軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

342 防衛態勢 3

「……よし、堪能した……」

満足そうな顔の、私、レイコ、ファルセット。

そして、ぐったりとした犬、猫、そして鳥。

本日の 生贄(いけにえ) に選ばれた、不幸な1頭と1匹と1羽である。

……いや、仕方ないだろう!

世の中、 抗(あらが) えない誘惑というものがあるのだ!

1頭と1匹と1羽も、別に嫌がっていたわけじゃない。『女神様がお望みとあらば……』と、殉教者のような目をしていたけれど……。

そして、すぐに私の『魔性の指』の 虜(とりこ) になったのだ。

「じゃあ、庭に出て、みんなと警備態勢についての打ち合わせをしようか。

魔法や奇跡抜きでの物理的な警備の話だから、ファルセットの専門知識に期待してるよ」

「お任せあれ!!」

うん、少人数での奇襲や強襲とかの戦術的な話になると、そういう専門知識があり訓練を受けた者の意見を聞くのが正解だろう。

レイコもこういう文明レベルにおける戦闘については色々と勉強してきたらしいけれど、それはあくまでも 地球での話(・・・・・) だ。ここの武器、ここでの戦闘方法、そしてここでの常識とは違うだろう。

地球の中世での戦闘方法には、捕らえた魔物を相手にけしかける、とかいうのはないし、暗器の 類(たぐ) いも、地球にはないおかしなものがあるかもしれないし……。

犬や鳥による家の警備は24時間態勢だけど、別に人間の警備兵みたいにずっと槍を持って立っている必要はない。犬なんだから、寝ていても不審者が来れば気付いて目覚めるだろう。

『不寝番』じゃなくて、『不審番』ってわけだ。

庭にちょっとした犬舎を建ててやり、雨の日や風が強い日、寒い時とかは中で寝てもらい、その他は庭で遊んだり草の上で寝たり、自由にしてもらえばいいか……。

あ。

前にも少し考えたことがあるけれど、リトルシルバーにも警備犬、警戒鳥、諜報猫を配備するという案はどうかな。

一応、今はハングとバッドがそれらしきことを担当してくれているけれど、馬は対人戦闘には向かないし、図体がデカいから屋内には入れないからねぇ……。

出張手当を付けたり、恋人……恋犬や恋猫、恋鳥……と一緒に勤務させてあげるとか、人間の子供と遊べるとか言えば、人間が好きな者は応募してくれるかも……。

この地が好きだとか、この街に住む仲間達と一緒にいたいとかいう者以外は、向こうに永住してくれる者もいるかも……、って、馬鹿か、私!

そんなの、リトルシルバーがある町、ターヴォラスにいる野良…… 自分で生計を(・・・・・・) 立てている犬(・・・・・・) 達から募集すれば済むことじゃん!

ボケてたなぁ……。

現地雇用なら、雇用していない犬達にも雇った連中から話が伝わって、何かあった時……子供達の危機とか……には、たまたま居合わせたフリーの犬や猫、鳥達が助けてくれるかも。謝礼目当てとか、自分の仲間達に味方してくれる者の眷属だから、とかいう理由で。

まぁ、とにかく今は、ここでの防衛計画についての作戦会議だだだ!!

* *

「……でした、と……。

よし、できた! あとは、換字作業を、と……」

今、書き上がったばかりの文章を、取り出した1冊の聖典を開いて換字作業……暗号化……する、ファルセット。

送り手と受け手が同じ本を使用することによる、初歩的な換字式の暗号である。

しかし、初歩的とはいえ、この文明レベルで、しかも換字のキーとなる本がなくては、コンピューターが使えるわけでもないこの世界の者達には簡単に解読することはできない。

しかも、ファルセットが換字作業に使用している女神カオル真教の聖典のひとつであるこの本は、印刷物ではなく筆耕屋による手書き、つまり肉筆写本である。

そのため、同じ内容、同じ文章ではあっても、筆耕者により文字の大きさ、1行当たりの文字数、1ページあたりの行数にばらつきがあり、同じ筆耕者に特別に指示して同じ文字数、同じ行数で筆耕させたものでなければ暗号の遣り取りには使えない。

……つまり、文明レベルが低いからこそ暗号強度が上がるという結果を生むわけであった。

ファルセットが書いているのは、勿論、国元の真祖様、フランセットへの報告書である。

途中で何者かに奪われたり盗み読みされたりしても問題ないよう、暗号化して送る。 女神の守護騎士(エインヘリヤル) として、当然の配慮である。

あまり頻繁に暗号を使うと解読のためのデータが多くなるため、それは 慎(つつし) むべきである。

……しかし、 女神の守護騎士(エインヘリヤル) にとり、そしてフランセットにとり、女神カオル様に関する報告より重要なことなど、何もない。

なのでこの暗号も、『今使わずに、いつ使うのだ!』というやつである。

少なくとも、ファルセットにはこの報告を暗号ではなく普通の文章、 平文(ひらぶん) で送るという選択肢はなかった。

……帰国後に、真祖様から締め上げられたくなければ……。

「この報告書は、『女神の眼』の連中の定期連絡便で運んでもらいますか……。

連中、絶対に中を見るでしょうけど、暗号文ですし、万一解読されたとしても、『女神の眼』であれば、別に構いませんからね。

少なくとも、ここのギルドや商人、一般のハンター、そして妖怪ババアやアリゴ帝国の奴らに託すよりは、千倍はマシです」

確かに、今ファルセットが挙げた者達の中で、ファルセット達と同国である者は、『女神の眼』だけである。

うしろのふたつは、女神カオル真教の信者としては同志であり、敵対するような関係ではないが、……皆、カオル様が 此度(こたび) の休暇で久々の地上界を楽しむために大陸を一廻りされた後は、絶対に自国で腰を落ち着けていただきたい、と考えているに決まっている。

その点においては、皆が皆、油断できない敵であった。

「……うん、やはり利害関係から考えて、ここでの活動で一応『ほぼ完全な味方』と考えていいのは、『女神の眼』だけですね。

……もしふざけた真似をしてくれた場合、真祖様が連中の総本山に怒鳴り込みに行かれますから、まず騙し討ちをされる心配はないでしょう。

いくら『ナガセの子ら』であっても、『狂犬フラン』の殴り込みには 敵(かな) わないでしょうからね……」

フランセットは、『大陸の守護者』、『絶対英雄』、『勇者』等のカッコいい呼び名だけではなく、『脳筋』、『狂犬』、『自重という言葉を知らない女』等の、ネガティブな呼び名もたくさん持っていた。

『脳筋』は、 本人達(エインヘリヤル) は褒め言葉だと思っているらしいが……。

そして女神カオル真教も、完全な一枚岩というわけではないようであった。

* *

「御使い様としての活動を開始するよ。病人や怪我人を密かに治す活動をして、そしてごく一部のまともな有力者にだけそれが『バージョンアップ版の、聖女エディス』の仕業だとリークして、権力があり、かつまともな協力者を確保する!

情報を流してもらえなかった連中は、謎の聖女に気を取られて、ショボい加護しかない野良巫女のことなんかスルーしてくれるだろうから、一石二鳥だよ!」

「……情報が漏れなければ、ね……。

まぁ、それはいいけど、治癒する対象を選ぶための情報収集はどうするのよ?

昔は『女神の眼』とかいう諜報兼護衛の組織を使ってたんでしょ?

今はまぁ、護衛戦力は充分だけど、情報収集の方は無理でしょう? 猫たちは、様子を探るのには使えても、人間の言葉が分からないから情報収集には使えないし……。

まぁ、可愛いしもふもふだから、癒し要員としては超強力な戦力だけど……。

カオル、あなたまさか、私に魔法で姿を消して街中の怪我人や病人を探して回れ、なんて言わないわよね?」

にっこりと微笑んでそう言ったレイコに、私は慌てて、ぷるぷると首を横に振った。

……レイコの目が、全然笑っていなかったから……。

いや、さすがにそれは無理だと思うよ。姿を消したレイコが張り込んでいても、そう都合良くその場で怪我や病気の理由や程度を喋ってくれたり、その者達が善人か悪人かが分かったりはしないだろうから。

かなりの悪党でも、自分の家族や友人に対してはすごく良い人だったりもするし……

それに、私は『女神の涙』による救済活動は、その対象を一般の平民を中心として行うつもりだ。

後ろ盾にしたいのは金持ちや貴族だけど、だからといって、別に救済の対象を金持ちや貴族にしなきゃならないというわけじゃない。

その人達には、『野良巫女エディスのようなショボい加護ではなく、奇跡と呼べるレベルの強い加護を持っている聖女』が存在し、……そしてそれが野良巫女エディスの隠されたもうひとつの姿である、と、 どこからか情報を(・・・・・・・・) 得させればいい(・・・・・・・) 、というだけだ。

……街中の平民を調べるなんて、貴族を調べるよりずっと難しいよっ!

貴族なら、対象人数が少ないし、怪我人や病人の情報は比較的簡単に手に入るだろう。何かの事情で隠されている場合を除いて……。

使用人、薬師や薬種屋、神殿等、情報の入手先が多いし、貴族の間でも話題になるだろう。

でも、平民だと貧乏で医者に掛かれず、薬も買えず、神殿で祈祷してもらうためのお布施もなく、という場合が多いから、怪我人や病人の情報が掴みにくい。

うむむ、どうすれば……。