やっぱり……』

当然、それは予想していた。……想定の範囲内だ、というやつだ。

なので勿論、ファルセットとレイコが隠れて護衛についている。

レイコはともかく、ファルセットが、せっかくの護衛としての出番に家で留守番なんかしているわけがない。

そして、私の安全のために『何も起こりませんように』と祈るのではなく、自分の出番があることを渇望し、『何か起こってくれますように!』と願っているに違いない。

雇い主、かつ信仰の対象である女神様が襲われるのを望む信徒。

……不敬だよね、それって……。

逮捕しちゃうぞ!

それは『婦警』、……って、うるさいわっ!

連中、さすがにセレスの御寵愛を受けている少女を捕らえるだけの勇気はなかったみたいだけど、今後の金儲けのために、そりゃ正体と住んでいるところは把握しておきたいよねぇ。

今の私は、髪と眼と肌の色を変えていて、オマケに仮面を着けている。

元の姿に戻すのは尾行を振り切ったあとになる。

この状態で、家の近くには行けない。

尾行してくる連中のこともあるけれど、さすがに、ご近所さんにこの姿を見せるわけにはいかないからねぇ……。

なので、さっさと何とかしないとなぁ。

* *

そういうわけで、あからさまに 人気(ひとけ) のないところへ誘導した。

これが、尾行しているのが普通のチンピラとかであればここで襲ってくるだろうけど、おそらく尾行しているのは御使い様の正体と住居を確認するようにと命令されている連中だろうから、向こうから襲ってくることはないだろう。

……襲うのは、 こっち側(・・・・) だ。

王都の中心部から外れ、人家がまばらとなり、木々で月明かりも遮られた場所。

元々、『御使い様劇場』は夜遅く、人々が寝静まる頃に開演されるので、街外れの小道を歩く者どころか、灯りをともした民家もない。

油もロウソクも 無料(ただ) ではない。街の中心部であればともかく、この辺りに住む者達にとっては当たり前である。

そして……。

バウバウバウッ!

「「「うわわわわっ!!」」」

2頭の大型犬に追い立てられて、3人の男達が小道を走って近付いてきた。

おそらく、充分な距離を取って尾行していたところを後方に回り込んだ2頭の犬に追われて、あわてて逃げてきたのであろう。

残りの2頭は、護衛のために私の近くで待機している。

暗闇の中で草陰に潜んだ犬なんか、慌てている連中に見つかるわけがない。

必死で走り寄ってくる男達が近付いてきたタイミングを見計らって……。

「ああっ! 夜道を歩いていたら、怪しい3人連れの男達に跡を付けられていました!

そして今、襲い掛かられています! どうしよう……」

超棒読みで、説明台詞を吐く。

そして……。

「おお、これはしたり! 少女が暴漢に襲われているところに出くわしてしまったぞ。

これは、何としても助けねば!」

前方から、同じく超棒読みでそう言いながら駆け寄る、レイコ。

「え……」

そして、尾行相手の私に姿を晒した上に、大きな誤解をされているらしいと気付き、焦る3人。

……いや、『尾行』という部分は誤解じゃないけどね!

オマケに、通りがかりの少女に誤解込みでの目撃者、証人になられてしまった。

男達が後ろを振り返ると、なぜか先程まで自分達を追いかけていた大型犬の姿がない。

なので、安心して足を止めた3人は、どうする、というように互いに顔を見合わせている。

そこに、更に……。

「夜道で婦女子を襲うとは、言語道断! 成敗してくれる!!」

ファルセットは、こういう時のために何度も練習していたのか、やけにスムーズに台詞を言った。

まぁ、作家を志願している者は、小説を書くより先にサインの練習をしたりするらしいからなぁ。

ファルセットも、修業時代から、色々な名乗りシーンの練習をしていたとしても、おかしくはない。

「「「…………」」」

うむうむ、困ってる困ってる。

3人の男達は、今ここで私を見失えば二度と正体や 住処(すみか) を突き止める 機会(チャンス) が訪れることはないと思っているだろうから、逃げることはできない。

かといって、尾行がバレた上、手出しは禁じられており、無関係の目撃者がふたりも……。

そりゃ、困るだろうねぇ。

私としては、別にコイツらを捕らえてどうこう、というつもりはない。

何せ、依頼主が誰かということは分かっているし、相手の名前どころか、住所も知っている。

……ついさっきまで、そこにいたのだから……。

そう。尋問の必要はない、ってことだ。

そして、夜道で少女を尾行し、襲おうとした者達が、たまたま通り掛かった者達によって成敗される。

……うん、何のおかしなこともない、ごく普通のことだ。