作品タイトル不明
347 活動開始 3
「何だと! 一角獣(ユニコーン) の角が納入されただと!!」
愕然。呆然。
「あれは、お嬢様の病気が治るならばいくらお金が掛かっても構わない、という貴族様からの、駄目元依頼だろうが!
そりゃ、納入依頼だから、別に自分で狩らなくても、どこかで買ったりしても問題ないが……、普通、万一そんなものが手に入ったら、オークションで思い切り値を吊り上げるか、国王陛下に献上して領地なしの一代貴族あたりに取り立てていただくもんだろうが!
そんな、普通にギルドに持ってくる奴がいるかよ……」
ドアを乱暴にノックして、入室許可の声も待たずに部屋に飛び込んで来た 若手職員(カレン) からの叫ぶような報告を聞き、とても信じられない、という顔でそう言うギルドマスターであるが……。
「知りませんよ、私にそんなこと言われても!
とにかく、すぐにローレイア先輩が本人を連れて来ます! ……現物付きで」
報告すべきことは、全て言った。
なので、普通であれば持ち場に戻るべきであるが、なぜか 若手職員(カレン) は部屋の隅へと移動して、黙って突っ立っている。
……どうやら、あの女性ハンターがどうやって 一角獣(ユニコーン) の角を手に入れたか、 興味津々(きょうみしんしん) で、このまま居座るつもりのようである。
秘密保持には厳しいギルドの職員なので、聞いたことを部外に漏らすようなことはないであろう。
なので、ギルドマスターはそれを黙認……というか、頭の中が混乱していて、そちらに回す分の脳のリソースに余裕がなく、意識から外れているだけなのであろう。
そして、まだギルドマスターの動揺が収まらないうちに……。
コンコン!
「失礼します。御報告したいことがありまして、ハンターの方をおひとり、御案内いたしました」
「……は、入れ!」
何とか動揺を押さえ込み、威厳を保とうとするギルドマスター。
そして、まだ若い……成人して間もない年齢の……少女を連れて入ってきた、受付嬢のローレイア。
一瞬、部屋の隅に立っているカレンの方に目を遣ったが、ギルドマスターが退室を促さないため、そのまま報告した。
「ヴォーレル伯爵家からの塩漬け依頼……複数の者による同時受注可、失敗時の違約金なし、事後処理による受注・納入可、というものですが、それが達成され、採取依頼品が納入されました。
…… 一角獣(ユニコーン) の角、成獣、美品、ランクは最上級です」
「…………」
心構えはしていたつもりであるが、言葉が出ないギルドマスター。
そして、キャンがバッグに戻していた角を取り出して、ギルドマスターの 執務机(デスク) の上にそっと置いた。
「……」
拡大鏡(ルーペ) を取り出して、角をじっくりと調べるギルドマスター。
「…………」
「………………」
「……………………馬鹿な……」
そして、震える手でルーペを置き、顔を上げて、これを持ってきたというハンターの顔を見た。
「……ん? お前は確か、最近地方から出てきたばかりとかいう、新参の……」
「あ、はい、田舎から出て来ました、Cランクのキャンディーダと申します。ハンター流に、縮めて『キャン』と名乗っています。どうぞよろしくお願いいたします」
ハンターらしからぬ丁寧な物言いに、訛りのない正確な発音。そして好感の持てる態度。
それが、ギルドマスターの記憶を呼び起こした。
つい先日の報告にあった名と、その詳細説明に書かれていた 人物評(プロフィール) に関する記憶を……。
そして、ギルドマスターの顔色がサアッと蒼ざめた。
「み……、せ……、じ、自由巫女様の護衛依頼を受けたという……」
動揺が、全く隠せていない。
「あ、はい、もうひとりと一緒にお受けしました。
でも、最初はひとり雇うだけのおつもりだったところがふたりになりましたので、時々ならひとりずつ他の依頼を受けてもいいと言われまして……」
他の依頼の片手間に簡単な依頼を受ける、ということは、別に珍しくはない。
しかし、 一角獣(ユニコーン) の角の納入というのは、他の依頼の片手間に受けるというようなものではない。
……決して!!
そもそも、自分で狩るなら、とんでもなく遠方の、 途轍(とてつ) もなく危険な場所へ行かねばならない。
購入するなら、やはりどこか遠くの国で、羽振りの良い上位貴族でないと払えないような金額で購入するしかない。
そして、金額以前の問題として、普通の平民がそのようなものを買えるわけがなかった。
一部の大金持ちを除き、平民など入ることができない特別な高級オークション会場。
市場に出回ることなどなく、特殊なルートで王族や上位貴族に直接購入の打診をされるか、国王陛下に献上されるような品。
……とても、一介の若手ハンターが買えるようなものではなかった。
しかし、そんなことはもう、どうでもよかった。
この若い少女ハンターが コレ(・・) を持っているということに対する不信感や疑問など、とっくに吹き飛んでしまっている。
……うまく情報を聞き出して、あわよくば、などというちっぽけな野心と共に……。
出元が あのお方(・・・・) だとすれば、これがここにある理由など考えるまでもなく、疑う余地などない。
女神が、御自分が寵愛なさっている者にお贈りになるならば、巨大な宝石であろうが 一角獣(ユニコーン) の角であろうが、大した違いはない。
そしてこれは、別に贈り物として大事に持っていろ、というような類いのものではなく、換金して慈善活動の資金にするように、ということで与えられたものなのであろう。
そしてそれを、護衛の者に換金するよう命じた、と……。
依頼を受けた形にしたのは、 一角獣(ユニコーン) の角の採取依頼は大抵のギルド支部には塩漬けの依頼としていつでも貼ってあるので、普通に換金のために持ち込むよりは依頼を受注しての納入である方が自然な形になるとでも考えたのか……。
(小娘がひとりで塩漬けの依頼を受け、数日後に 一角獣(ユニコーン) の角を納入……。
どこが『自然な形』なんだよっ!!)
そのギルドマスターの心の中の叫びは、ハンターギルド関係者のほぼ全員が賛同してくれるであろうものであった。
「……あ、あの、ええと……」
「キャンです」
どうやら自分に話し掛けようとしていて、名前を忘れて困っているらしいと察した キャン(レイコ) が、助け船を出してやった。
ついさっき聞いたばかりなのに名前を忘れるというのは失礼なことであろうが、動揺の激しいギルドマスターを責めるのは酷であるし、レイコもそれくらいの心遣いはする。
「あ、ああ、キャン……さん。この 度(たび) は、塩漬けの高難度の依頼を達成してくれたこと、感謝する。以後も、この調子で頑張ってくれたまえ!
……あ、勿論、現在受けている自由巫女様の護衛任務が第一優先だがな! はっはっは!」
「あ、はい、ありがとうございます。頑張ります……」
何だか、無理をしているかのような引き攣った笑い声のギルドマスターに、少し違和感を覚える キャン(レイコ) であるが、別に問題があるわけではない。
(何だ、わざわざ呼び付けられたから、何か色々と聞かれるかと思っていたのに、どうやら難しい依頼をこなした新参者に対する激励だったらしいわね。
厳(いか) つい顔をしているから少し警戒していたのに、割といい人じゃないの。
これは、今後の活動がやりやすそうね……)
キャン(レイコ) はそんなことを考えているが、勿論、そんなことはなかった……。