作品タイトル不明
351 活動開始 7
「お待たせいたしました。 以前の納品物(・・・・・・) の残金です」
今更ではあるが、 一角獣の角(問題のある品物) の名を出さないようにして、依頼主から支払われた成功報酬を キャン(レイコ) に渡してくれた、ハンターギルドの受付嬢。
尤も、個室であるので他者に聞かれる心配はないのであるが……。
金貨が入れられている複数の革袋は、サービスでそのまま貰えるらしかった。革袋が好きなカオルが喜びそうである。
そして今回はちゃんと大きな肩掛けバッグを持ってきているので、かなり重くても安心であった。
……バッグの底が抜けたり、肩紐が切れたりせず、そして キャン(レイコ) がバッグを持ち上げられるのであれば……。
金貨1枚が、約4分の1オンス。500円硬貨とほぼ同じ重さである。
……材質の比重が倍以上違うため、体積は半分以下であるが……。
「……あの、本当に全額お持ちになられるのですか? 当ギルドでお預かりすることも、商業ギルドにお振り込みすることもできますが……」
受付嬢がそう念押しするのは、別にギルドに預けてもらいたいからではなく、 キャン(レイコ) を心配してのことであろう。
何しろ、金額が大きすぎる。
年若い少女が護衛も付けずにひとりで持ち帰るには危険すぎるし、持ち帰ったところで、安全に保管できるとは思えない。
もし無事に宿まで帰り着けたとしても、今夜のうちにも賊の5~6組くらいが押し寄せても何の不思議もない。
その点、ハンターギルドか商業ギルドに預けておけば、盗まれたり奪われたりする危険は回避できる。
……本人が誘拐されたり、家族を人質に取られて、とかいうのは防げないが、それでも、『その場に金貨の現物がある』というのに較べれば、押し入ろうとする者が少しは減るであろうし、その場ですぐに殺されるという事態を少しは先送りできるかもしれないのである。
うまくすれば、賊が仕立てた偽者が金貨を引き出そうとしたところを取り押さえたり、本人を脅して引き出させようとした時に気付いて助けたりできるかもしれない。
また、これだけの量であれば、重さ的に、小柄な少女がひとりで持ち帰るのは困難ではないかと思われた。
……実際には、バッグに入れた順にアイテムボックスに入れているため、重さについては問題ないのであるが……。
もしバッグを持ち上げられなければ、この少女も考えを改めるであろう。
そう考え、受付嬢は首を横に振る少女の説得を諦めた。
そしてその直後、殆ど重さを感じさせないようにヒョイとバッグを持ち上げて肩に掛けた キャン(レイコ) に、驚愕に眼を見開いて口をパッカリと開け、受付嬢としてあるまじき醜態を晒してしまったのであった。
そして、ギルドを後にする キャン(レイコ) に続いて建物から出るパーティはひとつもなかった。
勿論、先日のCランクパーティの末路は皆が知っているし、そんなに都合良く警備兵が現れるなどとは誰も思ってはいなかった。
…… 触るな危険(アンタッチャブル) 。
そういう案件を見分ける能力がないハンターは、長生きできない。
ハンターの間での、常識であった。
* *
「よし、大金を手に入れた! これで、昔の金貨ではなく、今のこの国で流通しているやつを充分確保できたぞ!
レイコの名前も売れたし、恭ちゃんの王都本店の購入資金もバッチリだ!」
大量の金貨を4つに分け、小さめの袋を3人それぞれがひとつずつ、そして大きめの袋はカオルが自分のアイテムボックスに入れた。
小さいのは、各自が自由に使う分。そして大きいのは、みんなの共用資産である。
そこからは、恭子の王都本店の買い取りとかの、3人共通の目的のための大金を使う時に支出する。
分けた分も、別にそう厳密なものではなく、いちいち共用の巾着袋から出すのが面倒だからそれぞれが持っているだけであり、共通の目的のためにも使うし、誰かの手持ちが減れば、他のふたりの手持ち分を再配分する。
基本的に、3人の財布はひとつなのである。
それに、そもそもこの3人は、その気になれば大金を稼ぐことなど簡単であるため、お金のことはあまり気にしていなかった。
* *
「……カオル様、実は、少々困ったことに……」
ある日、この街に前進拠点を作った『女神の眼』の今の世代の連中がやって来て、そんなことを言ってきた。
リーダー役は毎回来るけれど、他のメンバーはその都度替わる。
まぁ、みんな女神様に会いたいと思うだろうから、ここに来るメンバーが固定されたら内乱が起きるよねぇ、そりゃ……。
「え? 何があったの?」
そして、私がそう尋ねると……。
「女神様の祝福を授かる資格のある『心正しき者達』の内の怪我人や病人の情報を集め、精査しておりましたところ……」
「うんうん」
「……その中に、偽者がかなり交じっているということが判明いたしました」
「うんうん、偽者が……、って、えええええ〜〜っっ!!」
何じゃ、そりゃあああああ〜〜っ!
「……詳しく!」
* *
連中に話を聞いたところ、街の噂話とかを集めて分析、女神の御慈悲を賜るにふさわしい者を抽出して、その裏取りを行ったところ、……その中に、かなりの割合でガセ、偽情報が含まれていたと言うのだ。
「そりゃ、噂話を元に情報収集を行いますから、誤報や誇張があるのは当然です。以前から、そういうのは一定数交じっていました。しかし、今出回っているのは……」
「明らかに、故意にバラ撒かれた偽情報、ってわけね?」
こくりと頷く、『女神の眼』のメンバー。
「その理由に、心当たりはある?」
答えを期待していたわけじゃないけれど、一応そう聞いてみたところ……。
「はい」
「あるんか〜〜いっ!」
「ハンターギルドの依頼ボードに、こういう依頼が出ておりました。『求む、「女神の涙」。高額買い取り。納品者は、希望するならば当家にて雇用可』。とある伯爵家からの依頼です」
「何じゃ、そりゃあああああ〜〜っっ!
……というか、何? その依頼で大儲けすることを狙って、御使い様から『女神の涙』を騙し取ろうって魂胆なワケ?」
「……遺憾ながら……」
なる程……。ならば……。
「……潰す!」
そして、なぜキラキラした瞳で剣の柄を握っているのかな、ファルセット……。
真祖さま(フランセット) とそっくりだぞ、そういうトコ……。
「全部潰すのかな?」
恭ちゃんが、そう聞いてきた。
「とりあえず、御使い様を騙そうとした連中を、いくつかピックアップして。
依頼を出した貴族は、本人か家族が重病か大怪我、って可能性があるから、それを確認してから考える。別に悪意はなく、本当に『女神の涙』が欲しいだけかもしれないからね。
ギルドは、ただ貴族からの依頼を受けてボードに貼り出しただけだろうから、……まぁ、悪気はなかったと思うので、『 汝ら、(YE NOT) 罪なし(GUILTY) 』ってことで……」
『女神の涙』のことは、私がバルモア王国とその周辺国で流通させていた劣化版ポーションと共に、ここ70年チョイの間に書かれた宗教関連の本には必ず登場する。
そしてそれは神話の世界での話ではなく、実在していた薬だ。
バルモア王国がある半島部の国々では、子供の頃に劣化ポーションや『女神の涙』に救われた者達が、まだ何人も生き残っている。
今はもう失われた伝説の薬だけど、長命丹(高麗人参のような、滋養強壮の効果があるだけの薬)や、 一角獣(ユニコーン) の角(完全に、プラシーボ効果のみの薬)と並ぶ、3大神薬と呼ばれている。
その内、 一角獣(ユニコーン) の角は、この大陸では絶滅寸前であり人跡未踏の地でないと見つからないが、長命丹はお金を惜しまなければ手に入る。共に、有名ではあるが、効果は低い。( 一角獣(ユニコーン) の角は、プラシーボ効果のみ。)
そして最近 市井(しせい) で、昔、バルモア王国で広まったのと同じ噂が流れているわけだ。
……そう。『心正しき敬虔なるしもべには、女神の御慈悲が与えられる』という、宗教書の一節。
そりゃ、そんな噂を聞いたなら、藁にも縋る思いの者が、必死で手を伸ばして掴もうとするのも無理はないよ、うん……。