作品タイトル不明
350 活動開始 6
「「「「え……」」」」
一角獣(ユニコーン) の角の出所、懐の金貨、そして美人の若い女と、一粒で3度美味しい、カモネギ。
多少のリスクはあっても、ドカンと稼いで他の国へ逃げれば、一生安泰。ハンターギルドなどとは縁を切り、名を変えて暮らせば良い。
そう考えて、先の知れたハンター稼業でこつこつ稼ぐより、一発勝負を選んだ4人組。
……しかし、勝負に出た途端、3組の者達に介入された。
剣を佩いた小娘。
……これは問題ない。新米ハンターだろうが騎士見習いだろうが、たかが14〜15歳の小娘ひとりなど、何の脅威にもならない。
しかし、あとの2組が大問題であった。
5人組のBランクパーティ、『幻想の弓』。
向こうの方が人数がひとり多い、とかいう問題ではなく、到底、Cランクである自分達が勝てるような相手ではない。
そして更にそれより問題なのが、警備兵である。
自分達ハンターとは違い、対人戦闘に特化した訓練、それも自己流ではなく正規の訓練を受けた連中。
しかも、警備兵と戦えば、ハンター同士のいざこざとは違い、重罪確定である。
官憲を殺そうとしたわけであるから、良くて終身奴隷鉱山コース、悪ければ絞首刑か斬首刑……。
「あ、いや、こ、これは……」
何とか言い逃れようとするリーダーらしき男。しかし……。
「私の懐のお金と、ハンターとしての守秘権利がある事項を無理矢理吐かせようという目的で襲おうとした方々のようです。
あ、その後、私を慰み者にして、違法奴隷として売るか、殺して捨てるお積もりだと思います」
「「「「なっ……」」」」
キャン(レイコ) の 適切なフォロー(・・・・・・・) に、言葉を詰まらせる4人組。
「捕らえろ! 抵抗するようなら、殺しても構わん!」
「「「「えええええ!!」」」」
4人組が驚きの叫び声を上げたが、何のおかしなこともない。
警備兵が、抵抗する犯罪者を傷つけないように配慮して自分の命を危険に晒すような馬鹿な真似をするはずがない。
武器を持っているか、隠し持っているかもしれない犯罪者は、武器を捨てて、素直に両手を上げて無抵抗であることを示さない限り、攻撃されて当たり前。
抵抗をやめない犯罪者の命より、警備兵の命の方が優先されて当然である。
ほんの数十秒前までは、4人組は確かに真っ当な王都の住民であった。ハンターという 生業(なりわい) に就いた、まともな住民として暮らしている……。
しかし今は、完全に犯罪者扱いであった。
「い、いや、待ってくれ! 俺達はまだそいつには指一本も触れてねぇ! まだ何もしちゃいねぇよ!!
それに、これはハンター同士での交渉だ、警備兵が口出しするようなことじゃねぇ!」
しかし、 キャン(レイコ) がそれを聞き 咎(とが) めた。
「ふぅん、 まだ(・・) 、ねぇ……。それって、この後そうするつもりだったって白状してるわけなんだけど、気付いてる?」
「「「「あ……」」」」
馬鹿である。
まあ、それも状況に大して影響することではない。
『幻想の弓』は、 キャン(レイコ) が無事宿に帰り着くまでの護衛であり(残り僅か数メートルであるということには気付いていないが)、この連中がちょっかいを出した以上、それを排除して再発を防ぐ……通常であればギルドマスターに引き渡すが、今回は警備隊が絡んでいる以上、そちらに引き渡すことになる……という選択肢しかない。
ギルドマスターに引き渡せば、それなりの処分はあるものの、あくまでも『ハンター同士でのいざこざ』としてギルド内での処罰、つまりハンターとしてのペナルティが与えられるだけであるが、警備隊に捕らえられたとなれば、それは『犯罪者』である。
その違いは、あまりにも大きかった。
しかも、先程少女が申告した罪状は、未遂とはいえ、かなりの重罪である。
そして3組の介入者がいなければ、それはほぼ確実に実行されたであろうことは、疑いの余地がない。
普通であれば、それでも『未遂』であること、そして容疑者達が『そんなつもりはなかった! ただのハンター同士の冗談で、軽いナンパの声掛けをしただけだ!』と言い張れば、警備兵に捕らえられたとしても、厳重注意かギルドへの通知くらいで済んだ可能性もないわけではなかった。
……しかし、今回は駄目である。
何しろ、国王陛下からの強い命令が来ている、特殊護衛対象絡みの案件なのだから……。
なので、もしこれがその護衛対象者に対するものであったなら、剣を抜いて問答無用で取り押さえたであろう。
今回は特殊護衛対象者本人ではなく、その護衛に対するものであったから、これでもまだ警備兵……実は近衛兵の臨時勤務……達は、過激な行動は抑えている方なのである。
そしてファルセットも、もし絡まれたのがカオルであったなら、今頃は4人組を全員真っ二つにしていたことであろう。
しかし、いくらレイコもカオルと同等の『異世界の女神様』だと知ってはいても、やはり 女神の守護騎士(エインヘリヤル) である自分達が忠誠を捧げるのは、真祖である大陸の守護者、絶対英雄、鬼神フランを奇跡の力で生き返らせて神剣と超常の力を与えてくれた、女神カオルだけである。
なので、同じ女神でありカオルの御友人であるレイコも敬ってはいるが、不敬な態度を取る者がいても、カオルに対しての場合のようには逆上しないのであった。
……勿論、だからといって女神の一柱に対する不敬を見逃すわけではないし、いくら女神は人間からの攻撃など意にも介さぬと分かってはいても、剣を抜く素振りを見せれば、正当防衛として叩き切ることを躊躇うわけではない。
ファルセットは、この程度の連中であれば、相手が先に剣を抜き始めてからでも余裕で先に斬り掛かれる。それくらいの運動能力の差があるので、安心である。
そういうわけで、Cランクハンター4人組は、幸運にも、ぎりぎり命拾いしたのであった。
……ファルセットに関してのみは。
「連れていけ!」
先任者らしき者の指示で警備兵達は4人組の両手を縛り、引っ張っていった。
勿論、剣の柄に手をやった瞬間に警備兵が斬り掛かってくることが分かっているため、4人組は抵抗の素振りも見せていない。
もし抵抗しようとしたと誤解されるような動きをすれば最悪の事態となるためか、口では『誤解だ!』と必死に言い訳をしているが、動作としては無抵抗であり、殆ど動いていない。ただ、おとなしく引っ張られていくだけであった。
自分の出番がなくなったため、少し落胆したような顔で家に戻るファルセットと、黙ってその後に続く キャン(レイコ) 。
そしてそれを見て、どうやら自分達が受けた仕事が終わったらしいと知った『幻想の弓』の5人は、その場に立ち尽くしたまま、考えていた。
自分達がやったことといえば、『おい、お前達……』と言いかけて、 少女(ファルセット) に言葉を遮られた。ただ、それだけである。
これで、『何かあった』と判定されて小金貨を15枚貰えるのか。それとも、そんなものは何もしていないのと同じだと判定されて、5枚しか貰えないのかということを……。
* *
「ただいま〜」
「おか〜。あれ、ファルセットも出ていたの? 何かあった?」
「いえ、何もありません」
「何もなかったわよ。無事納品して、報酬の大半はギルドに預けたまま。
はい、これ、受け取った分」
ファルセットに続いてカオルにそう報告し、テーブルの上に金貨が入った巾着袋を置く、レイコ。
「よしよし、この国の金貨の大量入手と、 キャン(レイコ) の売名。そしてその キャン(レイコ) を護衛に雇っているということで、私の価値も上がる。 エインヘリヤル(ファルセット) の正体は隠したままで、目的は遂行された。よしよしよしよし……。
あとは、『御使い様劇場』をやりつつ、恭ちゃんのお店の王都本店を開いて、『すごい商品を扱う謎の商人、サラエット』の名を売れば……」
計画通り、というような顔で、満足そうにそんなことを言っているカオルであるが……。
確かに、カオルと キャン(レイコ) の名は広まりつつある。
カオルの望み通りに。
……しかし、その結果がカオルの望み通りになるかどうかは、また別の話であった……。