作品タイトル不明
343 防衛態勢 4
私とレイコとファルセットの3人で紅茶を飲みながらくつろいでいると、ドアノッカーの音がした。
……いや、まだ引っ越しの挨拶廻りもしていないし、私達がここへ引っ越してきたってことを知っている者は、殆どいないはずだ。
ええと、一応、不動産屋へは挨拶に行った。
勝手に住み着いていると思われちゃ大変だから、『商人サラエットに頼まれて、無人のままで家が傷まないように、そして犯罪者とかが勝手に住み着いたりしないように、管理人代わりに住むことになった。サラエットも、すぐに引っ越してくる』って説明して……。
不動産屋としてはそれは歓迎すべきことだったらしく、何の問題もなく私達が住むことを了承してくれた。食べ残した茶菓子を包んでくれるほどの歓待振りだったよ。
……いや、そういうのは下働きの女の子とかに配ってやりなよ……。
とにかく、家賃もちゃんと払っているし、昨日の今日で、不動産屋がわざわざやってくる用があるとは思えない。
そりゃ、宝石店の店員だとか、一部の貴族や王様とか、警備隊の人だとか、私のことを知っている人は何人かいるけれど、その私がここに引っ越したということを知っている人はいないんだよなぁ……。
ま、会えば分かるか。
当然のことながら、ファルセットは私の右側にピッタリと張り付いているし、レイコは後方3〜4メートルくらいのところで、いつでも魔法が撃てるようにスタンバっている。
ドアを開けるのは、私。
ファルセットは、客がいきなり攻撃してきた場合に備えて、剣の柄を握っていなきゃならないからね。
勿論、私もドアを開ける時は、身体をドアの正面から外している。
本来は、事前に来客が確認できるように、テレビモニターを付けておくべきだ。
リトルシルバーには勿論設置しているし、当然ここにも設置するのだけど、まさかこんなに早く来客があるとは思ってもいなかったため、まだ用意していないんだよね。
装置は、恭ちゃんにお願いするつもりだったし……。
そういうわけで、すぐにモニターを付ける予定だったから、ドアスコープも付けていない。
ま、ここは借家だから、勝手にドアに穴を開けるわけにはいかないし。
そして、『は〜い、どなたですか〜?』などと声を掛けることなく、いきなりドアを開けた。
……勿論、相手に攻撃のタイミングを計らせないためだ。
身の安全を図るためには、慎重に慎重を重ねる。
我が長瀬一族の家訓である。
まぁ、いきなり神様に身体を上下 真(ま) っ 二(ぷた) つにされちゃあ、どうしようもなかったけどね!
とにかくそういうわけで、わざと思い切り勢いよくドアを開けたところ……。
「うわっ!! ……あ、ど、どうも! わ、私達、近くに引っ越してきました……。
こっ、これ、つまらない物ですが……」
そう言って手土産のお菓子を渡してきた、男性3人の訪問者達。
「あ、わざわざ御丁寧に。どうも……」
一応、作法通りに挨拶して、お菓子を受け取った。
……この、安めのお菓子を持参して引っ越しの挨拶に回るというのは、日本の風習であって、この大陸にはそんな風習はない。
しかし私は、 第一シーズン(アイテムボックス前) に『女神の眼』の子供達に住む家を与えた時に、周囲の家にみんなを連れて挨拶廻りをした。子供達のことを付近の人達に理解してもらい、何かあった時には助けてもらえるように、と考えて……。
そして、引っ越しはその1回限りだったし、そのことは当事者達しか知らないから、別にその風習が広まるようなことはなく、単発で終わった。
なのに、この連中がそれを知っているということは……。
それに、この大陸じゃ、お土産を渡す時に『つまらない物』なんて言わない。『すごく美味しいよ』とか、『とっても素敵な物だよ』とかいう、日本式ではなく欧米式の言い方をする。
……というか、以前会ったマリアルの手の者が言ってたよね、『「女神の眼」の連中も来ている』って……。
私への接触は控えているみたいだと言っていたけど、まぁ、マリアルの配下が接触したと知れば、連中も接触してくるよねぇ。当たり前だよ……。
それに、警備の犬達が何もせずに通した、っていうのが、そもそもおかしい。
でも、エミール達には教えておいたんだよねぇ、犬に『ナカマ、ミカタ、メガミサマノシモベ』と受け取られるような、犬の言葉の発音を……。
他の者に聞かれれば、犬と会話をしようとしているおかしな人だと思われるだろうけど、野犬に襲われた時とか、危機に陥った時に近くに犬がいた時とかに役に立つかも、と思ったんだよ。
もしそれを、腹心の部下達にも伝えたとすれば……。
それなら、犬達が騒がなかったことの説明が付く。
まぁ、それでも、いつでも襲いかかれるようにと犬達が客の後方で攻撃体勢を取っているんだけどね。
犬達も、馬鹿じゃないんだ。初対面の人間を無条件に信じたりはしないか。
「……で、エミール達の遣い?」
「はい! 女神カオル様に拝謁できるとは、光栄の極み……」
あ、やっぱり……。
でも、ファルセットもレイコも、まだ警戒態勢は解いていない。当たり前だ。
「普通の喋り方でお願い。エミールから聞いてるんでしょ、私がそういう喋り方は嫌いだって」
「は、はい。では、失礼いたしまして……。
カオル様、レイフェル伯爵家の者達が拝謁しました以上、カオル様のこの世界における最初のしもべたる我ら『女神の眼』が後塵を拝すること許容できず……」
あまり喋り方が変わっていないけれど、それは仕方ないか。
ああ言われたからといって、いきなり自分達の信仰の対象である女神様にタメ口を利くことができる者は、滅多にいないだろう。
日本人に、いきなり 天照大神(あまてらすおおみかみ) とタメ口で話せ、と言うのと同じだ。
……そりゃ無理か。
「あ〜、分かった分かった! ま、エミールがフランセットに出し抜かれて、黙っているわけがないよなぁ……」
「御意!」
フランセットが派遣したファルセットや、マリアルが派遣した連中……犬と鳥を含む……を受け入れておいて、エミールのところだけパス、とかやると、エミール本人が怒鳴り込んで来そうだよなぁ。老体で、大陸を横断して……。
さすがに、そりゃマズい。
何か、適当な交流のネタは……、って、馬鹿か、私!!
今、一番欲しかったヤツじゃん!
「私からの仕事の依頼は引き受けてもらえるの?」
「「「勿論です!!」」」
そう身を乗り出すな、ツバを飛ばすな!
「報酬は……」
「「「要りません!!」」」
「お、おう……」
ま、そりゃそうか。
信仰している女神様からの依頼に、お金を取る信者はいないわなぁ……。
「……で、調査や情報収集のノウハウは伝わってるの?」
「はい!」
「はい!」
「……はい!」
おや? 返事がズレたぞ?
「みんなの担当は?」
「『眼』です!」
「『耳』です!」
「『口』です!」
コイツら全員、諜報部門の連中ですやん……。
薬種問屋の従業員と違うんかい……。
いや、そんなことだろうと思ってはいたけどね。
あのエミールが差し向けてきた人材だからねぇ……。
そして、眼と耳は調査や情報収集だろうけど、『口』っていうのは、デマや煽動、世論誘導とかの、……謀略担当じゃん……。