軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

345 活動開始 1

恭ちゃんのお店、『トレーダー商店』の王都本店のための貸し店舗を探している。

商店は、信用度を上げるためには貸し店舗ではなく持ち店の方がいいのは分かっているけれど、王都は不動産価格が高い。

それに、何かあった場合……持ち主に圧力を掛けられたり、悪党が強引に買い取って大家が替わったり……には、さっさと移転するし、王都やこの国自体から去ったりすることもあり得るからね。

以前、薬屋をやっていた時に、そういうことがあった。私は、学習する女なんだよ、うん。

普通なら、そういうことはあまりないかもしれない。

でも、店主が未成年に見える少女で、しかも扱っている商品が 普通じゃないもの(・・・・・・・・) だった場合には、その確率が跳ね上がるんだよなぁ……。

うん、知ってる。

まあ、物件は、別に焦って探すことはない。

焦ると、足元を見られたり、不良物件を掴まされたりするからね。

……特に、こっちが無知な小娘だと 侮(あなど) られたりした場合は。

だから、そういうのはのんびり構えて、良き出会いを待つべきだ。

それに、恭ちゃんはちょっとひとりにし過ぎた。しばらくは、 王都(ここ) とリトルシルバーで、のんびりしてもらおう。

……週イチで、トレーダー商店支店(王都店が本店になる予定)への商品輸送と接客指導とかの仕事はあるけどね。

ま、搭載艇で深夜に街の近くの森に降ろして、翌朝、アイテムボックスから出した荷馬車(馬付き)で運び、その日一日は商売の指導やら帳簿の確認やらをやって、また夜中に搭載艇で 王都(ここ) かリトルシルバーの近くに降りるだけだ。

そして私は、昔懐かし、『女神の眼』の活動を再開していた。

* *

「ごめんください……」

既に夕食が終わっているであろう時間に、スラムというわけじゃないけれど、まぁ、そこそこ貧困そうなお宅を訪問した。

病気の子供がいるという、 心正しき夫婦(・・・・・・) の住まいだ。

うん、昔懐かし、久し振りの、女神の涙の訪問販売だ。

代価は、その家が負担なく用意できる程度の品。

ダイコン1本だったり、子供が作った木彫りのお守りだったり……。

ま、昔バルモア王国で何度もやっていたことだ。手慣れたもんよ!

「はい……」

ドアを開けてくれたのは、奥さんらしき女性。

相手を確かめもせずにドアを開けるのは不用心だけど、まぁ、こんな貧乏そうな家に押し入る強盗はいないだろうし、あきらかに子供の、それも女の子の声だから、警戒しなかったのかな。

後ろには、旦那さんがいるだろうし。

「何の御用でしょうか?」

こんな夜中に、人が訪ねて来るような家ではない。

その自覚があるのか、 怪訝(けげん) そうな顔をしながらも、普通に応対してくれる。

やはり、人が 好(い) いのだろう。普通、こんな夜中に見知らぬ子供が訪ねてきたら、もっと邪険に扱うものだろう。

まあ、 物乞(ものご) いならこんなところには来ないよね。

せめて、もう少し余裕がありそうな家に行くだろう。

「……薬師の訪問販売です。今なら、どんな病気でも治る薬が、何とダイコン1本で!」

「「…………ハァ?」」

後ろにいる旦那さんと、声が揃った。

さすが、夫婦!

「「…………」」

いかん、あまりにも怪しすぎたか、返事がないぞ……。

「あ、あの〜……」

「……どうぞ、中へ」

「……え?」

「お入りください」

「えええええええっ!!」

中に招き入れるか、普通……。こんな怪しい、夜の訪問者を……。

……人を疑うということを知らない、馬鹿なのか?

いや、多分そこまで切羽詰まっていて、もう詐欺師だろうが悪魔だろうが、何も怖くないのだろう。

うん、女神が慈悲を垂れるのにふさわしい人間、というわけだ。

「あの……、薬師、様、……ですか?」

まぁ、未成年の小娘にしか見えないだろうから、信じてもらえないのも無理はない。

バルモア王国でも、活動を始めたばかりの頃は、そうだったよな〜。

そのうち噂が広まって、信じてもらえるようになったけど……。

懐かしいな、うん。

じゃあ、さっさと進めるか。

久し振りだけど、昔取った 杵柄(きねづか) 、身体に染み付いた説明パターンは忘れちゃいない。

「『 敬虔(けいけん) なるしもべ達を癒やすように』との、女神からの御宣託です。病気の者は?」

「……は、はい、こっ、こちらですっ!」

狭い家なんだ、ベッドで寝ている子供の姿は見えているんだけどね。

ま、お約束台詞、ってやつだ。

やけに簡単に従ってくれているけど、詐欺を疑うにも、大金を要求するならばともかく、対価はダイコン1本、って言ってるからなぁ。

さすがに、詐欺にしては要求する対価が安すぎるだろう。

それでも、浮浪児とかならダイコン1本のために危険を冒すこともあるだろうけど、私は高価そうな身なりをしているし、そもそも女神が実在していてたまに神罰を落とすこの世界で、女神の名を騙って嘘を吐くような勇者はいないからねぇ……。

* *

子供を診察する振りをして、ポシェットから『女神の涙』を出して、飲ませる。

そして、女神に捧げる感謝の印として、適当なものを貰う。

ダイコンはなかったので、今回はタマネギを1個貰った。

……ま、ルーティン・ワークだ。

「私のことは、あまり触れて廻らないように。

……口が堅く信用できる者であれば、向こうから聞いてきた場合には話しても構いませんが、口止めは忘れないように。

それと、貴族や警吏が聞いてきた時は、相手が善人であると思った時と、喋らないと危害を加えられそうになった時には喋っても構いません。

但し、その時には必ず、この連絡先に状況を伝えなさい」

そう言って、紙片を渡す。そして……。

「では、皆さんに神の恵みがありますように……」

涙を流しながら感謝の言葉を続ける夫婦と、ベッドの上で身体を起こしてぽかんとしている男の子を後にして、離脱!

* *

「という感じで、復帰第一戦は無事完了したよ」

「そんなの、すぐに情報が漏れちゃうじゃん?」

私の報告に、呆れたように突っ込みを入れる恭ちゃん。

「勿論、それは織り込み済みだよ。全く情報が漏れなかったら、奇跡の聖女様の存在が上の方に伝わらないでしょ?」

「……あ、そうか……」

恭ちゃんは、そういう駆け引きは苦手なんだよなぁ。

いつも、直球ストレート。正面からロケット弾で正門をブチ破る、というのが恭ちゃんのやり方だから。

……そして、せかいがはめつする。