作品タイトル不明
346 活動開始 2
王都での活動は、順調。
私の裏の仕事、『なんちゃって御使い様劇場』も、時々ソロでハンターギルドの依頼を受けているレイコの方も……。
恭ちゃんは、賃貸店舗のいい出物が見つかるまで、お店(王都の店ができたら、支店ということになる)に週イチで商品補充を行う他は、王都で借りた家か『リトルシルバー』でゴロゴロしてる。
ファルセットは、いつも私にくっついて移動している。王都の家と、『リトルシルバー』の間を。
レイコはハンターとして名を上げる必要があるけれど、ファルセットにはそんな必要はない……というか、本職は『エインヘリヤル』であるファルセットは、ハンターとして名を上げるわけにはいかない。本格的な副業は禁止である。
ハンター登録と簡単な依頼程度であれば、他国での行動が便利になること、路銀が乏しくなった時に活動資金を現地調達できること等でメリットがあるため認められているらしいが、バルモア王国の正規の軍人である『エインヘリヤル』の一員が、ハンターとして名を上げるわけにはいかないだろう、うん。
レイコのハンターとしての活動は、主に素材採取である。
討伐依頼やら護衛依頼やら込み入った事情がある依頼やらは、受けない。
時間が掛かるし、依頼人や他のハンター達と一緒に行動するのは面倒なので……。
但し、素材採取と言っても、勿論レイコが受けるのはありふれた薬草の採取とかではない。
強い魔物が 跋扈(ばっこ) する大森林の奥にしかない稀少な薬草とか、遥か遠くの国でしか採れない鉱石とか、高ランクの魔物の素材とか、そういった類いのものである。
そういう入手困難なものは、駄目元で依頼を出す『本当に手に入るとは思っていないが、まあ、もし万一入手できれば儲け物』と考えて受付手数料を惜しまない者か、依頼が遂行されるはずがないが、高難度、高報酬の依頼をボードに貼り出すという、賑やかしというか、自分の店の宣伝というか、……そういう目的で依頼している者かの、どちらかである。
まあ、たまには息子の病気の特効薬となる素材を、というような、マジモンの依頼もあるが……。
とにかく、まぁ、そういった 不可能(ミッション・) な任務(インポッシブル) があるわけだ、田舎町とは違い、王都のハンターギルドには……。
で、レイコ……Cランクハンターのキャンは、そういうのを受注する。
困難ではあっても、それが確実にある、ということが分かっている場合と、既に採取済みであり、時間停止のアイテムボックスの中に入っているやつを。
いくら私達でも、存在しないもの…… 蓬萊(ほうらい) の玉の枝とか、龍の首の珠とか、燕の産んだ子安貝とか、そういった 類(たぐ) いのもの……は、確保できない。
火鼠の 裘(かわごろも) くらいであれば、恭ちゃんの母艦で作れるだろうけどね。
焼いても燃えない布くらい、簡単だろう。
今の私はただの野良巫女だし、爆発ポーションや恭ちゃんから貰った護身用の武器もある。
……そして、レイコがいない時には絶対に私から離れない、ファルセットがいる。
だから、レイコにはハンターとして名を上げたり、……そして、色々なことを楽しんで欲しい。
* *
「……依頼の採取物を納入に来ました」
「あ、はい。ええと、キャンさんですね。お受けになった依頼は……、って、えええええ!」
キャンが渡した受注証を見て、動揺する受付嬢。
「……あ、あの、やっぱり駄目だった、という御報告ではなく……?」
「納入です」
「…………」
「ここに提出していいですか?」
「……あ、ハイ、 嵩張(かさば) るものではないので、ここで問題ありませんが……、ほ、本当に……?」
「はい」
ゴトリ……
バッグから取りだして窓口に置かれた、長く、真っ直ぐの1本の角。
そして、それを手に取り、真剣な顔でじっくりと確認する受付嬢。
「……本物だ……。イッカクの角とかの偽物じゃない……」
イッカクというのは、真っ直ぐで長い角……実際には、牙……を持つ、鯨類の海洋生物である。
地球にも、同様の生物がいる。
そして、地球においてそれが昔、ある物の偽物として流通していたのと同じく、この世界においても、同じ物の偽物として出回っていることが多い。
それが、 何の偽物か(・・・・・) というと……。
「 一角獣(ユニコーン) の角……」
受付嬢の声は、驚愕のためか、自分が思ったより大きくなってしまったらしい。
飲食コーナーにいるハンター達の耳に届くくらいに……。
ガタッ!
ガタガタガタッ!!
そして、思わず腰を浮かせたハンター達。
「「「「「「 一角獣(ユニコーン) の角……」」」」」」
それは、驚くのも無理はない。
一角獣(ユニコーン) の角は、毒消しや万病の治療薬として珍重されており、貴族や王族、そして金持ちの商人達が大金を払ってでも手に入れたいと思う、 垂涎(すいぜん) の品である。
……尤も、その効き目はあくまでも 気のせい(プラシーボ効果) レベルであり、別に魔法薬のような絶大な効果があるわけではない。
しかし、それは売り手側にとっては関係のないことである。
買い手が欲しいと思い、そして売り物が偽物ではないのであれば、売り手には何ら恥じることもない。
特に、それが入手が非常に困難な品である場合には、特に……。
そう。 一角獣(ユニコーン) の角は、入手が非常に難しかった。
その角を求めて乱獲され、元々数が少なかったその個体数を更に大きく減じ、今ではもう人間の居住域では見ることがない。
ということは、それを入手するには、人跡未踏の地へと 赴(おもむ) かねばならない、ということである。
そして、人跡未踏の地、イコール強い魔物の巣窟、ということである。
砂漠や荒れ地というわけでもないのに人間が近寄らない場所というのは、そうなる理由があるということであった。
「「「「「「…………」」」」」」
どう見ても、15〜16歳くらいにしか見えない、小娘である。
体つきや動き方から見て、戦闘技術に関しては完全な 素人(シロウト) 。
仲間がいる様子はない。
そんな者に、 一角獣(ユニコーン) が狩れるわけがない。
いや、そもそも、 一角獣(ユニコーン) がいるところへ行けるわけがない。
ということは、どこかから入手したということであり、1本あるということは、 もっとある(・・・・・) ということである。
わざわざ 一角獣(ユニコーン) の生息地まで行って、1頭しか狩らずに帰る者はいない。
そして 一角獣(ユニコーン) の生息地……魔の森とか、帰らずの森、死の山脈、悪魔の峡谷とか……であれば、他の稀少な魔物や動物、薬草、鉱石、その他諸々も……。
「……ギルドマスターに会っていただきます。カレン、ギルマスに報告を!」
「は、はいっ!」
受付嬢に指示されて、若い女性が飛んでいった。
おそらく、受付嬢がキャンを連れていく前に、ギルマスに状況を説明するためであろう。
さすがに、何の事前報告もなくいきなり女性ハンターを連れていくわけにはいかない。
「「「「「「…………」」」」」」
そして、ハンター達とギルド職員の視線が、キャンに集中するのであった……。